省エネ法とは?企業が行うべきこと、遵守すべき理由を徹底解説

省エネ法とは?企業が行うべきこと、遵守すべき理由を徹底解説

普段何気なく、そして制限なく電気や水を使っている身からすると、地球上の「エネルギーが有限である」ことを忘れてしまうことがあります。実際、地球上の石炭や石油といった化石燃料は枯渇しているだけでなく、それらの使用により大量のCO2が排出され、地球温暖化による気候変動という実害を伴う問題が発生しています。

そこで日本では、企業のエネルギー使用状況を報告し、最適化や再エネへの転換を求める「省エネ法」ができました。

今回はこの省エネ法について、改正された内容や企業が遵守するべきこと、また企業にとってのメリットや省エネを実現するためにできることについて、詳しく解説していきます。

省エネ法とは?

省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)とは、1997年に制定されてから2023年4月に至るまで何度も改正されてきた法律です。この法律では、事業者に対して次に挙げる2つの点を求めています。

  • エネルギーの使用状況に関して、定期的に報告する
  • 非化石エネルギーへの転換を進める取り組みの計画を策定する

定期報告と計画書の提出が要求されるのは、エネルギー使用量が「1,500kl以上」の特定事業者・特定連鎖化事業者、または使用量が「3,000kl以上」の特定荷主です。

該当する事業者は毎年7月末まで(特定荷主なら6月末まで)に、環境省により決められた様式で電子申告を行う必要があります。

省エネ法の目的

  • エネルギーの合理化・クリーンエネルギーへの転換

2023年4月の改正理由と変更内容

これまでに省エネ法は何度も改正されており、直近では「2023年4月」に改正省エネ法が施行されました。変更された主な内容は、次のとおりです。

  • エネルギーの定義を非化石エネルギーまで拡大
  • 中長期計画の提出と定期的な使用状況の報告を義務化
  • 電力需要の明確化と最適化・適切なDRの実施

エネルギーの定義を非化石エネルギーまで拡大

従来の省エネ法における「エネルギー」の定義は、石油や石炭、揮発油や可燃性天然ガスなどの化石エネルギーのみを指していました。

しかし改正省エネ法では、木材や黒液、水素やアンモニア、太陽熱や太陽光などの「非化石エネルギー」も含まれるようになりました。これにより非化石エネルギーも化石エネルギーと同様に、合理化・効率化を図る必要性が生じます。

中長期計画の提出と定期的な使用状況の報告を義務化

従来の省エネ法では要求されなかった、非化石エネルギーへの転換に関わる「中長期計画書」と「定期報告書」それぞれの提出が、改正省エネ法では義務化されています。

作成方法や様式に関しては、資源エネルギー庁の省エネポータルサイトより確認できます。エクセル・アプリ形式で報告書支援作成ツールも提供されているため、該当事業者はぜひ活用しましょう。

電力需要の明確化と最適化・適切なDRの実施

改正省エネ法では、企業は時間帯や季節により変動する需要に合わせて、電力の使用量を調整する必要があります。これをDR(ディマンドリスポンス)といいます。

従来の省エネ法において、企業は時間帯ごとの使用量を報告するだけでした。しかし改正後は1ヶ月単位または30・60分単位での使用量報告にくわえて、DRを実施した日数も報告する必要があります。

省エネ法の対象となる企業

省エネ法の対象となるのは、次の企業です。

  • 特定事業者等:エネルギーの年間使用量が1,500kl以上
  • 特定貨物/旅客輸送事業者:保有する車両・トラックが200台以上
  • 特定荷主:年間の輸送量が3,000万トンキロ以上

また次の企業も努力義務の対象となります。

  • 工場等の設置者
  • 貨物/旅客輸送事業者
  • 荷主

省エネ法における報告義務の有無は、エネルギー使用量により異なります。ただし報告義務がない努力義務対象の企業も省エネ法を遵守し、エネルギー使用量を少なくとも「1%以上」削減することが求められています。

直接規制

省エネ法における直接規制とは、その名の通りエネルギー使用量について直接的に規制を受けることです。次の2つの条件に当てはまる企業は「直接規制」の対象となります。

  • 自社で独自に工場・オフィスを所有している
  • 輸送事業者・荷主のどちらかに該当している

直接規制を受ける企業は、自社だけでなく工場等の設置者や運送業者、荷主などに対してもエネルギー使用量の報告を求め、問題があれば改善させる責任があります。

企業が取り組むべきこと

直接規制を受ける企業の取り組み内容は、エネルギーの年間消費量や車両の保有台数等によって次のように変わります。

  1. 年間使用量が1,500kl未満:ルールを遵守・使用エネルギーを1%削減
  2. 年間使用量が1,500~3,000kl未満:1の内容+使用計画書の提出と使用状況の報告
  3. 年間使用量が3,000kl以上の法人:1と2の内容+工場・オフィス単体での使用量に応じて事業者区分を指定
  4. 保有車両・トラック数が200台未満:ルールを遵守・使用エネルギーを1%削減
  5. 年間輸送量が3,000万トンキロ未満:ルールを遵守・使用エネルギーを1%削減
  6. 4と5の基準を超える事業者:4と5の内容+使用計画書の提出と使用状況の報告

