バイオマス発電とは?仕組みとメリット・デメリット、普及するための今後の課題

21世紀に入ってから地球温暖化問題がいよいよ深刻化したこともあり、バイオマス発電の注目度が高まりました。研究と開発も活発化しています。

導入に当たり、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?

また、バイオマス発電の仕組みや燃料の種類などを見ていきましょう。

日本と世界の普及率の現状や日本政府の取り組み内容、現在抱えている問題点・課題も解説します。

バイオマス発電とは?

18世紀の産業革命以降、それまでとは比較にならない量の温室効果ガスが排出されるようになり、地球温暖化が世界全体の社会問題になりました。地球温暖化問題を解決して自然環境を維持するために世界各国で推進されているのがカーボンニュートラルです。

CO2の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにするカーボンニュートラルを実現するため、CO2を排出しない再生可能エネルギーの研究と開発が進んでいる中、バイオマスを使用したバイオマス発電が注目を集めています。

バイオマスはバイオ(生物)とマス(量)を合成した、再生可能な生物資源を表す単語です。バイオマスは大別すると未利用系(林地建材・廃材・稲わらなど)と廃棄物系(食品廃棄物・汚泥・動物の排泄物など)と資源作物系(糖質資源・油脂資源など)があり、これらを発電のエネルギー源に利活用したのがバイオマス発電です。

バイオマス発電の仕組み

バイオマス発電は、燃料の種類によって違う方式で発電します。3つの発電方式とその仕組みを見ていきましょう。

①直接燃焼方式

燃料資源を燃焼させて発電機やタービンを回して電気を作るのが直接燃焼方式です。資源を原型のまま燃やす仕組みなので、利用に適しているのは水分が少ない乾燥系バイオマスです。3方式の中で最も加工プロセスが少ないことでこの方式での発電が増えています。

運搬・燃焼をしやすくするため、木材などを木質ペレット・木質チップなどに加工することも多いです。可燃ゴミを燃やすときの熱を発電に利用することもあり、ゴミ処理施設に併設された発電施設が増えました。

②熱分解ガス化方式

資源を燃やさずにガス化し、そのガスを燃やして発電するのが熱分解ガス化方式です。木質資源・廃棄物などが燃料に使われます。直接燃やすよりも可燃性の成分が多いためにガス化という経過をたどるのです。水分が多い木質資源・廃棄物もガス化することによって燃えやすくなるのも利点です。

③生物化学的ガス化方式

下水汚泥や動物・家畜の排泄物を微生物を使って発酵させてバイオガスを生成し、タービンを回して発電するのが生物化学的ガス化方式です。メタン発酵で燃えやすいメタンガスが発生するので、発電のエネルギー源に適しています。メタン発酵の残滓は肥料になるので、資源の循環という点でも高く評価されています。

(参考:関西電力「バイオマス発電とは?仕組みについてわかりやすく説明」

カーボンニュートラルの実現のためにバイオマス発電が注目されている

日本や世界各国ではカーボンニュートラル実現のための取り組みが考案・実施されています。カーボンニュートラル達成を目標に、再生可能エネルギー利用推進やエネルギーミックスなどを実施している中、バイオマス発電が期待の視線を集めています。

資源の加工・発電時などにCO2を排出しますが、燃料に使う植物・木材資源は成長の過程でCO2を吸収しているため「排出と吸収を差し引きゼロにできるカーボンニュートラルに最適な発電方法」とみなされているからです。

日本政府は「2030年度に2013年度比で温室効果ガスの46%を削減する」「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と2020年10月に表明しています。また、日本はエネルギー自給率が極めて低い国ですが、木材資源を多く有していることもあり、バイオマスを発電のエネルギー源にすることでエネルギー自給率を上げられます。

「日本が抱えている目標達成・課題解決のために最も適した発電方法ではないか」と見られているのです。

(参考:ジャパンバイオエナジー株式会社「カーボンニュートラルとは」

バイオマス燃料の種類

バイオマス燃料は固体・液体・気体に分かれます。それぞれの燃料の原料・特徴をチェックしてみましょう。

固体燃料

林地木材・製材廃材・建築廃材・木質ペレット・木質チップなどが固体燃料です。特に多く活用されているのが、工場などで排出された乾燥木材を粉砕・圧縮して円筒形にした木質ペレットです。従来はボイラー・ストーブの燃料に使われていましたが、最近はバイオマス燃料としての役割が増えました。直接燃焼方式で用いられることが多く、海外からも多くの木質ペレットを輸入しています。

