脱炭素の転換点となった「パリ協定」とは?目標や内容、企業が意識するべき理由を徹底解説

脱炭素の転換点となった「パリ協定」とは?目標や内容、企業が意識するべき理由を徹底解説

気候変動を抑制するための急速な「脱炭素化」が世界で進んでいます。とりわけ90年代の「京都議定書」策定の中心にいた日本は、温室効果ガスの排出主体である企業を含めて、新たな世界基準である「パリ協定」の内容や目標について、よく理解する必要があります。

パリ協定では具体的に何が進み、決まり、何が求められたのか、その内容について詳しく解説していきます。企業として具体的にできることや、すでに温室効果ガス削減による成果を出している企業の事例にも注目してみましょう。

パリ協定とは

Paris agreement

パリ協定とは、2015年にパリで開催された「COP21(国連気候変動枠組み条約締約国会議)」で決められた、温室効果ガス(GHG)削減に関する条約のことです。

この条約で定められたのは、同じく温室効果ガスの削減に関する条約である、1997年制定の「京都議定書」を大幅にバージョンアップさせた新しい枠組みです。京都議定書から20年弱のうちに変動した、各国における最新のGHG排出状況が考慮されています。

パリ協定が合意されるまでの流れ

次はパリ協定が合意されるまでの流れを解説していきます。

1992年、気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択

1970年代・80年代の急速な科学の発展により、地球温暖化による気候変動が重大な問題であり、国際的な取り組みが必至であることが明らかになりました。それが公になったのは1988年の「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」による報告です。

その4年後、1992年に開催された「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」において、温室効果ガス削減に関する国際的な枠組みが採択され、2年後の1994年3月に「気候変動枠組条約(UNFCCC)」が発効されました。

その条約において最重要目的とされたのは、温室効果ガス濃度の安定化です。条約は197カ国が締結していますが、先進国(附属書Ⅰ締約国)にはより明確な目標達成のための措置と報告、さらに発展途上国に対する資金面の援助などが要求されました。

1997年、京都議定書が採択

気候変動枠組条約は、国単位で温室効果ガス削減の取り組みを推進するという意味では画期的な条約でしたが、強制力はほぼありませんでした。そこで排出量が多い先進国を中心に、法的拘束力がより強い数値目標を設定する必要がありました。

そこで1997年の「COP(気候変動枠組条約締約国会議)」において、先進国がより具体的な削減目標を定めて実行に移すための「京都議定書」が採択されました。

京都議定書で定められたのは、2008年から2012年の期間に先進国が達成するべき温室効果ガスの削減目標です。具体的には1990年代の削減基準年から少なくとも「5.2%」の削減が求められ、日本では6%、アメリカは7%、EUは8%が削減目標となりました。

2015年、パリ協定

京都議定書には罰則規定があるなど、確かに法的拘束力を持つものでした。しかし一定の抑止力にはなったものの、温室効果ガスの実質的な大幅削減には繋がりませんでした。

なぜなら1990年から2000年にかけて、経済発展に伴い温室効果ガスの排出量が増加してしまったからです。

また京都議定書では削減要件がなかった、当時の中国を含む「途上国」に関しても、経済発展により温室効果ガスの排出量が大幅に増加したため、新たな基準が必要となりました。

そこで2015年に「COP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)」が開催され、その中で「パリ協定」が採択されました。実際にパリ協定が発効したのは、およそ1年後の「2016年11月」で、日本は同月の8日に正式に締結しました。

アメリカと中国が参加

パリ協定には、ブッシュ政権下で京都議定書に明確な難色を示して発行前に離脱したアメリカや、京都議定書では先進国に含まれなかったために不参加となった中国も参加しています。

現在は温室効果ガスの1位・2位である両国が、なぜパリ協定に参加したのか、主に次の理由が挙げられます。

  • 国際的な地位を確立するため
  • 達成可能な目標を設定する地盤が揃ったため
  • 気候変動は不可避の問題であるため

温室効果ガス排出量トップ2のアメリカと中国は、GDPでもトップ2の経済大国です。国際的な立場を考慮すると、先進国だけでなく途上国を含む「すべての国」に対して目標策定を求めたパリ協定への批准は、2国にとってほぼ不可避であったと推測できます。

