原子力発電とは?メリット・デメリットと発電の仕組み・今後の課題を解説

原子力発電はどんな仕組み?問題点と今後の課題、メリットなどを解説!

数多い発電方法のなかで、賛否が多いのが原子力発電です。効率的に発電が行なえて便利な反面、危険性が高いというイメージを持っている人も少なくないと思います。

しかし、否定的なイメージばかりが先行して、原子力発電とは具体的にどのような発電方法なのか、明確に理解している人は少なくないかもしれません。

今回は、原子力発電の仕組み、メリット・デメリット、国内・海外が抱えている原子力発電の課題などについて、詳しく解説していきます。

原子力発電とは

原子力発電とは、文字通り原子力を利用した発電方法です

石炭・石油などといった化石エネルギーよりも強力な力を発揮する発電方法として、世界各国で重宝されてきました。次より原子力発電の具体的な仕組みなどについて説明します。

原子力発電の仕組み

原子力発電 における原子力とは、天然資源であるウランから生じるエネルギーのことです。ウランとはウラン鉱山から採れる鉱石で、その種類によって「238」「235」と数字が付けられて分類されています。

原子力発電で使用される燃料は、種類が異なるウランを混合させて加工した、「ペレット」という名称の直径1cmほどの円柱です。

ペレットは、原子力発電所の原子炉で中性子を当てることによって核分裂を起こし、これにより大きな熱エネルギーが生まれます。

原子力発電の仕組み

(引用:経済産業省・資源エネルギー庁

この図のように、熱エネルギーにより蒸気が発生して、その力がタービン(羽根車)を高速回転させて、発電機が作動する仕組みです。

化石エネルギーは大量の燃料が必要ですが、原子力発電の場合は少量のウランで巨大なエネルギーを生み出す特徴があります。

原子力発電は再生可能エネルギーではない

CO2排出による地球温暖化問題・エネルギー資源の枯渇問題など、日々の生活ではさまざまな世界規模の問題がありますが、それらの対処法として注目されているのが、再生可能エネルギーです。

再生可能エネルギーは、太陽光・風力・地熱などが代表格で、他のエネルギー資源である石炭や石油などの化石エネルギーと異なり、枯渇の心配がありません。

原子力発電の資源であるウラン鉱石も、再生可能エネルギーと思われがちですが、答えはノーです天然の鉱物・海水に含まれているウランは確かに膨大な採掘量が確認されていますが、決して無限ではありません。

少量で巨大な発電エネルギーを生み出せる原子力発電ですが、再生可能エネルギーとは異なり、資源は有限なので枯渇する可能性もあります。

原子力発電のメリット

原子力発電方法にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

以下より代表的な2つのメリットを紹介します。

安定してエネルギー供給量を維持できる

原子力発電のメリットは、エネルギー資源であるウランの供給が安定している点です。もう一方の発電方法の代表格である火力発電は、石油を燃料として利用します。

石油の主な原産地は紛争の多い中東・アフリカ地域です。これらの地域は国内情勢が安定しておらず、その情勢の不安定さが輸入量に影響を及ぼします。

しかし、原子力発電の資源であるウランは世界中のあらゆる地域で採掘されており、主な採掘地域であるオーストラリア・カナダなどは国内情勢も安定しているため、輸入量に影響が出にくくなっています。

輸入量が少ないと値段も高騰しますが、そのような事態が起きにくいのが原子力発電のメリットです。

また、太陽光・風力といった再生可能エネルギーは、エネルギーが無限というメリットがありますが、天候などによってエネルギー供給量が左右されるため、安定していません。しかし、原子力発電は常に安定した供給が可能です。

発電効率が良い

原子力発電は他の発電方法に比べてコストが格段に少ないため、効率的かつ安定した電力供給ができるのもメリットです。

原子力発電を他の発電方法と比較した場合、具体的にどれだけコストが低いのかは、資源エネルギー庁HPに掲載された表にまとめられています。

(引用:経済産業省・資源エネルギー庁

「100万kWの発電設備を1年間稼働」という同じ条件ながらも、他の発電方法と比べて45,000分の1〜111,000分の1ほどの資源量で済むのが、原子力発電の特徴です。

