水素エネルギーとは?メリット・デメリットと普及しない理由から考える将来性・課題

水素エネルギーとは?メリット・デメリットと普及しない理由から考える将来性・課題

水素エネルギーは燃やしてもCO2を排出しないことから、脱炭素化のエネルギーとして注目を集めています。

水素エネルギーは、基本的にCO2を排出しないため環境負荷が低いことや、災害に強い、電気エネルギーと熱エネルギーを供給できるエネルギーなどのメリットがあります。また、自給率をあげることでエネルギー安全保障の面からも期待が寄せられています。

しかし、水素エネルギーの普及には、デメリットとして爆発事故への不安があることや、コストが高いことや、企業の技術開発に対しインフラの整備が追い付いていないなどの課題があります。

水素エネルギーを活用するため、政府は2023年6月に「水素基本戦略」をまとめ、官民合わせ15兆円の投資を行うことから、水素エネルギー関連事業は将来性の高いといえるでしょう。

水素エネルギーとは?

(出典:NEDO)

水素エネルギーとは、水素と酸素の化学反応から得られるエネルギーのことです。

水素エネルギーはCO2を排出しないため、脱炭素化のエネルギーとして注目を集めています。

水素のエネルギー利用は古くからあり、日本でも初期のガス灯や都市ガスに利用されていました。現在でも産業用として半導体製造などに水素ガスが使われていますし、水素は酸素と結合すると大きなエネルギーを出すことから、液化水素としてロケットの打ち上げなどにも利用されます。

また、水素を燃やすことにより発生した水蒸気でタービンを回し発電したり、燃料電池として電気を作ったりできます。

水素は宇宙を構成する元素質量の75%を占める最も豊富な元素です。地球上では酸素と結合して水として存在しています。この水を電気分解し水素を取り出すことができ、その他、バイオマス化石燃料の中などあらゆる形で水素は存在するため、エネルギー資源としての期待はますます大きくなるでしょう。

水素エネルギーには3種類ある

水素は、化石燃料に頼りCO2を排出する「グレー水素」、化石燃料を使うものの大気中に放出しない「ブルー水素」、製造工程でCO2を排出しない「グリーン水素」の3種類があります。

エネルギーとして利用するための水素の製造工程の違いで生まれるこの3種を解説していきます。

グレー水素

グレー水素は、石炭や天然ガスなどの化石燃料を原料としてつくる水素です。

化石燃料には炭素が含まれているため、製造工程でCO2を排出します。

水素を使用する際にCO2を排出しなくても、製造工程でCO2を排出することはカーボンニュートラルの視点からみれば評価されません。

日本では製造される水素の大半がCO2を排出して作られるグレー水素です。

ブルー水素

ブルー水素も、グレー水素と同様に化石燃料が原料です。製造工程で出るCO2を回収処理し、大気中への排出を抑制することによりブルー水素と呼ばれるようになります。回収したCO2はCCSと呼ばれる貯留技術で地中に閉じ込める処理がなされます。

日本では製造される水素の大半がCO2を排出して作られることから、二酸化炭素回収・貯留技術・CCSを導入することで、既存の設備等を引き続き使用しながら、CO2排出量の削減することが可能になるでしょう。

しかし、CO2が安定的に貯留され続けるかなど、評価にはまだ課題があります。

グリーン水素

グリーン水素は、水を電気分解して製造する水素です。

水素を製造する際に使われるエネルギーを、太陽光や洋上風力などの再生可能エネルギーにすることで、製造工程でのCO2排出の削減が期待されています。

グリーン水素は化石燃料に依存しないため最もクリーンな水素ですが、日本では再生可能エネルギーの普及が遅れていることから、グリーン水素製造にはまだ時間がかかると考えられます。

水素エネルギーのメリット

水素エネルギーには様々なメリットがあります。主な4つのメリットを紹介します。

地球に優しい

水素エネルギーは、基本的にCO2などの温室効果ガスを発生させないため、地球にやさしいと言われています。

現在は主に化石燃料から水素を取り出しているのでCO2を排出していますが、今後製造工程でCO2を排出しないグリーン水素にシフトすれば、カーボンニュートラルに大いに期待できるでしょう。

