環境非営利団体『CDP』とは?情報開示・評価基準・企業が評価を受けるメリットと取り組み事例を解説

環境非営利団体『CDP』とは?情報開示・評価基準・企業が評価を受けるメリットと取り組み事例を解説

現代では多くの企業が地球温暖化による気候変動を抑止するため、温室効果ガスの削減に取り組んでいます。もちろんその活動自体は重要ですが、パリ協定で策定された高い目標を実現するためには、各企業の取り組みを第三者が評価する仕組みが重要です。

そこで重要な役割を担っているのが、非営利団体の「CDP」です。

今回は、気候変動抑止における国際的なイニシアチブである「CDP」がどのような役割を果たしているのか、情報開示・評価の基準やプロセス、企業が評価を受けるメリットや、高い評価を受けた企業の事例等について、詳しく解説していきます。

環境非営利団体(NGO)『CDP』とは?

これから「温室効果ガスの削減」や「脱炭素」の推進を考えている事業者にとって、「CDP」という存在について理解することは重要です。

CDPとは、英国で2000年に設立された非営利の環境団体(NGO)です。主な活動は企業や自治体、投資家などに対する環境活動の「情報開示の促進」および活動内容の評価であり、CDPが提供する情報開示システムは国際基準(グローバルスタンダード)となっています。

すでに多くの企業、投資家がCDPへの情報開示や投資に協力しています。2021年には署名数は590を超え、500名以上の投資家から投資を受けています。さらに2020年には投資運用総額が106兆米ドルを超えるなど、活動が急速に拡大していることがわかります。

CDPのスコアリング

CDPに対する企業や自治体の情報開示内容は、CDPが独自の基準で「評価(スコアリング)」するために用いられます。次からはそのスコアリングについて解説していきます。

CDPが作成している質問書

CDPのスコアリングでは、同社が企業に対して回答を要求する「質問書」の回答内容が重要な影響を及ぼします。まずは3つの評価分野について、それぞれ具体的に何が求められているのか解説していきます。

水セキュリティ

CDPが求める「水セキュリティ」とは、企業が有する「水リスク」への回避能力のことです。水リスクとは、人々の生活や生態系の維持に欠かせない水が、災害や汚染等の影響を受けることで、十分な量や品質が確保できなくなることを指します。

企業は自社の事業や地域の人々のために、上記のような水リスクを回避するための十分な対策を取る必要があります。CDPの「水セキュリティ質問書」では、いわばそのリスクへの対策度合いや回避能力が評価されるわけです。

フォレスト

CDPが求める「フォレスト」とは、企業にとっての「森林保全」にかかわる対応能力やリスク回避能力のことです。

パリ協定における気温上昇「1.5℃以内」という目標を達成するには、CO2の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の達成が必要不可欠です。これは、CO2の吸収量が排出量と同量以上になることで、はじめて達成されます。

森林(植物)にはCO2を吸収・固定化する役割があるため、企業は率先して森林保全活動を行う必要があります。CDPの「フォレスト質問書」では、この点に関する企業のリーダーシップや管理能力、認知度や透明性がCDPスコアリングを左右することになります。

気候変動質問書

CDPは「気候変動」という評価分野において、企業が持つ気候変動リスクの把握度合いや機会の創出、企業としての事業戦略の有無やサプライチェーン全体における排出量などを総合的に評価しています。

CDPの「気候変動質問書」において、企業はCO2の排出量算定に関して特別な注意を払う必要があります。なぜなら排出量算出の方法は常に「GHGプロトコル」等の国際基準に則った正確なものでなければならないからです。

CDPの評価基準・方法

スコアリングの際は、次に挙げる4つの要素を段階的に評価しながら点数配分し、最終的に「A~D」のスコアで評価されます。

  1. 情報開示:質問に対する自社情報の記載
  2. 認識:環境リスクの現状認識・影響の理解
  3. マネジメント:気候リスクの影響管理・取り組みの実施
  4. リーダーシップ:課題の適応・緩和、脱炭素社会の構築に先導的か

たとえば1番目の「情報開示」は、もっとも低い評価レベルです。この段階で「80%以上の開示レベル」という基準をクリアしなければ、2番目の「認識」以降のスコアを獲得できません。この評価システムにより、2〜4番目のスコアが0点になる可能性もあります。