液体燃料

バイオエタノール・バイオディーゼル・バイオジェット燃料などが代表的な液体燃料です質・でんぷん質が主な原料で、セルロース系原料も実用化に向けて研究されています。

バイオエタノールはガソリンと混ぜられて自動車の燃料として販売され、原油から作ったガソリンの使用量の現象に役立っています。

バイオディーゼルはバイオエタノールの後発燃料ですが、製造工程がバイオエタノールよりも簡略化されているため、実用化が急速に進みました。バイオエタノールはガソリンなどと混合して使いますが、バイオディーゼルは混ぜなくても燃料に活用可能なのも、実用化が進んだ理由です。

バイオジェット燃料は飛行機の燃料として開発され、実用化されています。バイオエタノールと同様に従来の燃料と混ぜて使用されています。

この3種類の中で発電の液体燃料に活用されているのはバイオエタノールですが、他の液体燃料が発電エネルギー源に使われる可能性も高いです。

気体燃料

気体燃料として使われることが多いのはバイオガスです。汚泥・汚水・廃棄物・動物の排泄物を燃焼させることによって発生したバイオメタンガスは、その性質から燃焼しやすいので効率よく発電できる長所が高評価を受けています。

発電の原料以外にも自動車などの燃料・調理ガスなどでも活用されていている点や固体燃料よりも供給しやすい点で注目を集めており、今後さらに需要が高まる可能性が高い燃料です。

バイオマス発電を導入するメリット

「地球環境に優しい」「カーボンニュートラルの達成に欠かせない」という声が高まっているバイオマス発電導入のメリットのうち、代表的な3つのメリットを紹介します。

CO2を排出しないので環境に優しい

バイオマス発電は、CO2を排出しない発電方式を選べるというメリットが重要視されています。CO2を排出する発電方式もありますが、原料資源の成長過程でCO2を吸収していることが多いため、CO2の排出量を実質ゼロにできるという利点もあります。

CO2の排出量も化石燃料を用いた火力発電より少ないので、周囲の植物が吸収できます。さらに、吸収によって新たなバイオマスを生産できる点でも優れた発電方式なのです。

CO2排出をゼロにするのは難しいのですが、吸収量と差し引きゼロにできる程度の排出量なのも、日本や世界各国で歓迎されているメリットです。

燃料が半永久的に枯渇しない

現状でメインのエネルギー源として活用されている化石燃料は限りある資源のため、数十年後に枯渇すると言われています。しかし、バイオマスは半永久的に枯渇しない資源・燃料なので、その点でも、発電のエネルギー源として欠かせない長所です。太陽光・風力・水力のように「無限にある」と断定できないものの、廃棄物系資源なら人類が存在する限り際限なく提供されるため、枯渇の可能性が極めて低いのです。

廃棄物を再利用して燃料にすることで資源を循環できるので、枯渇する可能性はさらに低くなります。

需要と供給にあわせて発電量を調整できる

現在再生可能エネルギーの中で最も実用化が進行しているのは太陽光発電ですが、太陽光発電には季節や天候に発電量が左右されやすいという大きな欠点があります。

その点、バイオマスは季節にも天候にも関係なく資源を調達・活用できるので、安定した発電量を確保できます。バイオマス資源が完全に枯渇する可能性は極めて低いため、需要と供給に応じた発電量を調整できる利点は他の再生可能エネルギーの中でも特に優れているので、カーボンニュートラル達成という目標がなくても実用化を推し進めたい発電方式です。

しかし、現状では実用化に際していくつかの課題があるため、その課題を払拭するためにさまざまな提案・研究が行われています。

バイオマス発電を導入するデメリット

  • 森林から資源回収の際のコストがかかる
  • 廃棄物系バイオマスの管理が難しい
  • 大規模な電力生産に不適格
  • 燃料事業での採算が取れない

上記がバイオマス発電導入のデメリットに挙げられています。

国土の60%が森林に覆われている日本にとって、バイオマス発電はまたとないエネルギー源と見られていましたが、複数の問題点が障害になっています。

特に厳しい問題点はコストです。資源を森林から採取するためには伐採・集荷・運搬・管理・加工のコストがかかります。木質バイオマス以外の廃棄物バイオマスをまとめるのにもかなりの人件費がかかるため、人員を確保するのにも苦慮しているのが現状です。

