カーボンバジェットとは?炭素予算は残り何年分?カーボンニュートラル実現のための取り組み具体例を解説

カーボンバジェットとは?炭素予算は残り何年分?カーボンニュートラル実現のための取り組み

今日起こっている世界中の気候変動は、人類が排出してきた温室効果ガス排出であることが分かってきました。日本でも数十年に一度といわれる記録的な集中豪雨の頻発や、記録的な命に係わる酷暑などの気候変動が起きており、私たちの命や生活、そして産業を守るためにもCO2削減への取り組みが必要とされています。

今回取り上げるカーボンバジェット(炭素予算)とは、温室効果ガス累積排出量の上限値のことです。産業革命以降のCO2累積排出量から見ると、人類が排出できるCO2はあと僅かしかありません。

カーボンバジェットの現状と日本の取り組むべき課題を見ていきます。

カーボンバジェット(炭素予算)とは?

カーボンバジェット(炭素予算)とは、地球の気候変動対策として気温上昇を一定のレベルに抑えるため、人為起源のCO2などの温室効果ガスの累積排出量の上限を決めることです。

気候変動問題の解決に各国共通で取り組んでいくため、1995年から国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が毎年開催され、これから何年でどれだけのCO2を排出できるのか目標を決めをしています。

しかし、途上国は産業革命以降温室効果ガスを大量に排出してきた先進国こそが取り組むべき課題だと主張し、先進国と途上国の間には大きな溝がありますが、IPCC第6次評価報告書では残りのカーボンバジェットはわずかで待ったなしといえるでしょう。

カーボンバジェットを考える上で重要となる、2010年にメキシコで開催された気候変動枠組条約第16 回締約国会議(COP16)で決められた目標、パリ協定で設定された目標、IPCC1.5℃特別報告書をそれぞれ解説します。

気候変動枠組条約第16 回締約国会議(COP16)で設定された「2℃目標」

COP(コップ)とは、締約国会議(Conference of the Parties)の略です。

国連気候変動枠組条約に関する最大の国際会議であり、地球温暖化への対応は世界共通の課題であるとの認識のもと、1992年の気候変動枠組条約の採択以降、国際的な取り組みが進められています。

2010年11月29日から12月10日までメキシコのカンクンで開催された「気候変動枠組条約第16 回締約国会議(COP16)」では、先進国は2020年までの削減目標、途上国は削減行動を提出すること等が決定され、産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える「2℃目標」が設定されました。

パリ協定で設定された「1.5℃目標」

パリ協定は、2015年にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択、2016年に発効しました。パリ協定には、産業革命以前に比べて、世界の平均気温の上昇を2℃以下に、できる限り1.5℃に抑えるという目標が示されています。

気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2030年までに2010年比でCO2排出量を約45%削減しなければならないため、ハードルは高いです。

「歴史上はじめて、気候変動枠組条約に加盟する196カ国全ての国が削減目標・行動をもって参加することをルール化した公平な合意である」ことと「全ての国が、長期の温室効果ガス低排出開発戦略を策定・提出するよう努めるべきとしている」ことが大きな特徴といえます。しかし、2017年6月に米国のドナルド・トランプ大統領が脱退を表明するなど、合意通りに進んでいません。

パリ協定を受け日本では、中期目標として、2030年度のCO2排出を2013年度の水準から26%削減することを目標として定め、野心的な取り組みだとされました。

IPCC1.5℃特別報告書

2015年のパリ協定で気温上昇「1.5℃目標」が設定されましたが、CO2の排出量削減は進んできませんでした。

そこで2018年に韓国仁川で開催された「気候変動に関する政府間パネルIPCC第48回総会」では「IPCC1.5℃特別報告書」が承認されました。

「1.5℃特別報告書」とは、2040年には1.5℃の気温上昇すると予想したうえで、2℃の気温上昇との影響の違いや、気温上昇を1.5℃に抑えるための対策について取りまとめたものです。

1.5℃上昇した場合でも2100年には海面が28cm~55cm上昇するとされており、記録的な熱波も、1.5℃上昇で産業革命前の8.6倍、2℃では13.9倍なるとの見方もあります。

