国連環境計画(UNEP)とは?設立された背景と目的、IPCCとの違いをわかりやすく解説

UNEP

世界的なCO2排出量の増加による気候変動や、廃棄したまま分解されず海洋生態系に悪影響を与える問題などが浮き彫りにされてから数十年経ちますが、その中で条約をつくり、国と国をつなげる重要な役割を果たしている組織があります。

それが、国連の補助組織である国連環境計画(UNEP)です。今回はそのUNEPという組織に関して、具体的にどのような目的のもと何を行い、どれだけの成果を上げているのか、その資金源についての話も含め、詳しく解説していきます。

国連環境計画(UNEP)とは?

まずは国際環境計画(UNEP)について解説していきます。

国連環境計画(UNEP)の概要

国際環境計画(UNEP)とは、1972年に設立された公的組織です。その名のとおり国際連合(UN)の補助組織であり、国際的な「環境保全」に関する権威として、国民と政府のパートナーシップを強める役割を果たします。

国際環境計画(UNEP)の本部はナイロビ(ケニア)にあり、1年に2回「国連環境総会(UNEA)」という会合が開かれています。また過半数を超える加盟国の要請や通常会合での決定により、特別会合が開かれることもあります。

その他パナマやジュネーブ、ナイロビやワシントンには地域事務所があります。それぞれに「アジア太平洋」や「西アジア」、「北米」や「アフリカ」などの地域名が付けられています。

国連環境計画(UNEP)とIPCCとの関係

国連環境計画(UNEP)は、世界の195ヶ国が参画する「気候変動政府間パネル(IPCC)」という別の公的組織と関係があります。なぜなら、そもそもIPCCは国連環境計画(UNEP)が1988年に世界気象機関(WHO)と共同で設立した組織だからです。

IPCCの役割は、気候変動に関する研究内容やその結果、世界中で発表された論文などの「科学的な見解」を中立的な立場で提供し、それが世界の科学や経済にどのような影響を与えるのか評価することです。

ここで重要なのは、IPCC自体は中立機関であり、調査や研究、監視などの活動を行わないということです。組織として科学的・政治的に偏った立場に立たず、あくまで環境活動のベースとなる有用な情報を提供する、という立場にとどまっています。

国連環境計画(UNEP)が設立された背景と目的

次は国連環境計画(UNEP)が設立された背景と目的について解説していきます。

1972年に国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」

国連環境計画は、1972年に開催された「ストックホルム会議」の中で採択された「人間環境宣言」が基盤となっています。この人間環境宣言では、主に次の内容に関する共通見解の発表(宣言)が行われました。

  • 人間は環境の形成者であり、科学的進歩によって環境を変革できる存在となった
  • 人間は生きるために人が作った環境だけでなく、自然のままの環境も守る必要がある
  • 人間は進歩を続ける必要があるが、それに伴い発生した様々な環境汚染による影響は危険なレベルにまで達した
  • 先進国は開発途上国が抱える問題を改善するために、格差を縮小するための努力を行う必要がある
  • 不可避である人口の増加に関して、環境に与える影響への対策と措置を講じる必要がある
  • 歴史の転換点に達した人間は、知識を活用して環境を改善し続けなければならない
  • 目標を達成するためには市民・企業・団体が一体となり、社会全体として共通の努力を公平に分担する必要がある

これは環境保全が特定の国だけでなく、人類全体の課題であることを公にした初めての宣言です。この宣言により国連環境計画(UNEP)が設立され、すべての国が環境保全に目を向けるための地盤が築かれました。

国連環境計画(UNEP)の目的

国連環境計画(UNEP)の主な目的は、将来を担う世代の生活の質と、現代に住む国民の生活の質をどちらも改善・向上させること、そして世界各国が連携しながら環境保全活動を勧めていくための橋渡しを行うことです。

そのためにUNEPは、常に気候変動や生態系の管理、化学物質や廃棄物、食品ロス等の資源問題に目を向け、国際的な新たな枠組みが作られるための働きかけを行っています。具体的な活動内容については、次から解説します。