上記のうち報告義務がある企業は、中長期計画書および使用状況報告書を経済産業局・所管省庁に提出します。報告書に関しては、年度ごとの使用状況を翌年度の7月までに提出する必要があります。

工場の事業所区分

3の「事業者区分」に関しては、2つの「エネルギー管理指定工場区分」のうち、自社工場が第一種・第二種どちらの要件に該当するかで、講じる措置が次のように異なります。

  • 第一種(年間エネルギー使用量が3,000kl以上・製造所):エネルギー管理者の選任
  • 第一種(年間エネルギー使用量が3,000kl以上・事務所やその他事業所):エネルギー管理員の選任
  • 第二種(年間エネルギー使用量が1,500kl以上3,000kl未満):エネルギー管理員の選任

このように排出量に応じて「エネルギー管理指定工場」を指定し、エネルギー管理者や管理員を選任するのには理由があります。それは特定の工場だけでなく、企業全体で効率的なエネルギー運用を行い、大規模な省エネを実現するためです。

間接規制

省エネ法において「直接規制」を受けない企業でも、次の要件に当てはまる企業は「間接規制」の対象となります。

  • 製造事業者等(機械器具の製造や輸入)
  • 家電等の小売事業者・エネルギー小売事業者

上記に当てはまる企業は、それぞれエネルギー消費効率の向上および目標の達成、また消費者に対する適切な情報提供を行う義務があります。

日本政府の省エネ法の取り組み

省エネ法の取り組みの一環として日本政府が進めているのが、「エネルギーミックス」です。エネルギーミックスとは、火力・水力・太陽光・原子力など複数の発電方法をミックスすることにより、社会に必要な電力を作り出すことです。

環境を第一に考えるなら、CO2排出量が少ない再エネ発電だけを用いれば良い、という考え方もありますが、現状では供給安定性に欠けます。反面、化石燃料だけに頼ることも省エネ法の目的・観点から逆行することになるため、将来に向けて電源構成は可能な限り最適化されていく必要があります。

ここで重要な考え方が「3E+S」です。4つの英単語の頭文字から取った用語ですが、それぞれ次のような意味があります。

  • Economy(経済性)
  • Environment(環境性)
  • Energy Security(供給安定性)
  • Safety(安全性)

エネルギーミックスにおける電源構成は、常にこの3+1要素のバランスを取る必要があります。なぜそうする必要があるのかというと、日本にはエネルギーに関する明確な次の弱点があるからです。

  • エネルギー自給率が低い(約11%)
  • 電力コスト(電気代)が高い

当然ながら「安全性」が確保できる点は最優先となりますが、常に電力コストを抑えながらCO2排出量を減らし、同時にエネルギー自給率の向上も目指します。それにより、日本は2030年までに電源構成を次のように変えることを目標としています。

電源構成順位 2019年度 2030年度(見通し)
1 液化天然ガス(約37%) 再生エネルギー(36~38%)
2 石炭(約32%) 原子力(20~22%)
3 再生エネルギー(約18%) 液化天然ガス(約20%)
4 石炭等(約7%) 石炭(約19%)
5 原子力(6%) 石油等(約2%)

2019年時点では、国内で使用するエネルギーの7割以上を化石燃料に頼っています。それを2030年までには3割以上も削減させ、さらに再エネの割合を約2倍にする予定です。CO2排出量が比較的少ないとされる原子力の割合も、2割程度に引き上げます。

この積極的な目標を達成してはじめて、日本におけるエネルギーミックスが軌道に乗ったといえるでしょう。これは2050年目標の「カーボンニュートラル」を達成するためにも重要なプロセスであるため、企業は積極的に再エネへの転換を進める必要があります。

企業が省エネ法に取り組むメリット

企業が省エネ法に取り組むことには、次のようなメリットがあります。

  • 企業価値が向上する
  • ランニングコストを削減できる
  • 脱炭素社会の実現に貢献できる

企業が省エネに取り組む理由は、単純に「企業のCO2排出量が多いから」だけではありません。省エネ法に則って再エネ転換や省エネ設備を導入することにより社外からの高い評判を獲得でき、社会的な価値が上がるからです。