また原子力発電の燃料であるウランは、原子炉のなかで4〜5年間にわたって継続利用でき、利用後の燃料も再利用が可能なため、わずかな量で数年間の発電が行なえます。

原子力発電のデメリット

少量の資源で、長期間の安定した発電が可能な原子力発電ですが、その反面デメリットも少なくありません。原子力発電の具体的なデメリットを解説していきます。

事故が起こると広い範囲で被害を受ける

原子力発電の核分裂は、放射性物質を生成します。原子力発電で生じる放射性物質は、「高レベル放射性物質」に分類されており、直接接触すると人体や環境に多大な被害を及ぼします。

放射線を受けた人体は、皮膚表面だけでなく細胞やDNAなど体内にまでダメージを受けます。結果、白血球の消滅・ガン細胞の発生率の上昇などにつながります。

原子力発電は、このような高い危険性を持つ放射性物質が発生するため、安全に関して厳重な管理体制を敷いています。しかしながら、過去には以下のような大規模な事故が起きています。

チェルノブイリ原発事故

画期的と思われていた原子力発電が危険な発電手段であるという認識に変わったのが、1979年のスリーマイル島原発事故、そして、1986年4月に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故です。

今のウクライナ領チョルノービリであるチェルノブイリにある原子力発電所では、事故当日にトラブルを想定した試験を行なっていました。その際のミスにより起きたのが炉心溶融(ろしんようゆう)です。

炉心溶融とは、原子炉内にある核燃料が溶解する現象で、それが起きると発生した水蒸気が爆発します。この事故により溶鉱炉内の放射性物質が大気中に放出されるという、大事故が起きてしまったのです。

この事故によりチェルノブイリ地域は広い範囲で汚染され、事故後の処理に膨大な費用が費やされました。この大事故は世界中を震撼させ、「原発=非常に危険」というイメージにつながったのです。

福島第一原発事故

1986年のチェルノブイリ事故は、安全で効率的と思われていたイメージを変える大事故でした。しかしチェルノブイリ事故は遠い海外の出来事であったため、一部の日本人を除いてそれほど深刻な問題という認識はなかったといえます。

その考えが一新されたのが、国内で起きた福島第一原発事故です。2011年3月11日に起きた東日本大震災により、日本は東北地方を中心に多大な被害を受けました。そしてその大震災の二次被害として発生したのが巨大津波・そしてそれによる福島第一原発の大打撃です。

福島第一原発は福島県内の太平洋側という立地であったため、地震により発生した巨大津波を直接受け、その大打撃で原発を稼働させていた電源が故障しました。

それにより福島第一原発の原子炉3つから炉心溶融が起き、多量の放射性物質が原発外へ放出されてしまったのです。この原発事故により以下のような発令が出ました。

  • 福島第一原発から半径20km以内:警戒区域
  • 原発から20〜30km以内:緊急時避難準備区域

震災の被害に加えて原発による大きな被害を受けた福島県民は、住んでいたエリアを離れる羽目になったのです。

放射性廃棄物が発生する

原子力発電の深刻な問題として挙がるのが、発電によって発生する放射性廃棄物の存在です。原子力発電で使用される使用済みの核燃料は、一般のゴミ・廃棄物のように簡単に処理できないため、再処理工場へ送られます。

再処理工場で行なう作業は、使用済み核燃料に含まれたウラン・プルトニウムの分離・摘出です。そして残された廃液は容器に入れて固めます。この固形物が「核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)」です。