  • 情報開示→認識:80%以上の開示レベルが必要
  • 認識→マネジメント:80%以上の認識レベルが必要
  • マネジメント→リーダーシップ:70%以上のマネジメントレベルが必要

その他、評価の副次的な部分となる「スコアリング・カテゴリー」や、スコアリングにおける重み付けの仕方についても理解しておくべきです。詳細は、CDPが公開している「2023年CDP気候変動質問書スコアリング基準変更点」をご覧ください。

情報開示プロセス

企業がCDPに情報開示する場合は、次のプロセスに則って行う必要があります。

  1. アカウントを作成する
  2. 組織アカウントにアクセスする
  3. 組織のCDPダッシュボードにサインインする
  4. オンライン応答システム (ORS) を開いてアクセスする
  5. アンケートを有効にする
  6. アンケートに回答を記入し、送信する
  7. 管理費を支払います(該当する場合のみ)

上記のとおり、企業がCDPに対して情報開示を行う場合は「CDPアカウント」が必須となります。ログイン後に所定の指示に従いアンケートを有効にしてから、回答・送信を行いましょう。

ちなみに2024年における企業の回答期間は「2024年6月上旬〜9月」です。CDPは2024年内にプラットフォームの刷新を予定しており、今後仕様が変更される可能性があります。

CDPの格付けでA評価を受けた日本企業

CDPはスコアリングにおいてもっとも評価が高い「A」評価を受けた企業を公表しています。2022年には330以上の企業がA評価を獲得し、そのうち92社は日本の企業です。

次から具体例としてA評価を受けた3つの企業をピックアップし、それぞれどのような取り組みを行っているか解説していきます。

花王株式会社(全項目A評価)

2022年にCDPのA評価を受けた日本企業の中で、唯一3項目(気候変動・フォレスト・水セキュリティ)すべてでA評価を受けたのが、大手化学メーカーである「花王株式会社」です。

花王株式会社と同様の高い評価を受けたのは、CDP評価対象企業のうち12社(1.3%)のみです。さらに花王は、3年連続全項目A評価という快挙も成し遂げています。

花王が高い評価を受けている背景には、企業としての包括的かつ具体的な取り組みが功を奏し、その結果が数字としても現れている点にあります。

同社は2019年に「Kirei Lifestyle Plan」というESG戦略を策定し、2022年には次の2点を中長期的な目標として定めました。

  • 2040年までにカーボンゼロを達成
  • 2050年までにカーボンネガティブを達成

この目標を達成するために、花王は再生可能エネルギー電力への急速なシフトを進めています。2030年までに使用燃料を非化石燃料に移行するため、製品ライフサイクル内におけるプラスチック使用量の大幅削減したり、自家消費型の太陽光発電施設を全国17拠点で導入するなど、脱炭素の動きを強めています。

これらの取り組みにより、はやくも2021年には「20%」のCO2排出量削減と「38%」の再生可能エネルギー比率を達成しています。

不二製油グループ本社株式会社(2項目A評価)

CDPのスコアリングにおいて2項目(フォレスト・水セキュリティ)でA評価を受けたのが、食品製造メーカーである「不二製油グループ本社株式会社」です。

不二製油グループは5年連続で森林部門、3年連続で水セキュリティ部門のA評価を受けています。さらにCDPがトップ企業を選出する「リーダーボード」にも含まれており、国際的にも高い評価を受けていることが分かります。

同社は「不二製油グループ環境ビジョン2030」において、次のような目標を掲げています。

  • Scope1・2のCO2排出量を「40%(2016年比)」削減
  • Scope3のCO2排出量を「18%(2016年比)」削減
  • 水使用量を原単位で「20%(2016年比)」削減
  • 廃棄物量を原単位で「10%(2016年比)」削減
  • 国内グループ全体で再資源化率「99.8%以上」を維持

同社はこの目標を達成するため、自社だけでなくステークホルダー全体でサステナビリティを推進しており、この点がCDPの高評価につながったと推測されます。

たとえば生産設備の洗浄方法を改善して使用する洗浄水の量を削減したり、蒸気の濃縮水を消火用水として再利用したりするなどの、水資源の使用を削減する取り組みを行っています。