水素エネルギーによってエネルギー自給率を向上できる

日本は90%以上の一次エネルギーを海外から輸入する化石燃料に依存している現状があり、発電も70%を石炭・石油・ガスに頼っています。

特に、原油は中東地域に、LNGや石炭はオーストラリアやアジア地域など、特定地域への依存度が高いことから国際情勢の影響を受けやすいです。

このように「エネルギー安全保障」の観点から大きな課題を抱えていますが、水素エネルギーは水を電気分解して取り出すことができるので、水資源に恵まれた日本にとって、エネルギー自給率をあげる救世主になると期待されています。

(参考:資源エネルギー庁 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

災害に強い

近年、気候変動の影響による記録的な豪雨や土砂災害など、水害のリスクが大きくなってきました。

また、巨大地震が発生した際、数日から1週間程度、北海道胆振地震で体験した「ブラックアウト」と呼ばれる大規模停電が発生する可能性も指摘されています。

水素は燃料電池として蓄えることができるので、災害時にエネルギー源として使うことができます。

令和5年6月に見直された「水素基本戦略」を踏まえ、東京都をはじめ多くの自治体で社会実装に向けた取り組みを始めました。

電気と熱の2つのエネルギーを供給できる

水素は燃料電池を通して電気エネルギーと熱エネルギーを供給できるため、エネルギーの有効活用ができます。

これは「熱電併給システム」と呼ばれるもので、エネファーム関連でよく使われるコジェネ(コージェネレーションシステム)のことです。

発電装置を使って電気をつくり、発電時にでた熱を回収し給湯や暖房などに利用します。

コジェネは、家庭で使われるほか、工場や商業施設や病院などの比較的大きな建物でも使われています。

また、地区全体に電気と熱を供給する(面的利用)という事例もでてきました。

水素エネルギーのデメリット

クリーンなエネルギーとして期待される水素エネルギーにも、デメリットがあります。

燃えやすい性質により爆発する可能性がある

カーボンニュートラルに向けて新エネルギーとして期待が寄せられる水素エネルギーは、発電や自動車の燃料として実用化が始まっています。

水素は、拡散しやすく、静電気程度のわずかな火元で発火し着火後には爆発をする恐れもあります。

2019年には、韓国の水素工場やノルウェーにある水素ステーションなど、海外ではいくつかの爆発事故が起きていることから、きちんと管理することが重要です。

ガソリンや石油などと同様に、正しく扱えば安全です。

コストがかかる

2023年4月現在で、水素の供給価格は1立方メートルあたり100円で、既存燃料の最大12倍です。

150以上のグローバル企業で構成する「水素協議会」とマッキンゼーがまとめたリポートによると、パイプラインを使えない日本はコストが割高になると言われており、克服するための対策が不可欠です。

水素の低コスト化のためには、安価な原料を使って水素をつくる、水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンを構築する、燃料電池自動車(FCV)や発電や産業利用などで大量に水素を利用するなどを実現する必要があります。

水素エネルギーの活用事例

水素エネルギーは主に、水素を直接燃料にする「直接燃料」、水素とCO2を合成して燃料にする「合成燃料」、小さな発電所としての「燃料電池」として活用されています。

直接燃料

ガスタービンを回す火力発電や、高火力が必要な工業炉など、水素を直接エネルギーとして利用できます。

また、自動車への活用も期待されます。水素エンジンは基本的な構造がガソリンエンジンと同じで、燃料として水素を燃焼させる内燃機関なので、大型車など重い車体に対するパワーの面でも問題なく、移動途中での水素の補給にかかる時間もガソリンと変わりません。

合成燃料

合成燃料は、複数の炭化水素化合物の集合体で、発電所や工場から排出されたCO2(二酸化炭素)と、再生可能エネルギーなどでつくった電力を使って「水電解」をおこなうことで調達するH2(水素)を合成して製造される液体燃料です。

再生可能エネルギーを利用して生産した水素は「e-fuel」と呼ばれ、カーボンニュートラルを達成するエネルギーとして注目されています。

合成燃料は、貯蔵タンクやパイプラインなど既存のインフラを使え、自動車、船舶、航空機のエンジンに手を加えることなく利用が可能なことから、低コストでの導入が期待されています。

燃料電池

燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて水をつくる過程で発生する電気や熱をエネルギーとして使います。小さな発電所と言われています。

燃料電池の用途は2つあり、「燃料電池自動車」と「定置用燃料電池」です。家庭用の燃料電池はエネファームと呼ばれ定着しています。

水素エネルギーはなぜ普及しない?将来性と今後の課題

資源の少ない日本にとって、エネルギー安全保障の面からもカーボンニュートラルの面からも将来性が期待される水素エネルギーですが、普及していない現状があります。考えられる課題を解説します。