この報告書では、CO2の排出量と世界の平均気温の変化が比例していることを導き出し、1870年以降からの累積排出量を2900ギガトンに抑える必要があると言及しています。

すでに2011年までに1900ギガトンのCO2排出量があるため、2012年以降のCO2排出量の累計が1000ギガトンとわずかしかありません。

日本でも地球温暖化の影響は大きく、大型台風や記録的といわれる集中豪雨の頻発、記録的な命に係わる猛暑、農水産物収穫減少にまで及びます。

特に長期的には極端な大雨のが増大する傾向が見られ、アメダス地点の年最大72時間降水量は1976年以降10年間で3.7%上昇しました。

将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないためには、2050年にはカーボンニュートラル世界のCO2排出量が正味ゼロ(ネットゼロ)となっている必要があります。

ネットゼロとは

ネットゼロとは、CO2の排出量と吸収量が差し引きゼロの状態のことです。カーボンニュートラルと同じ意味として使われています。

「net」は英語で、「正味の、掛値のない」という意味です。

英語圏ではネットゼロという言葉が使われることが多いようです。日本でも、エネルギー収支がゼロの家のことを「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」と呼ぶなどして使われています。

カーボンバジェットは残り何年分?

Global Carbon Projectの2020年報告書によると、気温上昇を1.5℃に抑えたとしても、2020年から2030年の間に平均して毎年約1〜2ギガトンのCO2の削減が必要とされています。

産業革命前からの気温上昇を1.5℃におさえた場合、カーボンバジェットの残りはたったの8%しかありません。現在の勢いで排出を続けると10年あまりで上限に達してしまうのです。

2050年にネットゼロにするために残りの年数で排出できるCO2量

2050年にネットゼロにするためには、2030年に世界のCO2排出量を2010年比で45%削減しなければなりません。具体的には2012年〜2050年までに排出できるCO2は「1000ギガトン以内」が目安とされています。

日本の残りのカーボンバジェットは 6.5ギガトンです。日本のCO2年間排出量 1.1ギガトンなので、このまま同量を輩出し続けるとわずか6年で限界になります。

コロナ禍により一旦は、世界各国が経済が縮小したためCO2排出量は減少したものの、収支ではプラスのためCO2は増加したままコロナ収束で経済が回復したため、CO2排出量はまったく減っていません。

非常に難しい局面に差し掛かっているとみてよいでしょう。

改正地球温暖化対策の推進に関する法律(2022年)では、都道府県及び市町村CO2排出削減の計画を策定し実施することを努力義務としています。

この法律によりCO2排出ゼロに取り組むことを表明した地方自治体が増えつつあり、それぞれの自治体の実情に合った計画実施を行っています。

また、個人で出来るCO2対策を推進している自治体も多くあります。

環境省では「自治体排出量カルテ」を作成しており、温室効果ガス(CO2)排出量の現状、FIT制度による再生可能エネルギーの現状の情報、再エネポテンシャルの情報を可視的に得ることができるため、今後も取り組む自治体が増えることが期待されています。

1.5℃以下に抑えるなら残り何年?

2050年にネットゼロを達成するためには、世界で排出するCO2を1000ギガトン以内にしなければなりません。

2018年時点から50%の確率で1.5℃以下に抑えようとすればわずか7年です。

1.5℃の目標達成には、各国の計画をさらに高く設定しなくてはならないという専門家もいます。

2.0℃以下に抑えるなら残り何年?

2018年時点の量から見ると、66%の確率で2℃以下に抑えるにはあと12年ほどですが、1.5℃に抑える時より大きな気候変動に見舞われる恐れが指摘されています。

例えば、高温継続期間の増大、低温継続期間の増大、人が居住している地域での極端な高温、地中海・南アフリカでの強い乾燥、高緯度地域での大雨。

また、生態系が大きく崩れ、暑熱に関連する疾病や感染症の増大など、人間が暮らせる場所が縮小すると予想されます。

排出量ギャップとは?