また、原子力発電所および再処理工場で作業員が身に付けている手袋や防護服も、放射性廃棄物の一種となっています。

廃棄物の中でも核のゴミは、人体を20秒ほどで死に至らせる強力な放射線を持っており、放射線がなくなるまで、1,000年ほどかかる仕組みです。

そして、このような有害な廃棄物の消滅方法は発見されていないため、原子力発電所内および再処理方法で厳重に保管されています。

しかし、先述したような原発事故があった場合、保管されていた廃棄物は外へ放出されてしまうため、莫大な被害が生じてしまうのです。

この破棄不可能で有害な放射性廃棄物が、原子力発電の大きな問題点および悪いイメージの象徴ともいえます。

日本で稼働している原子力発電所一覧

日本の原子力発電所と、その中でも現在稼働中の発電所を一覧で紹介します。

事業者名 発電所名
日本原子力発電 東海第二発電所
敦賀発電所1号機
敦賀発電所2号機
北海道電力 泊発電所
東北電力 女川原子力発電所
東通原子力発電所
東京電力ホールディングス 福島第一原子力発電所
福島第二原子力発電所
柏崎刈羽原子力発電所
中部電力 浜岡原子力発電所
北陸電力 志賀原子力発電所
関西電力 美浜発電所
高浜発電所
大飯発電所
中国電力 島根原子力発電所
四国電力 伊方発電所
九州電力 玄海原子力発電所
川内原子力発電所

2023年日本で稼働している原子力発電所

新規制基準の審査をクリアし、現在稼働している原子力発電所について解説します。

  • 泊発電所
  • 東通原子力発電所
  • 女川原子力発電所
  • 福島第一原子力発電所
  • 福島第二原子力発電所
  • 東海・東海第二発電所​​
  • 柏崎刈羽原子力発電所
  • 志賀原子力発電所
  • 敦賀発電所
  • 美浜発電所(一部再稼働、現在は停止中)
  • 大飯発電所(一部再稼働)
  • 高浜発電所(再稼働)
  • 島根原子力発電所
  • 浜岡原子力発電所
  • 伊方発電所(一部再稼働)
  • 玄海原子力発電所(一部再稼働)
  • 川内原子力発電所(一部再稼働)

かつて国内で稼働していた原子力発電所は全国に54基あり、国内の電力の30%ほどを担っていましたが、東日本大震災による大規模な原発事故により、原発は大きな変化がありました。

現在(2023年10月現在)の国内の原発の稼働は、大飯・高浜・玄海・川内・伊方の6エリア、合計12基です。これらは、地元の同意を得ての再稼働となっています。これ以外の原発は稼働停止・廃炉という扱いです。

(参考:エネ百科)

世界の原子力発電の稼働状況

海外における原子力発電はどのような取り組みをしているのでしょうか。世界各国の原子力発電の推移は、以下の表の通りです。

(引用:日本原子力文化財団

以上が世界の原子力発電の稼働推移です。上記のグラフを見て分かる通り、2000年代に入り、CO2による地球温暖化・エネルギー枯渇問題の対処として、原子力発電量は増加していきました。

しかし、2011年の東日本大震災の勃発、それに伴う原発事故により、原子力発電の推進は見直されることになり、発電量は世界的な減少が目立つようになったのです。

2014年ごろから再び発電量は増加するようになり、原子力発電はピーク時よりは減少しているものの、世界的な規模で見ても発電の主流となっています。

特にヨーロッパでは、原子力発電をクリーン電力の1つと位置づけ、その発電量を増やす動きが出てきています。

(引用:日本原子力文化財団

原子力発電を利用している国は、国によって原子力発電に対する政策が異なるのが特徴です。段階的に廃止する方向を推進する国もあれば、新規導入・増設を計画している国もあります。

チェルノブイリ・東日本大震災と、世界規模の原発事故がありながらも、効率的な発電が可能である原子力発電は、まだまだ重要な電力供給方法として世界で利用されているのが現状です。

原子力発電の今後の課題と問題点

今後、原理力発電とどう向き合うかという課題は、東日本大震災での大きな被害を受けた日本にとっては、重要な問題です。

では、原子力発電に関する今後の課題、対処しなくてはないけない問題点とは何か、以下より説明します。

リスクの見直し

原子力発電の重要な課題の一つが、抱えている多大なリスクの再認識とその対策の見直しです。原子力発電は、人体に対して致死量レベルである高レベル放射線を排出するため、以前からさまざまな厳重な管理を行なってきました。

