CCSとは?CCUSとの違いとカーボンニュートラル実現に向けた世界・日本の動向・企業の取り組み事例

CCSとは?CCUSとの違いとカーボンニュートラル実現に向けた世界・日本の動向・企業の取り組み事例

地球温暖化を食い止めるためにカーボンニュートラルを達成しようという動きが世界各国で強まっている現在、CO2を分離・回収し貯留する技術・CCSが注目されています

CCSとCCUSの違いやCO2の有効活用が期待される理由、CCS及びCCUSを活用するメリットや実用化する際の問題点を見てみましょう。実用化に向けた世界と日本の取り組みもご覧ください。

CCSとは

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、CO2を分離・回収(capture)して貯留(storage)する技術を表す用語です。カーボンニュートラルにつながる活動が活発化されている中、カーボンニュートラルに直結しづらい火力発電所・精油所・化学工場・ゴミ処分場などが排出するCO2を分離・回収して貯留槽に貯める、または資源として活用することで、CO2排出量の大幅な削減とカーボンリサイクルを実施しようという試みです。

CCSの流れを下の図でご確認ください。

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」

「CCSはカーボンニュートラルを実現するのに必須の技術」という認識が世界中に広がった結果、世界各国でCCSの研究開発・実証・ビジネス操業が推進されるようになりました。

(参考:JOGMEC「カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」仕組みや国内外の状況など基本を解説!」

CCSの仕組み

CCSの過程ではCO2の分離と回収が行われます。分離・回収の方法4つを以下の表でご覧ください。

化学吸収法 アルカリ性溶液(炭酸カリ溶液・アミンなど)の化学反応を使ってCO2だけを溶解して分離させる
物理吸収法 排ガス内のCO2を圧力をかけてメタノールなどの液体に溶解させて分離・吸収する
分離吸着法 排ガスを吸着剤(ゼオライト・活性炭など)と接触させ、温度差や圧力を活用して吸着剤の微細孔にCO2を吸着させて分離させる
膜分離法 排ガスを多孔質の気体分離膜に通して拡散速度の違いなどによる「ふるい効果」を起こしてCO2を分解する

分離・回収されたCO2の貯蔵方法は以下の通りです。

地中貯留 CO2を地下800m以上の地層に留めておく
海洋隔離 CO2を海水に溶解または深海底に液状化したCO2を送り込む

現在は地中貯留の方法が研究・開発されており、以下の方法が考案されています。

  • 枯渇油・ガス層貯留
  • 石油・ガス増進回収
  • 帯水層貯留
  • 炭層固定

この中で最も有力視されているのは帯水層貯留です

海洋隔離は、生態系への影響や海洋汚染など懸念事項が多いため、現在は実現しようという動きが減少しています。

CCSとCCUS(カーボンリサイクル)の違い

似ているので混同されやすいCCSとCCUSの違いを以下の表にまとめました。

正式名称と意味 取り組み内容
CCS Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留技術) 二酸化炭素を他の気体から分離し、回収して地下深くの貯留層に圧入
CCUS Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(分離及び貯留した二酸化炭素を利用) 二酸化炭素を油田などに注入し、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ二酸化炭素をを地中に貯留

表に記載したCCUSの取り組みは、米国で実施されていますCO2削減効果があるだけではなく石油の増産につながるため、ビジネスに活用されるようになりました

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」

CO2の有効利用が注目されている理由

CO2を削減するだけではなく、有効利用しようという動きが活発化しています。CO2の有効利用が注目される理由がどこにあるのかを見てみましょう。

地球温暖化による気候変動・異常気象

世界各国がカーボンニュートラルを推進しているのは、地球温暖化によって急激に気候が変動し、異常気象が世界の各地から報告されているからです。カーボンニュートラルはCO2の排出量と吸収・削減量を差し引きゼロにするという取り組みですが、CO2を有効利用できればカーボンニュートラルの達成に非常に有利になるため、CO2を有効利用できる取り組みとしてCCS・CCUSに着目する人が増えているのです。

以前は低コストで利用できる化石燃料の利便性が重視されていたためにCCS及びCCUSを実施しようという声は少なかったのですが、地球温暖化問題が世界中で深刻化していることやCCSやCCUSの技術開発が進んだことにより、適切に排出したCO2を分離・回収し、再利用する目標を掲げる動きが強まっています。

(参考:産総研マガジン「CCS/CCUS とは?」

パリ協定

2015年11月に開催されたCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定において、以下の「世界共通の長期目標」が掲げられました。

  • 世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保持・1.5℃に抑えるよう努力する
  • 上の2℃目標を達成するためにできるだけ早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトして21世紀後半には温室効果ガス排出量と吸収量のバランスを取る