実際のところ、アメリカの参加に関しては次のように二転三転しました。

  • 2015年:パリ協定採択
  • 2016年:パリ協定発効
  • 2017年:大統領がパリ協定からの離脱を表明
  • 2020年:アメリカがパリ協定から正式離脱
  • 2021年:アメリカがパリ協定に復帰

パリ協定が採択された2015年時には、気候変動に対して強い関心を持っていたオバマ氏が大統領であったため、アメリカの参加はほぼ必然でした。

しかしその後、2017年のトランプ政権下で大統領がパリ協定を公に批判し、アメリカは2020年に正式離脱しました。結果的には他国の働きかけもあり、2021年の現バイデン政権下において、アメリカは再度パリ協定に復帰しています。

中国に関しては、急速な経済発展の裏で深刻な大気汚染が社会問題化していました。そのため環境問題を重視することで国際的な地位を高め、国民からの支持を得るためにも、パリ協定をリードする存在となることは不可欠であった、という見方があります。

脱炭素社会を経済と両立して目指す

パリ協定で策定された長期目標目標を達成するためには、各国が温室効果ガス削減のための具体的な施策を、経済成長と両立させながら行う必要があります。

なぜなら、脱炭素社会が目指すところは再生エネルギーが化石エネルギーを「完全に代替」する未来であり、それを達成するためにはイノベーションと、イノベーションを起こすための「投資」が常に欠かせないからです。

実際のところ、気候変動対策にはビジネス面でのメリットがあります。たとえばここ10年で、太陽光を含む再生可能エネルギー発電のコストが大幅に下がり、再エネ事業による収益をプラスに転じることが可能となりました。

下のグラフは、2020年の電源別発電コスト試算結果を表しています。

すでに再生可能エネルギー由来の発電は、化石燃料由来の発電よりもコストを下げることが可能となりました。今後は再生可能エネルギー事業が投資家のESG投資を促し、エネルギー代替という大きなミッションに向けて市場規模が拡大し、経済成長も促進されると予測されます。

【※】パリ協定と京都議定書の違い

パリ協定と京都議定書の違いは、次のとおりです。

  • 先進国だけでなく先進国を含むすべての国が対象
  • 削減目標・目標を達成するための計画は各国が立てる
  • 削減目標の達成ではなく策定および提出が義務化された

京都議定書は温室効果ガス削減の対象国が「先進国」のみでしたが、パリ協定では対象国が「すべての締結国」となりました。これにより、発展途上国でも先進国による積極的な支援を受けながら、温室効果ガス削減のための先進的な施策を行えるようになります。

また、パリ協定では気温上昇の抑制に関する明確な長期目標が定められましたが、目標の策定は各国が独自に行う「ボトムアップ」という方式が採用されました。これにより、それぞれの国の状況に合った最適な施策を計画・推進できます。

義務化される内容も変わりました。京都議定書では先進国が期間内に目標を「達成する」ことが義務化されていましたが、パリ協定ではすべての締結国に対して目標を「提出する」ことを義務化し、さらに5年毎に目標の見直し・更新を行う必要があります。

京都議定書と比較して強制力が落ちている点が批判されることもありますが、その分多くの国が参加できるようになり、京都議定書の不公平さは解消されました。アメリカや中国といった排出量が大きな国の参加も、支援を受ける途上国が追随する理由となります。

パリ協定の内容

次は、パリ協定で定められた内容について詳しく解説します。

目標

パリ協定では、基盤となる次の目標の達成を提示しています。

  • 産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を1.5度以上低く保つ
  • 産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を少なくとも2度以内に抑える

パリ協定の基盤となる長期目標は、18〜19世紀にかけて発生した産業革命の前よりも、世界の平均気温上昇を少なくとも「2度以内(努力目標は1.5度以内)」に抑えることです。