省エネを進めることが自社にとって社会的にどのようにプラスにはたらくか、ビジネス面でのいわゆるインセンティブを理解することは重要です。

たとえば、商品やサービスを比較する際に「企業がどれくらい環境保全に貢献しているか」という点を重視する消費者から、優先的に選ばれやすくなります。

また企業が省エネを進めてCO2排出量を削減すると、「CDP」という国際イニシアチブで高い点数を獲得し、持続可能性が高い企業として「ESG投資」の投資先に選ばれやすくなります。

省エネ法の遵守は、コスト面でもメリットがあります。新しい設備の導入に多くの初期費用がかかるとしても、従来の化石燃料エネルギーが主体であった時と比較して、ランニングコストの大幅に削減が可能です。

それらの取り組みはすべて、世界的な「脱炭素社会」の実現に貢献します。また、日本がパリ協定に基づく「2030目標」や「2050目標」を達成できる可能性が高くなります。

企業の取り組み方・対応方法

企業が省エネ法に取り組む方法は様々ですが、一例としては次のような手段が挙げられます。

  • オフィスの設備をすべて省エネ製品へ切り替える
  • 自社工場の屋根に太陽光パネルを設置する
  • 電力プランを再エネプランに切り替える
  • 輸送業務を効率化する

オフィスの設備をすべて省エネ製品へ切り替える

企業はエアコン等の空調設備やOA機器、照明器具等をすべて省エネ製品へ切り替えることで、使用する電力を減らし、電気代を下げることができます。この取り組みを一つのオフィスだけでなく企業全体、サプライチェーン全体で取り組むなら、大規模なCO2排出削減にもつながります。

自社工場の屋根に太陽光パネルを設置する

企業は自社が保有する工場に、太陽光発電設備を導入可能か検討できます。ある程度の初期投資は必要ですが、電力の自給自足が可能となり、電気代というランニングコストも大幅に削減できます。

自社独自での太陽光発電設備の導入が難しい場合は、電力会社に自社敷地を貸与し、無償で設備を導入してもらう「PPA」というモデルを利用できます。電気は電力会社から買い上げる形になるため電気代はかかりますが、初期投資費用を大幅に削減できます。

電力プランを再エネプランに切り替える

企業は電力会社と契約している電力プランを「再エネプラン」に切り替えることで、コストダウンとCO2排出削減を同時に達成できます。この方法なら発電設備を導入するよりも遥かに早く省エネが可能ですし、初期投資も必要ありません。

またカーボンオフセットを実施している企業なら、再エネ発電所情報を非化石証書(トラッキング情報あり)に紐づけすることも可能です。

輸送業務を効率化する

企業が大量のCO2を排出する原因は「製造」だと思われがちですが、実は運輸(輸送)でも非常に多くのCO2を排出しています。その証拠として、2021年度の日本国内におけるCO2排出量のうち「17.4%」は運輸部門が占めている、という統計があります。

現実的に考えて、事業活動から運輸をなくすことはできません。しかし輸送に用いる車両をEV化したり、拠点配置や配送経路を最適化したりすることでコストダウンを実現し、CO2排出量を下げることは可能です。

省エネ法に取り組まない企業は罰則を受けるって本当?

事業者によっては、省エネ法を遵守することを「リスク」と捉える可能性もあります。なぜなら、再生エネルギーへの転換や省エネルギー設備の導入には多くのコストが発生するからです。

しかし省エネ法で該当する企業は、自社の判断で省エネ法を無視することはできません。なぜなら以下のような罰則があるからです。

  • 使用状況届出書・報告書類・計画書類の未提出や虚偽届出:50万円以下の罰金
  • エネルギー管理者・管理員等の未選出や虚偽届出:100万円以下の罰金
  • 取り組み状況が著しく不十分:勧告・公表・命令・100万円以下の罰金

条件に該当するにも関わらず省エネ法を遵守しない企業は、罰金を支払うことになったり、企業名を公表される可能性もあります。社会的な地位・評判を失う結果にもつながるため、該当企業は必ず取り組みを行いましょう。

まとめ

CO2を削減することが主な目的であった省エネ法は、改正されたことで「非化石エネルギーへの転換」に大きく舵を切りました。

すでに多くの企業が自主的な取り組みを進めているなかで、自社でも省エネを推進するインセンティブがどこにあるかを意識し、将来といわず「今日から」実践できることを考えていきましょう。

 

参考:

省エネ法の概要 | 事業者向け省エネ関連情報
2023年4月施行の「改正省エネ法」、何が変わった?
省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?
省エネ法の手引き(荷主編)
省エネ法|国税庁
E6-5 省エネ法の定期の報告手続(特定事業者)
E6-6 省エネ法の定期の報告手続(特定荷主)|国税庁
エネルギー需要サイドにおける 今後の省エネルギー・非化石転換政策について
2030年度におけるエネルギー需給の見通し (関連資料)
エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律 | e-Gov法令検索

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