CCS・CCUなどの技術開発が必要

水素エネルギーはCO2を排出しないため、脱炭素化のエネルギーとして注目されていますが、現在製造されている水素は、石炭や天然ガスなどの化石燃料を原料としている場合が多いので、製造工程でCO2を排出しています。

CCSは、排出されるCO₂を回収して地下深くに埋め貯留する技術です。CO2を大気中に再放出させないため、地球温暖化に作用しないようにします

北海道苫小牧市で行われた日本発の実証実験では、製油所の水素製造設備から排出されるCO2を含むガスをCO2分離・回収/圧入設備までパイプラインで輸送し、そのガスからCO2を分離・回収後、海岸から3~4km離れた海底下の貯留層へ圧入・貯留しました。

CO2が漏れることなく安定的に貯留され続けるかどうかの評価はこれからで、十分な量のCO2を貯留するための地層を見つけることも必要となります。

CCUは、回収したCO2を利用して化石燃料を代替しCO2を削減する技術です。

水素を CO2と反応させて、メタンなどのカーボンニュートラルな代替製品に変換するなどがあげられます。

日立造船株式会社では、ごみ焼却場から排出されるCO2を再生可能エネルギー由来水素と反応させ、天然ガス代替となるメタンを製造する実証実験を行っています。

CCSもCCUも、今後の技術開発と安全性の実証が必要になります。

水素サプライチェーンの構築が不足

水素エネルギーをカーボンニュートラルを達成するために使っていくためには、社会全体で利用できるサプライチェーンの構築が必須です。

日本政府は大規模水素サプライチェーンの構築を目指し、上限3000億円の国庫負担をして水素サプライチェーンの構築を進めています。

日本は地形的な問題もあり、ブルー水素・グリーン水素共に、輸入を前提に考えなくてはなりません。

目下のところ、オーストラリアを原料調達先として考えており、同国で生産された水素の輸入を目指すということです。

具体的には、オーストラリアのビクトリア州には、未利用の「褐炭」と呼ばれる化石資源が大量にあるとされています。使い勝手の悪さから国際取引もされていませんが、川崎重工株式会社、岩谷産業株式会社、シェルジャパン株式会社が着目し、「褐炭」で水素を製造し日本に輸入する実証事業が始まりました。

水素供給のためのインフラ整備の遅延

政府は2050年のカーボンニュートラルに向け「グリーン成長戦略」を打ち出し、水素は14の重点分野の一つに位置付けられていますが、水素社会の実現に必要なインフラの整備は遅れています。

「製造」「輸送」「供給」「利用」の連携を急がなくてはなりません。

既存のガス管を利用した水素供給インフラの整備も検討され、秋田県能代市では、「風力発電により製造した水素を、都市ガスに近似したガスと混合し、ガス配管によって隣接地に設置した利用場所へ供給、市販ガス機器において利用する」という実証事業が行われました。

また、北海道室蘭市では、「風力発電により製造した水素を、既存LPガス配送網を活用し、円筒型水素吸蔵合金タンクにて低圧で配送を行い、一般住宅に設置する燃料電池、小規模食堂や宿泊施設における水素ボイラーおよび金属加工工場における水素ガス切断で利用する」という実証事業が行われています。

水素エネルギーを取り入れた事例・具体例

サプライチェーンの問題や供給インフラ整備の遅れはあるものの、先駆けて水素エネルギーを取り入れた事例もあります。5つ具体例を紹介します。

水素エネルギーを利用した燃料電池で走るバス

東京都は、エネルギーの安定供給の確保や脱炭素社会の実現に向け、水素エネルギーの普及に取り組んでおり、その一環で「燃料電池バス」の導入を進めています。

2023年3月現在、東京都交通局が運用している燃料電池バス「SORA(ソラ)」は73台で、トヨタ自動車㈱が開発しました。2024年度中には80台に増やす計画になっていますが、バスに対応した水素ステーションが都内では9カ所にとどまっているため、江東区の有明自動車営業所の敷地内に都独自の水素ステーションを整備する計画も立てています。

また、燃料電池バスは、外部給電器を使えば、静音で家電製品等へ給電することも可能なことから、災害等による停電が発生した際に、避難所で交通局の燃料電池バスを活用した給電支援を行うことになりました。

FCV(燃料電池自動車)

燃料電池車(FCV)と水素エンジン車は、どちらも水素をエネルギーとして動きます。燃料電池車と水素エンジン車との違いを簡単に解説すると、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)は、燃料電池の発電のために水素は使用され、発電された電気でモーターを動かす電気自動車(EV)の仲間です。