長期目標である2℃目標の達成のためにCO2排出量を削減するには少なからぬコストと労力がかかるので、排出したCO2を有効利用できるCCS・CCUSに多くの国が関心を高め、開始しようとしています

IEA(国際エネルギー機関)は、報告書の中で、2℃目標を達成するために2060年までのCO2削減量の合計のうち14%をCCSが担うことを期待しています。

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「C今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」

カーボンニュートラルの実現

パリ協定以降、カーボンニュートラルの実現を表明する国が増え、日本でも2050年にカーボンニュートラルを実現すると表明しました。日本が掲げた目標は以下の通りです。

  1. 2050年までにカーボンニュートラルを目指す
  2. 2050年目標と整合的・野心的な目標として2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する
  3. さらに50%の高みに向けて挑戦する

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルへの転換イメージ」

CO2を地下800mより深い地層にある貯留層に閉じ込めることにより、CO2は周辺の岩石と反応して鉱物化します。CO2の吸収方法の中でも安全性が高いため、カーボンニュートラル達成を目指す世界各国で「CCSはカーボンニュートラルの実現の切り札」という声が高まっているのです。

CCS・CCUSを活用するメリット

CCS及びCCUSの活用には数多くのメリットがあります。CCSやCCUSの推進に際して期待されることが多いメリットの中で代表的な3つを紹介します

CO2の排出を削減できる

CCS・CCUSに期待されているのは、大気中に排出されるCO2を大幅に削減できる働きです。地球温暖化の最大の原因とされているのは化石燃料をエネルギーにした火力発電ですが、約27万世帯に電力を供給可能な火力発電所にCCSを導入すると、1年で約340万トンのCO2を削減できると言われています。火力発電所や重工業からのCO2をCCSの技術によって削減できれば、地球温暖化・大気汚染の要因を減らすことができるのです。

資源として利用できる

排出量が問題化しているCO2を資源として利用するカーボンリサイクルの取り組みが進行している中でCCS・CCUSに期待が集まっています。

エンジニアリング・化学・化石燃料・機械・セメント・バイオなど多くの事業分野で取り組めるカーボンリサイクルのコンセプトは以下の通りです。

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装」

CO2を吸収して製造したコンクリート製品・構造物などの鉱物や、CO2で培養する藻類が原料のバイオ燃料など、CCS・CCUSの技術を活用することにより、CO2はさまざまな分野で資源として利用できます

CCUの過程で回収したCO2から化学原料(メタンなど)を生産して製品を製造し、製品消費後に焼却処分するときに発生したCO2をCCUで回収という循環利用も可能です。

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装」

ネガティブエミッションの実現

ネガティブエミッションは大気中に蓄積した温室効果ガスを回収・除去する技術で、カーボンニュートラルを実現させるために必須の技術と言われています。大気中からCO2を回収する技術・DACの技術開発が進んでおり、DAC設備を再生可能エネルギーで稼働することにより、2050年まで継続可能な環境でネガティブエミッションを実現するという計画も進行中です。

CCS・CCUS・DACは代表的なネガティブエミッション技術であり、2030年までにカーボンネガティブを達成すると表明しているマイクロソフト社は、ネガティブエミッションなどの技術開発に10億ドルの基金を設置すると発表しており、多くの国家・企業がネガティブエミッション実現のためにCCS・CCUSの開発を進めています。

CCS・CCUSの実用化に向けた課題・問題点

CCSとCCUSには多くのメリットがありますが、実用化に際してはいくつかの課題や問題点があります。実用化の障害とされている課題と問題点を見ていきましょう。

コストが高い

最大の課題と指摘されているのは、実用化するためのコストが高いことです。CCSは、CO2回収や輸送・地下への圧入などの工程を経て導入されます。しかし、CCS導入の工程はどの段階でも専門的な技術と設備を必要とするので、高額な初期投資と運用コストがかかるのです。

現状では、CO2を1トン回収するために約4,000円前後の費用がかかるとされています。CCSやCCUSの技術の研究開発が進めば現在よりもコストが削減される可能性が高いですが、今の段階では導入コストが大きなデメリットとなり、CCS・CCUSを導入できない国・自治体・企業が多いです

輸送船の技術開発が必要

発電所・工場で排出されたCO2をCCSプラントまで輸送し、CCSプラントで回収したCO2を貯留地へ輸送するにはかなりのコストがかかります。コストを削減するには、輸送手段である輸送船・トラック・パイプラインなどの技術開発が求められています。CCS輸送のコストと労力の削減のため、長距離輸送に必要な輸送船の技術開発が特に必要とされているのが現状です

CCS・CCUS実用化に向けた世界・日本の取り組み

世界各国の政府・自治体・企業が「CCSとCCUSを実用化することでカーボンニュートラルを達成しよう」とさまざまな取り組みを実施しています。世界と日本の取り組み事例を見ていきましょう。