これはあくまで長期目標であるため、各国はそれぞれの削減目標を独自に策定し、提出する必要があります。具体的には、主要国は次のような「2030年目標」を定めました。

  • 日本:2030年度までに排出量を2013年度比で46%削減する
  • アメリカ:2030年度までに排出量を2005年度比で50~52%削減する
  • 中国:2030年までにGDP当たりの排出量を2005年比で65%以上削減する
  • 韓国:2030年度までに排出量を2018年度比で40%削減する
  • インド:2030年までにGDP当たりの排出量を2005年比で45%削減する
  • ブラジル:2030年までに排出量を2005年比で40~45%削減する

これらの目標は5年に1度「より積極的な目標」に見直されます。現に日本も当初は「26%(2013年比)」が削減目標でしたが、2021年に「46%」という高い目標に更新し提出しています。

参加国一覧

パリ協定に参加したのは、日本を含む196カ国です

  • 日本
  • 韓国
  • 中国
  • 英国
  • アメリカ
  • EU諸国
  • オーストラリア
  • インド
  • インドネシア
  • カナダ
  • サウジアラビア
  • トルコ
  • ブラジル
  • メキシコ
  • ロシア

パリ協定が発効された後の2019年時点では、アメリカ・シリア・ニカラグアの3カ国が不参加国でした。しかしアメリカは2021年に復帰し、シリア・ニカラグアも2017年にパリ協定への批准を表明しています。

パリ協定で決められた内容

パリ協定では、主に次の点が締結国へのルールとして定められました。

  • すべての締結国が削減目標(NDC)を提出する
  • すべての締結国は5年に1度NDCを最新のものに更新し提出する
  • すべての締結国は排出量削減の進捗状況を2年毎に提出する
  • 先進国は発展途上国に対して積極的に資金援助を行う
  • 各国が目標を達成するためにカーボンクレジット制度等を活用する

パリ協定はすべての締結国に対して、明確な削減目標(NDC)を定めて提出し、その目標を達成するための具体的な取り組みを行うことを求めました。さらにその目標は5年ごとに見直され、改めて提出する必要があります。

削減目標に関する先進国と発展途上国の区切りはなくなったものの、先進国は途上国に対して排出量削減を推進するための資金援助を行うことが義務化されました。

温室効果ガスを減らすために企業ができること

次は、温室効果ガスの排出主体である企業が、自社の排出量を減らすためにできる3つの点について解説していきます。

再生可能エネルギーの導入

企業が排出する温室効果ガスを削減する最も効果的な方法は、自社で再生可能エネルギーを導入することです。この「導入」には、次の2つのモデルが想定されます。

  • 自社で再生可能エネルギー発電施設を設置し、電力を自給自足する
  • 再生可能エネルギー由来の電力を電力会社から購入する
  • 電力会社に発電施設を設置してもらい、発電された電力を企業が買い取る(PPA)

企業が太陽光発電施設を自社の敷地に設置すると、再生可能エネルギー由来の電力を自社で賄うことができるため、大幅な温室効果ガス排出削減が実現できます。

ただし発電施設を建設するには多大な初期コストが発生するため、費用を抑えたい場合は電力会社に施設を設置してもらう「PPA」モデルか、契約している電力会社のプランを再生エネルギープランに切り替える方法のいずれかを選択することになります。

PPAモデルでは設置費用の負担が電力会社側となり、自社の施設や敷地を貸すだけで良いため、大幅にコストを削減できます。

また電力会社のプランを「再エネ電気プラン」に変更する方法なら、どのような規模の企業でもすぐに再生可能エネルギーを導入できます。ただし前述した「発電施設を設置する」方法よりも、電気代を支払う方がランニングコストは高くなります。

省エネ設備の導入

企業はさまざまな省エネ設備を導入することで温室効果ガスを削減できます。具体例としては、以下のような導入例があります。

  • 工場のボイラー施設をエネルギー消費効率が高いものに変える
  • 社内のエアコンをすべて消費電力が少ないモデルに変える
  • 社内の照明設備をすべてLEDにする