一方、水素エンジン車は、水素エンジンを搭載した自動車で、エンジンの燃焼室で水素を燃焼し、その爆発力で車を動かします。原理はガソリン車と同じなので、ガソリン車をそのまま使うことができコストが低いという利点がありますが、開発半ばという段階です。

現段階で燃料電池車(FCV)は、究極のエコカー・クリーンカーと言われており、「走行中のCO2排出ゼロで排出するのは水のみ」「1回3分程度の水素充填で長距離走行(650km以上)が可能」「電気自動車と同様の滑らかな加速・静寂性」という3つの特徴があります。

燃料電池車(FCV)の導入は、2023年に7755台です。

水素発電

出典:NEDO

水素発電とは、水素をガスタービンで燃焼させることで発生させたガスによりタービンを回転させ発電します。 ガスタービンからの排熱をボイラーで熱利用することにより、高い熱効率を発揮する発電方式です。

日本の電気エネルギーの74.9%が火力発電に依存していますが、燃料に石炭や天然ガスなどの化石燃料が使われているため大量のCO2を排出していますが、火力発電で使われている化石燃料を水素に代替することで火力発電の脱炭素化が可能となります。

日本では2017年に「水素基本戦略」を策定して以来、世界に先駆けて水素エネルギーの利用のための技術開発に取り組んできました。

三菱重工の水素ガスタービンは、既存の発電所設備に対して最小限の改造で適用が可能となるもので、2018年には既に水素30%混焼を達成しており2025年までに水素100%専焼を目標に掲げており世界をリードしています。

(参考:エネルギー基本計画の概要|資源エネルギー庁

エネファーム(家庭用燃料電池)

エネファームとは家庭用の定置用燃料電池のことで、日本で最も普及している燃料電池です。エネファームは燃料電池ユニットで電気をつくり、発電時に排出される熱を回収して、給湯や暖房などに利用します。

2009年に世界に先駆けて日本で販売が開始されましたが、その当時は1台300万円あまりもしました。しかし、2022年9月末時点で45万台以上が普及しており、価格も100万円を切っています。また、エネファーム本体の大きさも小型化され、より設置しやすくなり今後はますます需要が拡大されることが予想されます。

エネファームは家庭に供給される化石燃料であるガスを使うことから、総合エネルギー効率が高いとはいえ完全なカーボンニュートラルではありません。家庭用の再エネ発電を組み合わせることにより、よりエコな「次世代ZEH+」を進めています。

また、災害時でもガスの供給が停止していなければ、エネファームは電気と熱の供給をつづけることが可能なので、エネファームの役割が期待されています。

(参考:資源エネルギー庁 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」)

アンモニア製造

アンモニアを製造する過程では水素が必要です。アンモニアは化石燃料を利用して作られるグレーアンモニアが大半ですが、アンモニア製造時のCO2を地中に貯留することや、グリーン水素を使うことで、カーボンニュートラルに貢献できます。

また、アンモニアは水素よりも輸送のしやすさやコスト面などで優れた特徴を持つため、水素同様に発電に利用することが計画されています。

まとめ

水素エネルギーはCO2を排出しないため、脱炭素化のエネルギーとして注目を集めています。

水素エネルギーは水素を直接燃料にする「直接燃料」、水素とCO2を合成して燃料にする「合成燃料」、小さな発電所としての「燃料電池」として活用されています。

水素エネルギーのメリットは、地球環境にやさしいことやエネルギー自給率を向上できること、災害に強いなどです。

日本にとって重要な水素エネルギーがなぜ普及しないのかというと、まだ技術開発が必要なことや、水素のサプライチェーンと供給のためのインフラ整備が整っていないことがあげられます。しかし、水素エネルギーを取り入れた事例も進んでいます。

例えば東京都では水素エネルギーを利用した燃料電池を搭載したバスを運行させており、2024年度には80台に増やす予定です。それに伴い水素ステーションを新たに作ることになっています。

FCV(燃料電池自動車)も開発され2023年で7755台が走っています。

家庭用の燃料電池であるエネファームも小型化と価格低下で導入が進んでいます。

水素発電やアンモニア製造に水素を使う技術開発も進んでいます。

「水素基本計画」の策定以来、政府も多額の資金を投入することが決まっていることから、世界に先駆けて技術開発を行っている日本企業の後押しになるでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です