世界の現状

IEA(国際エネルギー機関)は「2050年カーボンニュートラル達成には年間で約38億トンから76億トンのCO2をCCSとCCUSで圧入貯留することが必要」と試算しています。それを受けて、世界各国がCCSとCCUSの事業化プロジェクトを推進しています。2022年9月には開発中のCO2回収施設容量が2.44億トンに達しました。

(出典:JOGMEC「カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」仕組みや国内外の状況など基本を解説!」

世界各国のCCS取り組み事例は以下の通りです。

実施国 プロジェクト名 事例の概要
アメリカ エクソンモービル社の
プロジェクト
石油大手企業・エクソンモービル社が2022年3月にCO2削減のためテキサス州の複合施設で
水素製造・CCSの計画を発表し、CCSは年間1,000万トンのCO2輸送と貯留が実現すると表明。
2030年までに年間5,000万トンが、2040年までに年間1億トンの
CO2回収・貯留計画の達成を見込んでいる
カナダ キャピタルパワー
プロジェクト
キャピタルパワー社がGenesee CSSプロジェクトを実施し、
2022年12月までに順調に成果を上げている
ノルウェー スライプナー
プロジェクト
1996年に当プロジェクトを開始してCCSを世界で初めて実現し、
20年間で1,600万トン以上のCO2圧入に成功
スノービット
プロジェクト
2008年に当プロジェクトを開始し、300万トン以上のCO2の圧入に成功。
両プロジェクトの合計圧入量は2,000万トン以上に達している

(参考:JOGMEC「カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」仕組みや国内外の状況など基本を解説!」)

日本の現状

(出典:経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」

日本では、各地域で事業を展開している国内企業が協力しながらCCS事業を推し進めています。2023年6月、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)に選定されたCCS事業案件の概要をご覧ください。

①苫小牧地域

会社名 北海道電力株式会社/出光興産株式会社/石油資源開発株式会社
貯留地域 苫小牧地域の油ガス田・帯水層
1年の貯留量 約150万t
排出源 苫小牧地域の製油所及び発電所
輸送方式 パイプライン
事業の特徴 BECCS(CCSとカーボンリサイクルとバイオマス発電の組み合わせ)とのCO2を輸送するパイプラインの接続も前提にしたCCUS事業を実施

②日本海側東北地方

会社名 大成建設株式会社/太平洋セメント株式会社/日本製鉄株式会社/伊藤忠商事株式会社/三菱重工業株式会社/伊藤忠石油開発株式会社/株式会社INPEX
貯留地域 東北地方(日本海側)ほかの海域帯水層
1年の貯留量 約200万t
排出源 日本全国/貯留候補地・製鉄所・セメント工場の排出事業者
輸送方式 船舶及びパイプライン
事業の特徴 セメント産業・鉄鋼業など複数のCO2排出地域・貯留地域を輸送船で結ぶ広域事業を進行

③東新潟地域

会社名 北越コーポレーション株式会社/東北電力株式会社/石油資源開発株式会社/株式会社野村総合研究所/三菱ガス化学株式会社
貯留地域 新潟県内の既存油ガス田
1年の貯留量 約150万t
排出源 新潟県の発電所・製紙工場・化学工場
輸送方式 パイプライン
事業の特徴 紙・電力・化学などに現存している油ガス田を活用して脱炭素燃料・環境価値などの付加価値を求めて事業を実施

④首都圏

会社名 日本製鉄株式会社/株式会社INPEX/関東天然瓦斯開発株式会社
貯留地域 首都圏他(海域帯水層)
1年の貯留量 約100万t
排出源 首都圏の製鉄所を含んだ複数産業
輸送方式 パイプライン
事業の特徴 首都圏の主だった臨海コンビナートの排ガスなどを対象に事業を展開

⑤九州北部沖~西部沖

会社名 電源開発株式会社/ENEOS株式会社/JX石油開発株式会社
貯留地域 九州北部沖から西部沖の海域帯水層
1年の貯留量 約300万t
排出源 瀬戸内・九州/西日本の製油所や火力発電所
輸送方式 船舶及びパイプライン
事業の特徴 瀬戸内を含んだ西日本の広範囲に対し海域における大規模CO2貯留事業を推進

マレーシア・マレー半島東海岸沖と大洋州で実施しているCCS事業も順調に進行しています。

(参考:経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」

まとめ

「カーボンニュートラルの切り札」との呼び声が高まっているCCS・CCUSには地球環境を守るためのメリットが多いですが、導入に複数の課題・問題点があります

しかし、それらをクリアすることにより、カーボンニュートラルを達成できるのです。今後の技術開発により、それらの課題を解決できることに期待しましょう。

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