廃棄物系は常に供給される資源ですが、集めて運搬し、燃料に使われるまでは管理が必要です。しかし、集荷・運搬の人件費・管理するための設備などの確保が難しいのです。

化石燃料のように大規模設備に集めて送電するのが困難なのも課題になっています。

バイオマス燃料の運搬・製造などにかかるコストは化石燃料より高額なので、事業としての採算が取れていないのも大きな障害になっています。また、資源によって発電方法が異なるため、発電施設も分かれます。集荷した資源を資源に適した発電施設に運搬する必要があるため、小規模分散型設備になりがちで、それによりさらにコストがかかるのです。

解決するべき問題点と課題は、記事後半でも解説します。

世界・日本のバイオマス発電の普及率

世界と日本におけるバイオマス発電普及率を解説します。バイオマス発電の2022年までの普及率を見ていきましょう。

世界の現状

(出典:バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2023)

上のグラフは、自然エネルギー世界白書2022で公表された、2020年時点での世界のバイオエネルギー利用の内訳です。

2020年時点での世界のバイオエネルギー利用量は44EJと推定されており、最終エネルギーの総消費量のうち約12.3%を占めていました。近代的バイオエネルギーの推定利用量は20.3EJで、2020年の再生可能エネルギー利用率の約47%です。電力は1.8EJ、輸送は3.7EJ、近代的暖房は4.9EJ、産業用熱利用は9.9EJでした。2015年に2,700万tだった木質ペレットの生産量は、2020年には4,100万tまで増えています。

2021年になると、バイオマス発電容量は前年と比べて7.5%増えて143GWになりました。

2022年9月に再生可能エネルギー指令改正案が可決され、森林から直に採取された一次木質バイオマスを燃料にしたバイオマス発電が補助金対象から原則除外されるようになっています。同年12月には森林を破壊しないサプライチェーンについてのEU規制が暫定的に政治合意されました。この案が採択され適用に至れば、木材・大豆・パーム油などのバイオマスやその派生品をEUから輸出あるいはEU市場に発送する際に適正な評価手続きを経なければならなくなります。

2023年1月には、FSC(国際的森林認証制度)はベトナムのAVP(An Viet Phat Energy)などが大量の木質ペレットを虚偽表示した上で製造・販売したことに対してブロックするという措置を実行しています。

こういったルールを取り決め、実施することで、バイオマスが際限なく伐採・採取されて自然環境を破壊することを防止する動きが活発化しているのです。

(参考:バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2023|2022年の動向|1 国際的な動向」

日本の現状

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「電力調査統計」などよりISEP作成)
(グラフ出典:環境エネルギー政策研究所「2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)

上グラフは、2022年時点の日本の電源構成です。バイオマス発電を含む自然エネルギーが全発電電力量で占めている割合は、2016年時点では14.7%でしたが、2022年には22.7%に達しました。

再生可能エネルギーのうち最も伸び率が高いのは2016年に4.4%だった割合が9.9%まで上昇した太陽光発電です。バイオマス発電はそれに比べると伸び率が低めですが、2016年に1.9%だったバイオマス発電は2022年に4.6%まで上昇しています。

(出典:ISEP「2022年の自然エネルギー電力の割合」

上グラフは日本での全発電電力量で自然エネルギーが占めている割合の推移です。全発電電力量のうち、自然エネルギーが占める割合は順調に上昇しています。2014年と2022年を比較すると太陽光発電ほど伸びていませんが、太陽光発電の伸び率が少なくなったのに対し、バイオマス発電はゆるやかながら着実に伸びており、今後も同様に伸びていくと期待されています。世界でも有数の森林国家である日本には木材資源が豊富にあるからです。

しかし、国内で木材資源を安定して確保するには、木を伐採して運搬する・加工場(製材所など)に持ち込むなどの作業過程にコストがかかるなどの課題があり、現状ではその課題をクリアできていません。

その結果、現状では海外から木質系バイオマスを輸入しており、2019年時点ではバイオマス燃料の60%以上が海外から輸入したものでした。燃料の自給率が低い日本の現状を変えるには、運搬コストなどの問題を解決する必要があります。

(参考:ISEP「2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)」

日本政府のバイオマス発電普及のための取り組み

日本政府は、2002年にバイオマス推進施策を閣議決定し、2005年の京都議定書発効後に見直され、2006年に改定案を策定しました。2006年から2016年までに発令されたバイオマス発電関連施策は以下の5つです。