国連環境計画(UNEP)の活動内容

次は国連環境計画(UNEP)の具体的な活動内容について、「情報収集・分析」「国際協力の推進」「国連環境計画(UNEP)のプラスチックごみの削減に向けた具体的な取り組み」という3つの活動ジャンルに分けてそれぞれ解説していきます。

情報収集・分析

国連環境計画(UNEP)は、常に環境保全に関わる問題の情報収集と、収集した情報の分析を行っています。分析された情報はネットを通じて国際的に外部発信されたり、各国の政府に対して提供されることもあります。その情報提供は、各国が進めるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにも大きく寄与しています。

UNEPが行う情報収集と分析は、誰もが自宅で行える「ネットを活用した情報収集」とは一線を画しています。なぜならUNEPが得る情報の情報源は各国の管理下にある研究機関であり、それに基づいて「Global Environment Outlook(地球環境の展望)」や「Adaptation Gap Report(適応ギャップ報告書)」を公表しているからです。

具体的には、大気や土壌の状態、生物多様性などに関する環境指標の測定や、各国の研究機関を通じて収集したデータの解析・分析を行います。研究結果は各国に提供されるものだけでなく一般人でも閲覧可能であり、環境保全に関する認識を強化することができます。

国際協力の推進

国際環境計画(UNEP)は、環境保全に関わる条約の成立に関して、さまざまな働きかけを行っています。UNEPが関わった条約の一例としては、次のものが挙げられます。

  • ワシントン条約
  • ウィーン条約
  • バーゼル条約
  • 生物多様性条約
  • 水俣条約

ワシントン条約

ワシントン条約は、1972年のストックホルム会議において採択された、絶滅危惧種の動物を保護するために輸入・輸出に規制をかけることを定めた条約です。

同年に設立された国際環境計画(UNEP)はワシントン条約の事務局であり、同組織の取り組みによって推進される持続可能な社会は、生態系にも良い影響をもたらします。

ウィーン条約

ウィーン条約とは、1985年に採択された「オゾン層の保護のためのウィーン条約」の正式名称であり、その名のとおりオゾン層の保護を目的とした条約です。

これは1987年に採択されたモントリオール議定書の基盤となる条約であり、国際環境計画(UNEP)はウィーン条約の事務局として、調査や支援に携わっています。

バーゼル条約

バーゼル条約とは、1989年にバーゼル(スイス)で採択された、国境を超える有害廃棄物の取り扱いをルール化した条約です。

日本も1993年に同条約に加盟しており、廃棄物処理法とともに有害物質の規制を行っています。国際環境計画(UNEP)はバーゼル条約の事務局であり、経済協力開発機構(OECD)と共に内容の検討・策定を行いました。

生物多様性条約

生物多様性条約(生物の多様性に関する条約)とは、ブラジルのリオデジャネイロで1992年に開催された「地球サミット」により採択された条約であり、主に種の保存や生物多様性の保全を目的として、各国に国家的な規模での批准と取り組みを求めたものです。

国際環境計画(UNEP)は事務局として同条約を策定しました。

水俣条約

水俣条約とは、日本で1950年代に広まった水俣病の被害に基づき、国際的な規模での水銀規制を進めるために策定されたものです。

国際環境計画は2001年の段階で水銀汚染に関わる調査を開始しており、2009年の管理理事会で国際環境計画(UNEP)との合意形成、さらに2013年に日本で開催された会議で本条約が正式に採択されました。

環境教育・啓発

国際環境計画(UNEP)は、大学を対象とした教育や能力開発支援を行っています。たとえば京都大学は2013年にUNEPと学術交流協定を締結し、淡水資源の環境アセスメントや、持続可能開発目標などにおける知見の共有、インターンシップの受け入れなどを実施しています。

また徳島大学や愛媛大学などの四国の大学では、国連環境計画が主催する「地球環境情報展」を2022年9月から2023年3月にかけて実施しました。

このような取り組みは若年層に向けて環境問題の深刻さが発信されるだけでなく、結果の伴う具体的な行動につなげるためのきっかけ作りともなっています。

国連環境計画(UNEP)のプラスチックごみの削減に向けた具体的な取り組み

国連環境計画(UNEP)は世界中で問題になっている、使用後に分解されないことで海洋の汚染につながる「プラスチックごみ」を削減するために、次のような取り組みを行っています。