こういった設備面の「省エネ化」をするとき、ただ導入するだけでなく専門家の判断を仰ぐのは良いアイデアです。自分たちが考えていたよりも効果的で低コストな「省エネ」を実現する方法を提案してくれるからです。

カーボンオフセット

企業は自社の取り組みだけでは削減目標を達成できないとき、環境価値の購入による埋め合わせ(カーボンオフセット)によって目標を達成できます。

削減量の埋め合わせは、他社が発行するクレジットや証書を購入することで成立します。日本では「J-クレジット」「非化石証書」「グリーン電力証書」という3つの制度が対象となり、それぞれ次のような違いがあります。

比較項目 ①J-クレジット ②非化石証書 ③グリーン電力証書
主体 政府 低炭素投資促進機構 日本品質保証機構
対象 温室効果ガスの削減量・吸収量 再生可能エネルギー・原子力由来の電力 再生可能エネルギー由来の電力
取引方法 仲介事業者から購入・相対取引 非化石価値取引市場で入札 証書発行事業者から直接購入
転売 不可 不可
準拠イニシアチブ RE100・SBT RE100・SBT RE100・SBT

このうち「非化石証書」や「グリーン電力証書」は、再生可能エネルギー由来の電力の発電量を環境価値として扱います。対して「J-クレジット」は、温室効果ガスの削減量や吸収量を環境価値に換えてクレジットを発行します。

購入する企業は、クレジットや証書に記載の発電量・削減量を、自社が「削減したもの」とみなし、補填することができます。これにより環境価値を「作り出す側」と「使う側」に資金の循環が生まれ、地域の活性化につながります。

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日本企業の取り組み事例

最後に、日本企業における再生可能エネルギー導入事例をいくつか紹介していきます。

カインズ

全国でホームセンター事業を展開する「CAINZ(カインズ)」は、次の2つを削減目標として掲げています。

  • 2025年までに自社施設のカーボンゼロ達成
  • 2050年までにサプライチェーン全体でのカーボンゼロ達

この目標を達成するために、カインズは一部店舗への大型太陽光パネル設置を実施しました。この施策により、年間で使用する電気量の2割以上を、再生可能エネルギーで賄えると試算しています。

不二家

大手食品メーカーである「不二家」は、2030年までに「CO2排出量を46%削減(2013年度比)」することを目標として掲げています。

この目標を達成するために、不二家は自社工場へ太陽光発電設備を導入しました。これにより、食品の品質を保ったまま電気使用量を「9%」削減することに成功しています。この取り組みは環境負荷の低減だけでなく、高騰する電気代の削減にもつながりました。

大和ハウス工業

大手住宅メーカーの「大和ハウス工業」は、温室効果ガスの削減に関して次の目標を定めています。

  • 2030年までにバリューチェーン全体で40%以上の温室効果ガス削減
  • 2050年までにカーボンニュートラルを達成

大和ハウスは削減目標を達成するために、太陽光発電施設を建設したり、自社の新築施設を「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化」することで、自社が直接または間接的に排出する温室効果ガス(Scope1・2)の削減に取り組んでいます。

また自社が建設した建物が使用することで排出される温室効果ガスを削減するため、建物の屋根に太陽光パネルを設置したり、取引先に「ネット・ゼロ・エネルギー」を提案したりすることで、サプライチェーン全体での削減を推進しています。

まとめ

パリ協定が採択・発効されたことで、京都議定書でも完全には成し得なかった「世界規模での気候変動抑止・脱炭素化」を実現する取り組みが、今この瞬間にも進んでいます。企業は自社が定めた明確な目標・指針に従って削減活動を行い成果を公表することで、社会的な地位を確立し、投資家からの積極投資を呼び込むことができるでしょう。

参考:
パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)について|環境省
パリ協定を踏まえて加速する気候変動対策|環境省
日本の排出削減目標|外務省
地球温暖化をめぐる日本と世界の主な出来事(年表) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
パリ協定 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
京都議定書の概要 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
気候変動枠組条約 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~|広報特集|資源エネルギー庁
パリ協定をめぐる米中の協調と競争〜そのとき EU、日本はどのような姿勢で臨むのか

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