  1. バイオマス・ニッポン総合戦略(2006年)
  2. バイオマス活用推進基本計画(前)(2010年)
  3. 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(2011年)
  4. バイオマス事業化戦略(2012年)
  5. バイオマス活用推進基本計画(新)(2016年)

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について」

日本政府がバイオマス発電を普及するための取り組みを行った結果、2019年度は再生可能エネルギー利用率を2010年度比で9%上昇させています。そのうちバイオマスが占める割合は2.6%でした。2030年度には再生可能エネルギー利用率を22%から24%に上げ、うちバイオマスを3.7%から4.6%まで上昇させる計画を立てています。バイオマスを含む再生可能エネルギー稼働率を上昇させるために行っている取り組みは以下の通りです。

  • バイオマス発電をFIT制度(固定価格買取制度)の対象にした
  • NEDOでバイオマス発電の技術開発を進行している
  • バイオマス発電導入の補助金制度を設置した

バイオマスの買取価格がFIT制度によって保証されたことにより、バイオマス運用が以前よりも活発になりました。同じ再生可能エネルギーの太陽光・風力よりも優遇されているのも活性化につながっています。

国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が効率的かつ持続が可能なバイオマス発電を実現するために研究と技術開発を実施しており、年々運用しやすくなっています。

バイオマス発電普及支援を目的に、多くの都道府県・市区町村で補助金制度を設けました。補助金の支給対象は地域によって異なります。例を挙げると、熊本県では既存施設改修の補助金が支給されますが、北海道では新たに導入するバイオマス発電設備に補助金が給付されます。

国内最大級のバイオマス事業を推進している岡山県真庭市は、関係7府省と共同で推進中のバイオマス産業都市に選定されました。バイオマス事業視察などのツアーを開催して注目を集めています。

バイオマス発電の問題点と今後の課題

バイオマス発電には、デメリットの項でも紹介したように、解決しなければならない問題点と課題があります。それらを4項目に分けて解説します。

①コスト

特に問題になっているのは、木質バイオマス発電のコストです。森林大国である日本では、ありあまるほどの資源を有しています。しかし、効率的な燃焼を促すために乾燥・チップ化・ペレット化などの加工プロセスが必要で、その手間とコストが膨大なことに加えて集荷と運搬が難しいために木質バイオマスの60%を輸入に頼ることになりました。

②輸入国の環境問題

木質資源の過半数を輸入に頼った結果、輸入国で木質ペレットの材料を大掛かりに採取・伐採するようになり、代表的な輸入国であるカナダの森林専門家達が日本の経済産業省に「輸入した燃料を使用するバイオマス発電の支援を中止してほしい」という内容の公開書簡が提出されました。書簡では「原生林から資源を伐採することにより、生物多様性が損なわれ、炭素貯蔵が減少している」とも報告されています。

③エネルギー利用効率が低い

木質資源が燃焼する温度がやや低いため、エネルギー利用の効率が高くない問題を解決するための研究開発も急がれています。

④資源の獲得問題

木材は建築・製紙・家具・燃料にも使われるため、発電以外に用途のない木材を発電に活用するのが最適ですが、FIT制度の価格が高く設定されているため、他の用途で利用できる木材をバイオマス燃料にしてしまう可能性が高いことが問題視されています。

資源のコスト・運搬コスト・製造コスト・管理コストなどの課題を解決できれば、エネルギー自給率が先進国の中で群を抜いて低い日本のエネルギー自給率上昇が可能です。輸入国の自然環境を破壊する問題も解決できます。バイオマスが発電のエネルギー源として認識されることでも現状の好転につなげられるので、政府・自治体・企業はバイオマス発電への理解を深めるための努力を重ねています。

(参考:FoE Japan「「豊かな森が伐採され、生物多様性と炭素貯蓄が失われる」ーカナダの森林専門家や環境NGOら、経産省に輸入バイオマス支援中止を求める書簡提出」

まとめ

「カーボンニュートラルを実現するのに最適」と定評があるバイオマス発電ですが、メリットだけではなく数々のデメリットも抱えています。

バイオマスのメリットを活かした発電が一般化されるためには、発電までの過程でかかるコストの削減という大きな課題に、日本と世界各国の政府・自治体・企業・個人が一丸となって取り組む必要があるのです。

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