  • 海洋プラスチック・マイクロプラスチックに関する会合の開催
  • 具体的な対策オプションに関する策定や有効性の分析
  • プラスチックの再利用や引取プログラム導入への提言

容器としての性能が高いプラスチックは食料の長期保存や輸送燃料の削減に寄与する反面、分解されずに残り海洋汚染を引き起こし、ひいては生態系の破壊につながるという大きなデメリットがあります。

日本においても、この問題は無視できません。2018年にUNEPが発表した「SINGLE-USE PLASTICS(シングルユースプラスチック)」という報告書において、日本人一人あたりのプラスチック廃棄量がアメリカに次いで高いことが指摘されているからです。

UNEPは日本を含む世界的なプラスチックごみ問題に対処するため「MSP」というプラットフォームを立ち上げ、加盟国やNGO等から要員を集めてフォーラムを開催しています。2021年にオンラインで開催されたフォーラムには、日本も議長として参加しました。

UNEPはフォーラムの中で、国際的な枠組みの強化や行動計画の策定といった対策オプションに関する分析結果を開示しており、それぞれの国が抱える問題に併せて、柔軟な対策が必要であることを明確にしました。

また、日本ではスタンダードになっているプラスチックの再利用や、デポジットプログラムの推進なども提言しています。このような「提言」は日本を含めた世界が積極的な取り組みを行うための布石になるため、UNEPは非常に重要な役割を担っているといえます。

国連環境計画日本協会(日本UNEP協会)の取り組み事例

国連環境計画(UNEP)の支部である国連環境計画日本協会(日本UNEP協会)は、環境保全に関して次のような活動を行っています。

  • UNEPと共同でフォーラムを開催
  • UNEPと環境問題に関する勉強会の開催
  • UNEPが発行する情報誌の日本語版を編集・発行
  • 各種施設でのイベント・展示の開催

日本UNEPの役割は、UNEPの活動を日本でも広めるとともに、海外との橋渡し役として持続可能な社会の実現に向けたネットワークを構築することです。上記の活動も、それらの目的を達成するために行われます。

フォーラムや定期勉強会は主に企業向けのイベントであり、企業が技術を共有しあうことで新たな事業が生み出される可能性を高めます。UNEP側から持続可能社会の実現に向けた情報が提供されることもあります。

個人として関連性が高いのは、UNEPが発行する情報誌の日本語版や、各地の環境体験館や学習センターなどで開催される常設展示・イベント類です。一般の人も自由に閲覧できるため、地球環境や生態系の保全に対する意識を子どもたちと一緒に高めることができます

国連環境計画(UNEP)はどうやって資金調達しているのか?

ここまで解説してきたような活動を、国連環境計画(UNEP)はどのようなリソースを用いて行っているのか気になる方は多いでしょう。UNEPの資金調達に関しては、次の3つが主な資金源であると公表されています。

  • 自発的な寄付
  • 環境基金(国連の通常予算・加盟国からの資金提供等)
  • テーマ別の基金

UNEPが活動する資金の9割は、自発的な寄付によるものです。また国連の通常予算や加盟国から提供される資金も活動に用いられます。

またUNEPは3つのテーマ別基金(信託基金)も立ち上げています。具体的には、気候変動の抑制と安定、自然との共生、汚染のない地球への移行という3つのテーマで基金が創設されており、2022年には日本円にして約2億円の資金調達に成功しています。

まとめ

世界規模での持続可能な社会の実現に向けた取り組みが進むなかで、国連の組織である国連環境計画(UNEP)は各国をつなげるネットワークとしての重要な役割を果たしています

改めてその活動に注目し、個人として環境に関する本質的な問題に目を向け、「誰かがやる」ではなく「自分がやる」ことへの動機付けを強めていきましょう。

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