ISO14001とは?数字の意味とIOS9001の違い、日本企業の取り組み具体例を解説

ISO14001

ISO14001は環境マネジメントを実施するための規格です。ISO14001の企画内容やISO9001との違い、重要視される理由、取得するメリットとデメリットなどを解説します。

取得・認証の際に発生する費用や取得した日本企業の取り組み事例などもあわせてご覧ください。

ISO14001とは?

ISO14001は、ISO(国際標準化機構)が定めた環境マネジメントシステムの規格を意味し、「アイエスオー イチマンヨンセンイチ」と読みます。EMSという略称でも呼ばれています。

1992年開催のUNSED(国連環境開発会議)で地球環境保全と持続可能な開発を題材とした議論が行われたことが発端でISOの規格の策定が開始され、1996年に発効しました。

ISO14001は環境保全活動を実施しながら企業の環境保全に関連する活動を向上させることを目標にしているマネジメントシステムです。

温室効果ガスや汚染物質の削減・省エネ・資源の節約や再利用などの企業の環境保全活動が高評価を受けることにより、環境改善意識が高い企業とPRできるようになります。

ISOとは?

ISOはスイスのジュネーブに本拠地を構えている非政府機関で、電気・通信・電子技術分野以外の全産業に関連する国際規格の策定を実施しています。

ISOが策定するISO規格は、製品・サービスについて世界中で同じ品質・同レベルのものを提供できるようにするという目的で策定する国際的規準で、ISO規格によって国際的な取引をスムーズに行うことができます。

規格制定及び改訂は160カ国以上の参加国の投票によって決まります。非常口マークは製品などに規定される規格(ISO7010)ですが、この記事で紹介するのは製品ではなくマネジメントシステムを対象にしたISO規格です。

(参考:JQA「ISOの基礎知識」

数字にはどういう意味がある?

ISOに付けられている数字は規格番号で、2023年の時点で1番から90000番までありますが、数字が付けられるのは規格が認定・採用されたときではなく規格検討を実施したタイミングなので、欠番になっている番号も存在します

14001に続く14002と14003の規格は採用されていないため、14001の次の番号は14004になっています。

ISO14001の規格内容

1996年に制定されたISO14001はPDCA(Plan・Do・Check・Act)の概念に基づき、環境マネジメントの精度の改善を継続的に行っており、2004年と2015年に改正されました。現在規格要求事項に記載されている規格内容の概要は以下の通りです。

  • 組織が環境にどのような影響を及ぼしているかを整理
  • 組織が受けるリスクへの備え・環境影響の管理方法などの計画を策定
  • 計画運用のための手順整備
  • 取り組みの成果の評価方法を決定
  • 取り組みの改善方法を決定

これらの項目を運用した結果を、ISO審査機関に審査されることで、ISO14001認定を受けられます

2023年6月時点でISO14001を取得している機関は12,710件です。取得数が最も多いのは2,900件以上獲得している建設業で、加工金属製品業・基礎金属業は2,600件以上取得しています。

(参考:環境省「ISO14001」

ISO14001とIOS9001の違い

ISOの規格の中で最もポピュラーなのはISO14001とISO9001です。この2つの違いを以下表に示します。

ISO14001 ISO9001
規格概要 環境の影響軽減・企業が及ぼす環境管理を意識した環境マネジメントシステム 顧客の満足度を向上させるための品質管理に着目した品質マネジメントシステム
主な取り組み内容 環境負荷低減・廃棄物削減・エネルギー量削減 顧客の需要を理解した上で需要を満たす
認証が多い業種 建設業(機械・自動車・化学)/製造業(建設・設計・土木)/サービス業(イベント・ホテル・産業廃棄物処理業) 建設業(建設・設計・土木)/製造業(食品・自動車・医療機器)/サービス業(情報サービス・不動産・保険)

(参考:認証パートナー「ISO9001とISO14001、具体的な違いはなに?」

ISO14001が重要視されている理由と取得するメリット

注目度が高まっているISO14001の取得には、数多くのメリットがあります。特にクローズアップされることが多いメリットを見ていきましょう。

地球温暖化による気候変動や環境汚染

地球温暖化によって気候変動・環境汚染などの環境リスクが高まっています。排出される物質の有害性と排出量を掛けて算出される環境リスクの低減を図るには、温室効果ガス・汚染物質の排出量を抑制することが必要です。

ISO14001には緊急事態の準備と対応の項目もあるため、自然災害などによって発生する可能性が高い環境リスクの対応策も立案できます。

ISO14001規格に準拠した環境負荷対策を実施することによって環境負荷低減という目標を達成できるのは、企業にとって非常に大きな利点です。

取引先や顧客へ環境への配慮をアピールできる

ISO14001認証を受けていると公表することで、取引先企業や顧客に自社が環境対策を実施していることをアピールできるのも企業の利益につながります

環境問題に取り組んでいる企業は年々増えています。環境対策には資金がかかるために取り組めない企業も多いのですが、複数企業が共同で取り組むことによって資金難を払拭できるので、取引先に協力を求めるのは有益なのです。