排出ギャップとは、「目標達成に必要なGHG排出削減量」と「各国が掲げる排出削減目標」の差です。

パリ協定で「産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇を2℃より十分低く、1.5℃に抑える努力をする」という目標が設定され、各国で独自の排出削減目標を掲げました。

しかし、現在各国が掲げている目標をすべての国が達成した場合と現実の排出量に大きなギャップがあり、このギャップは6ギガトン〜11ギガトンを上回ると予測されています。

このギャップを埋めるためには、各国のCO2の削減目標に対する行動をより促進することが重要です。

世界のカーボンバジェットの現状

(出典:長期低炭素ビジョン(素案)参考資料集|環境省

世界のカーボンバジェットの現状は、もう残りがないと言えます。

この図は、地球の気温上昇を2℃以下にするために抑制しなければならないCO2の排出量です。2℃に抑えるには累積排出量が3000ギガトンが天井でしたがすでに2000ギガトン排出してしまっています。そのため2011年以降の人為起源の累積CO2排出量を約1000ギガトンに抑えなくてはなりません。

日本のカーボンバジェットの現状

日本が使えるカーボンバジェットは世界全体の1.7%と試算されています。

しかし、日本は過去のCO2累積排出量の5.1%を既に出しているため、日本に分配できるカーボンバジェットは事実上ありません。

日本のCO2排出量の3分の1は発電からでており、そのうちの90%が化石燃料を燃やす火力発電の影響です。

また、政府が2021年3月に発表した「2017 年度の大口排出事業者の温室効果ガス排出量」を見ると、産業部門の「鉄鋼・石油・化学」が排出量上位になっていることから、企業への支援と企業努力が求められます。

(参考:第1部 第2章 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁

2030年に間に合わせるにはカーボンバジェットはどれくらい削減すべき?

排出できるCO2の排出量のことを残余カーボンバジェットといいます。

IPCC 第 6 次評価報告書 第 1 作業部会報告書気候変動 2021によれば、1850 年から 2019 年までの世界の CO2 の累積排出量は 2390ギガトンとなっており、今後、気温上昇を 67%の確率で 1.5℃以下に抑えるための残余カーボンバジェットは 400ギガトンとされています。2℃以下だと残余カーボンバジェットは1150ギガトンです。

全世界では2019年と比べたCO2排出量を2030年に48%削減しなければなりません。また、日本は2030年までに2013年と比べ45%の削減を決定しています。さらに50%削減に向けて挑戦を続けるとも表明をしました。

CO2削減のための取り組み具体例

CO2の削減のために、電化、水素化、CCUS(排出されたCO2を集めて地中に貯留)の活用や技術革新を進めるなど、世界各国が取り組みを加速させており、その方向性は一致しています。

米国の取り組み

国土が広く自動車大国である米国では、CO2排出削減量の大きさは運輸、民生、産業の順での脱炭素化を進めています。

電力部門の2035年脱炭素化、産業分野は電化を進め、電化が難しい分野は水素化、航空分野等は持続可能な航空燃料(SAF)等に置き換えるとしています。

英国の取り組み

2019年に「2050年までの温室効果ガスのネットゼロ排出」を法制化しており、2035年までに1990年比78%削減を含むカーボンバジェットを設定しました。

日本の取り組み

CO2排出削減量の規模が産業、運輸、民生の順になっており、産業の脱炭素化に向けた政策に重点が置かれています。特にCO2排出量の3分の1を占めるエネルギー転換部門の政策が重要になっているため、改正温対法に基づき自治体が促進区域を設定し太陽光等の再エネを拡大しています。

また、次にCO2排出量の多い産業部門・運輸部門では、水素・蓄電池など重点分野の研究開発・社会実装の支援や、データセンターの30%以上省エネに向けた研究開発・実証支援を行うことになりました。

また、日本政府は、あらゆる政策で起業の挑戦をサポートするため、「グリーンイノベーション基金の創設」「脱炭素化の効果が高い製品への投資を優遇」「ファンド創設など投資をうながす環境整備」「標準化:新技術が普及するよう規制緩和・強化を実施」「日本の先端技術で世界をリード」の5つの政策ツールを発表しています。