発電所で働く従業員および発電所周辺の環境に対しては、どの発電所も24時間体制で、不慮の事態・トラブルも想定しての管理体制を行なってきた歴史があります。

しかし、旧ソ連のチェルノブイリ事故・東日本大震災による大事故があったにも関わらず、想定外の事故が起きた場合の対策が100%完遂できていないというのが、原発を取り巻く現状です。

東日本大震災の原発事故以来、原発稼働エリアの各所では、巨大な津波への対策である防潮堤の強化・機器への衝撃を緩和する対策などを実施しています。

とはいえ、そのような対策も実際に大震災・津波が再び起きた際、どれぐらいの防止効果があるのかわかりません。

実際に原発の安全性を高めるために、さまざまな技術開発・その技術導入の試みが実践されていますが、住民たちを100%守ってくれるリスク対策を完成させることが、今後の大きな課題といえます。

放射性廃棄物の最終処分問題

原子力発電が抱える問題といえば、燃料利用後に発生する廃棄物の存在も大きな問題です。原子力発電で生じる廃棄物は高レベルの放射能を多量に含んでおり、廃棄物は完全に処理できるわけではありません。

そのため、放射性廃棄物の減少・致死量に達する放射能を弱める・廃棄物の再利用の決定的な方法を構築する必要があります。

実際に行われていることは、高レベル放射性廃棄物の再利用です。これは使用後の燃料から再利用可能なウラン・プルトニウムという成分を取り出して、再び燃料を作り出す方法になります。

また、実践されているもう一つの対処方法は、地層処分です。これは放射性廃棄物を頑丈なケースに入れて、地中に埋める作業になります。この場合、ただ地層を深く掘るのではなく、地下水と接触しないように採掘作業を慎重に行わないといけません。

再利用・地層処分ともに、放射性廃棄物を地上で管理するよりも、格段にリスクが低く安全です。しかし、これらの対処方法も、放射性廃棄物への決定的な対処とはいえません。

さらに廃棄物への対処方法を研究しなければいけないのが、今後の課題といえます。

建設コストが高い

原子力発電はわずかな資源で大きな電力を生み出すことが可能というメリットがありますが、建設コストがかかるという問題があります。

各発電方法にかかるコストを、経済産業省・資源エネルギー庁HP『各電源の諸元一覧』のデータを元に以下の表にまとめてみました。

発電方法 建設費(1kWあたり) 人件費
原子力 370,000円 20.5 億円/年
石炭火力 250,000円 3.6 億円/年
LNG火力 120,000円 6.0億円/年
石油火力 200,000円 1.9 億円/年
陸上風力 284,000円 0.6万円/kW/年
(修繕費など含む)
洋上風力 515,000円 2.25万円/kW/年
(他の費用も含む)
地熱発電 790,000円 3.3万円/kW/年
(他の費用も含む)​​
太陽光(メガソーラー) 294,000円 0.37万円/kW/年
(他の費用も含む)​​
水力 640,000円 2,000万円/年

上記の表を見てわかる通り、原子力発電は建築費こそ他の発電方法とそれほど大きな違いはありませんが、消費ワット数で考えると4,000億円以上の費用がかかります。また人件費など他の経費もかかるために、建設費用・維持費などコストがかかるのが特徴です。

コスト削減をはかることが今後の課題といえます。

まとめ

東日本大震災の多大な被害が全世界に発信されたことにより、原子力発電所の事故は危険というイメージがありますが、他の発電方法と比べて「電力供給が安定している」「効率が良い」というメリットもあります。

しかしながら、長年の問題である放射性廃棄物の処理、災害などトラブルが起きた際の対処など、課題も多々あるのが特徴です。

今後、国内・海外がメリット・デメリットもある原子力発電にどう向き合っていくかが、世界が抱える大きなテーマといえます

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