顧客に良いイメージを与えることで環境対策を実施していない他社との差別化を図ると共に購買意欲を高められるのも、企業にとって大きなポイントになります。

ESG投資の広まり

環境の改善を図ろうという意識が世界中で高まった結果、環境と社会と企業の統治を配慮したESG投資が広まっています。

環境に与える負荷を減らして環境を改善するという社会的な責任を果たしている企業に投資しようという動きが投資家や金融機関の間で広がった結果生まれたESG投資は、投資リスクが低く社会貢献度が高いのがメリットです。

企業として発展していくためには投資家や金融機関の協力も重要なため、ISO14001によってESG投資が拡大していることも、サステナビリティを実施する企業の活力になっています

保険料の節約

ISO14001認証を受ける企業が増えていく中、認証済みの企業を対象に割引商品を用意している損害保険会社が増えてきました。

損害保険会社はISO14001認証に関連した保険を提供することで、ISO14001取得を迷っている企業が認証取得に動き出す可能性が高まっています。

企業活動による環境リスクが低下することで保険金支払いの可能性が低くなるため、環境への配慮を実施する企業は保険金の支払いリスクを抑制できます。損害保険料を節約できるのは、環境配慮のための資金捻出に苦しむ企業の救いです。

損害保険会社にとっても、環境問題取り組みを実施する企業というPRが可能になる利点があります

ISO14001のデメリット・課題

どれほど優れたシステムにも必ずデメリットや課題が存在しますが、理解していれば払拭できるものもあります。ISO14001の運用前にデメリットと課題を確認しておきましょう。

ISO14001の取得には手数料や維持費用がかかる

ISO14001取得・認定には手数料・維持費などのコストがかかるのが最大の難点です。これが障壁となり取得できない企業も少なくありません。

ISO14001審査機関は30以上存在しますが、料金は機関によって違います。ここでは、公益財団法人日本適合性認定協会で必要な費用(税抜価格)を紹介します。

認証審査料・登録料 基本の申請費 500,000円
基本の登録費 500,000円
審査関連費用 初回審査費用 640,000円以上
審査付帯費用 移動費・宿泊費(10,000円)×審査員数×宿泊日数
システム維持費 年間維持費 200,000円以上
年収リンクの維持費 20万円以上(固定額の場合)

システムの構築や維持には、担当者1人につき14ヶ月前後かかるため、必要な人件費は約400万円にも及びます。担当者が増えるほど人件費がかかるため、コンサル会社に依頼した方がコストを節約できる可能性が高いです。

社内の理解と教育

企業で環境マネジメントのシステムを構築した後は、マニュアルを与えた上で実践教育などを従業員に実施し、環境に関連した業務を企業に定着させなければなりません

ISO14001導入によって業務の手順や負担が増すことについても理解を求め、従業員が一丸となって環境対策に取り組める体制を整えることが重要です。環境に対する知識を十分に持った人材を採用することで、従業員教育の簡略化が可能です。

ISO14001を取得・認証するまでの流れ

ISO14001の取得・認証を受けるまでの流れを6ステップに分けて解説します。

①専門チームを編成 準備期間を含めると認証までに数年かかる可能性が高いため、準備に専念できるチームを作ることで準備の効率化を図る
②達成目標を設定する 現状の業務状況を確認した上で自社の環境方針と目標を策定
③作業マニュアル作成 目標達成のための作業内容を含むマニュアルを作成して従業員に周知して作業に取り組む
④マニュアルに沿った運用を実施 完成したマニュアルに沿ったテスト運用を複数回実施する
⑤運用状況の確認 PDCAサイクルを活用してマニュアルの問題点をチェックしてマニュアル改善を図る
⑥第三者機関の審査を受ける ISO14001の要求事項を達成しているか確認された後に審査に合格してISO14001認証を受ける

ISO14001を取得している日本企業の取り組み事例

環境に対する意識が高まっている近年、世界各国で多くの企業がISO14001を取得しています。この章では、2000年代前半にISO14001を取得し環境保全活動を実施している日本企業の事例を紹介します。

企業の事例①アスクル株式会社

アスクルは2004年3月にISO14001認証を獲得し、2022年3月に更新・改訂しています。登録活動範囲はアスクルで取り扱う文房具・事務用品・オフィス家具などの商品やサービスを実施する通信販売事業です。