再生可能エネルギーの導入

日本の電源構成において、再生可能エネルギーの発電割合を増やすことで、CO2排出量を削減できます。

火力発電への依存を減らす

日本のCO2排出量で最も多いのはエネルギー転換部門によるもので、そのうちの90%が発電からの排出となっています。その理由は日本の電気エネルギーの74.9%が火力発電に依存しているからです。

2011年の原発事故により、原発からの電気エネルギーの供給がほぼなくなったため、その代わりとして停止していた古い火力発電所を含め化石燃料などを燃やすことによる発電に舵を切ったことによるものです。

2030年に2013年比45%減を達成するためには、火力発電をできる限り停止させ再生可能エネルギーの導入を加速させなければなりませんが、再生可能エネルギーの占める割合は20.8%にとどまっている状況です。

日本政府も再生可能エネルギーの普及を推進している

日本政府の「エネルギー基本計画」を見ると、2030年度の電源構成を36%〜38%程度にするため、再生可能エネルギーの更なる導入の推進をしています。

具体的には、「改正地球温暖化対策推進法」に基づく再エネ促進区域が設定され、太陽光・陸上風力の導入を拡大し、更に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」に基づく洋上風力の取り組むとし、太陽光パネルの国産化や次世代太陽電池の開発を急ぐとしています。

エネルギーの安定供給との両立が必要

ではCO2を排出する発電方法をやめてしまえばいいのかといえば、そうではありません。現状、再生可能エネルギーだけでは電気の安定供給ができないためです。

電気は生活に欠かせないエネルギーです。企業や工場でも、安定した十分な電力供給がなければ、生産活動がストップしてしまいます。

特に近年普及しているインターネットの利用のデータ通信は、送電網、インターネット相互接続点、データセンターなどから成る複雑なインフラによって初めて可能になります。特にデータセンターでは大量の電気エネルギーを消費しています。

今後も増えることが確実視されているので、CO2を削減するためには計画を前倒しし一気に再エネ化を進めるべきでしょう。

(参考:エネルギー基本計画の概要|資源エネルギー庁

EVの普及

2050年のカーボンニュートラル・ネットゼロの実現に向け、CO2排出量を削減するため、2030年代には販売される新車がすべて電気自動車をはじめとする電動車になります。

EV車の導入を強力に進めるために、電池・燃料電池・モータなどのサプライチェーンの構築を急ぐとともに、EV車に対応したモビリティ社会の構築をするとしています。特に軽自動車や商用車等の、EV車などへの転換を後押しすることになりました。

下のグラフは2022年の燃料別新車販売台数(普通乗用車)の割合を表したものです。

EVの割合は1.42%と少なく、まだ普及しているとは言えません。

EV社の公共調達も一層推進する政策が打ち出されており、2024年もエコカー補助金の継続が予定されています。

EV車の活用状況や消費電力の調査分析をする検証事業や、EVゴミ収集車の普及促進に向けた実証試験も2024年度から始まる予定です。

(参考:カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会
(参考:エネルギー起源CO2排出削減技術評価・検証事業

ダイベストメント

投資家にとってCO2排出の上限を決めるカーボンバジェットは、化石燃料使用の規制強化や需要が激減することにより、化石燃料関連事業に投下した資本が回収できなくなり経済的損失が発生する極めて重大な投資要素となっています。

近年、投資に環境や社会貢献の視点を持つPRI(国連責任投資原則)に署名した機関投資家が急増していることからも、化石燃料関連事業のダイベストメントが進むことが予想されます。

日本では発電の約70%を、石炭・石油・ガスなど化石燃料にに頼っている現状は、欧州金融機関を中心に化石燃料からのダイベストメントが加速していることを考えると大変深刻です。

(参考:脱炭素の企業活動への影響 | 住友商事グローバルリサーチ(SCGR)
(参考:2050年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の検討の方向性

まとめ

カーボンバジェットとは炭素予算と訳します。人類の活動による気候変動による地球の気温上昇を一定レベルに抑えた温室効果ガス累積排出量の上限値のことです。

「パリ協定で設定された1.5℃目標」や「IPCC1.5℃特別報告書」で示された目標を達成するためには、CO2削減の取り組みを加速させなければなりません。

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