積水ハウス株式会社(2項目A評価)

CDPのスコアリングにおいて2項目(気候変動・フォレスト)でA評価を受けたのが、大手ハウスメーカーの「積水ハウス株式会社」です。積水ハウスは「気候変動」分野で過去に4回A評価を受けていますが、「フォレスト」分野でA評価となったのは2022年が初めてです。

同社は脱炭素を進めるために、次のような具体的なビジョンを策定しています。

  • 2030年まで:事業用電力の50%を再生可能エネルギーに転換する
  • 2040年まで:事業用電力の100%を再生可能エネルギーに転換する
  • 2050年まで:脱炭素ライフサイクルCO2ゼロの実現

この目標を達成するために、同社がいち早く導入したのが「NZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」です。これはエネルギー消費量の実質ゼロ化が可能な住宅のことであり、住宅内で消費するエネルギーを「省エネ」と「創エネ」の2つで相殺します。

これは簡単にできるものではなく、先進的な技術を用いた建物の高断熱化と効率化を両立させることで初めて実現します。このような取り組みにより、同社はすでに2019年時点で「28%(2013年度比)」のCO2排出削減に成功しています。

企業がCDPで評価されるメリット

次は、企業がCDPの評価を受ける3つのメリットについて解説していきます。

ESG投資の獲得

CDPで評価が高い企業は、投資家が企業の非財務情報(環境・社会・ガバナンス)を基に投資する「ESG投資」の投資先に選ばれやすくなります。なぜなら投資家にとってCDPのスコアは、企業の持続可能性を評価するうえで重要な要素となるからです。

環境問題に対する取り組みを外部にPRできる

CDPのスコアは外部に対しても公表されるため、スコアが高い企業は環境問題に対する意識の高さや先進性を外部にPRできます。現代ではそれが外部の企業や投資家だけでなく、消費者が商品・サービスを選ぶときの基準にもなり得ます。

TCFDの情報開示に繋げられる

CDPが企業に提示する質問書は、CDPとは別に、気候変動に関する情報開示を求める「TCFD」の質問書との関連性(整合性)があります。TCFDで開示が求められている情報は以下のとおりです。

  • ガバナンス:気候変動リスクの監視や評価・管理体制
  • 戦略:気候変動による戦略や財務等への影響
  • リスク管理:気候変動リスクの認識・評価やリスク管理方法
  • 指標と目標:気候変動リスクと機会の評価

以上の内容は、CDPの気候変動質問書にも含まれています。実際のところ、企業による気候変動リスクの評価から、財務への影響を把握するまでのプロセスは、CDPが提示する質問書に回答することで対応可能となります。

CDPのスコアをあげるために企業ができること

CDPのスコアを上げたい企業が実践できることとしては、次の点が挙げられます。

  • 質問書に的確に回答する
  • 再生エネルギーの導入・転換を推進し、割合を高める
  • パリ協定の目標(気温上昇1.5℃以内)に準拠した計画を策定する

CDPが提示する質問書への回答は、明確な根拠やケーススタディの提供が要求されます。C「不十分な回答」とみなされるとスコアが下がってしまうため、質問書への「良い回答例」を参考に、STAR(状況・課題・行動・結果)を明確化した回答を意識しましょう。

また当然ながら、具体的な取り組みの結果が数字となって表れている企業ほど評価は高くなります。特にA評価を目指す企業であれば、再生エネルギーの導入・転換割合が高いことや、サプライチェーン全体で高い削減率を達成している、などの「数字を伴う結果」を出していることは必須といえます。

まとめ

企業にとってCDPから高い評価を受けることは重要です。しかし最も重要なことは、CDPから高い評価を受けるために行う活動は、すべて地球規模の問題である気候変動の抑制につながる、という点です。CO2排出削減や再生エネルギーの導入を推進している事業者は、評価が未来に直結する「CDPへの参画」を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:

CDPとSDGs
スコアリングイントロダクション 2023
2023年 CDP気候変動質問書 スコアリング基準変更点
企業としてどのように開示するか(英文)
CDPとTCFD
CDP概要と回答の進め方
JP企業スコア – CDP
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