本社オフィス・物流センターを含むサイトを環境マネジメントシステムを基盤にして活動するマルチサイト方式を導入しています。

また、PLAN(計画)・DO(実行)・CHECK(点検)・ACTION(見直し)のイニシャルを取ったPDCAサイクルを環境への取り組みの基本に据え、さらに各部門でアスクル環境方針を中心にした「アスクル環境中長期目標」を枠組みにして環境活動を展開しています。

以下表がアスクル環境中長期目標です。

短期目標 スコープ1・2 2030年度までに温室効果ガス88%削減(2021年比)
スコープ3 2050年度までにSBT目標に対応した温室効果ガス排出量削減
長期目標 2050年度までにネットゼロをサプライチェーン全体で達成することを目指す

EMS責任者とEMS担当者を各部門専任とし、四半期ごとにEMS責任者会議及びEMS担当者会議を開催して各部門の環境目標の進行やアスクル環境における中長期目標を確認した上で、EMSを運用する際の課題の解決や情報の共有を実施中です。

(参考:ASKUL「環境マネジメントシステム」

(参考:ASKUL「アスクルが目指す環境経営」

企業の事例②株式会社松永牧場

松永牧場は、2003年、国内畜産業界で2番目にISO14001の認証取得を実現しました。翌年には生産情報を公表している牛肉のJAS規格を取得しています。

公式サイトで紹介されている松永牧場の代表的な取り組み内容は「牛について」「安心について」「環境について」「地域への思い」「食について」の5点です。「環境について」の取り組みのページで紹介されているISO14001に関連した活動内容は以下の通りです。

資源循環 経営の最重要課題の1つを資源の循環として循環型農業を目指す/環境マネジメントシステム構築/環境負荷軽減目標の設定
環境に対する
基本的考え方
3大テーマにした資源循環とエネルギーと廃棄物のうち資源循環を実践/地元との共存共栄を図る
環境の側面 ①食品の副産物と残渣を有効利用する
②堆肥生産及び販売
③廃棄物削減
④地域との交流
⑤機械設備管理
環境マネジメントシステム
※2013年の方針
①堆肥の利用を促進し草地を達成する
②太陽エネルギーの有効活用を実施
③魚の放流と水質検査や牧場内清掃や河刈りの実施によって環境意識の向上を図る/地元でイベントを開催して地域交流を活発にする
環境方針 ①法規を遵守して環境保全を行う
②資源・エネルギーの節約すると共に効率的に利用する
③環境保全活動推進及び地域と共存共栄を図る
④環境保全活動及び食の安全を図る
⑤環境問題の啓蒙を実施
⑥環境マネジメントシステムの改善を継続的に実施
⑦環境方針の周知を徹底し公表する

(参考:株式会社松永牧場「FOOD ACTION NIPPON アワード2009 優秀賞受賞」

(参考:株式会社松永牧場「取り組み – 環境について」

企業の事例③富士通株式会社

富士通は2006年3月にISO14001グローバル総合認証を取得・活動を開始し、2021年にはJACO(株式会社日本環境認証機構)の国内グループ総合認証及び海外各社の個別認証のISO14001取得体制を更新しました。

富士通は環境経営効率化と可視化を目標に掲げ、ICT(情報通信技術)を活用してEMS運用を全社のコミュニケーション基盤に活用し、グループ各社・各事業所の環境負荷情報を集めた上で計画と実績と施策の情報などの一元管理を実施しています。

また、環境ISO14001運用支援システムを活用して環境マネジメントシステムの運用状況の管理を行っています。

(出典:FUJITSU「ICTを活用した運用」

2022年度の環境監査の実施内容は以下表の通りです。

内部監査 国内72組織の工場とオフィスを対象に以下の監査を重点的に実施
①環境マネジメントシステムの遂行の度合
②第10期環境行動計画達成の可能性
③環境をビジネスのチャンスと定めた取り組み状況
④事業転換の際の解体工事などの環境リスクへの対応
外部監査 JACOの審査を受けた結果、36件の改善を推奨され、推奨事項をグループ内で共有した上で対応・改善を実施

以下は2020年度から2022年度までの国内における監査・審査の指摘件数です。

2020年度 2021年度 2022年度
内部監査の指摘件数 13 7 12
外部監査の指摘件数 0 0 0
改善の余地数 52 33 36

(参考:FUJITSU「ISO14001認証取得実績」

(参考:FUJITSU「ICTを活用した運用」

まとめ

地球環境の改善を望む声が高まるにつれ、環境改善対策を打ち出す企業が増えています。ISO14001の取得と認証は簡単にできず費用もかかるのは大きな課題ですが、導入することによって環境改善に貢献できるだけではなく、取引先や顧客、投資家へ効果的に企業価値をPRできるというメリットがあります

企業の利益や必要なコストを確認・検討した上でISO14001認定を目指しましょう。

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