風力発電の仕組みと導入するメリット・デメリット|日本で普及していない理由と将来性を解説
- 再生可能エネルギー
世界規模で重要な問題となっているのが、地球温暖化、その原因であるCO2大量排出への取り組みです。
世界各国が脱炭素・カーボンニュートラル(CO2排出ゼロへの取り組み)を課題としているなか、再生可能エネルギーである風力を利用した風力発電が注目されています。
今回は、CO2排出ゼロの大きな鍵を握っている風力発電について、その仕組みやメリット・デメリット、国内・国外の普及率などについて、詳しく解説しています。
目次
風力発電の仕組みと3つの種類
風力発電とは、文字通り風の力を利用した発電手段です。風の力をエネルギーに変換して発電を行ない、電気を発生させます。
風力発電は具体的にどのようにして行われるでしょうか。その仕組みと種類を以下より説明します。
風力発電の仕組み
風力発電は、風を受けた風車が回転することによって、風力をエネルギーに変えて発電を起こす仕組みです。風車の羽の部分であるブレードは数が多ければそれだけ風を受けますが、ブレードの数が少ないと風車の回転が速くなります。
また、風力発電装置のそれぞれの部位は、以下のような種類があります。
- 可変ピッチ機構:一定ではない風力の強弱に対応して、ブレードの角度を自動的に変える機能。風が強い場合、装置損傷を回避するためにブレードの面積が小さくなる。
- 増速機:風車の回転を発電可能になるまで増幅させる機能がある機器。
- 発電機:風力によって生じた回転を電力に変換する機器。
- 方位制御機構:風を風車が正面から受けられるように、風車の方向を旋回させる機器。
風力発電は3種類ある
(出典:安川電機)
風力発電にはどのような種類があるのか、以下より紹介します。
陸上風力発電
陸上に発電機装置を設置して発電を行なうタイプが、陸上風力発電です。年間にして平均風速6m/s以上という一定以上の強さの風が吹く環境であれば、設置できます。一定以上の風が吹く高原・峠・半島や海岸沿いなどに設置されることが多いです。
コストを低く抑えられるメリットがありますが、強い風が吹く場所を選ばないといけないことに加えて、装置から発せられる機械音などが騒音問題となるデメリットもあります。
洋上風力発電
海面・湖面上に発電装置を設置するタイプが、洋上風力発電です。陸上風力発電の設置の増加により他に場所がなくなったことに加えて、洋上のほうが陸上より強い風が取り込める・騒音の心配がないというメリットがあります。そのため洋上風力発電は徐々に増加しています。
洋上風力発電は、さらに2つの種類に分けられます。その種類は以下の通りです。
着床式
発電機器を支える柱を海底・湖の底まで伸ばして底で固定したタイプが、着床式です。最も多用されている方式で、底が浅いエリアであれば簡単に設置できます。ただし底がある程度の深さまでいくと設置が困難なため、場所を選ぶのがデメリットです。
浮体式
発電機器を海面に浮かべるタイプが、浮体式です。海面に浮かべるために、海の深さなどに関係なくどこでも設置できる点がメリットですが、着床式に比べてコストがかかるデメリットがあります。
風力発電のメリット
風力発電の代表的なメリットは主に4つです。その4つのメリットはどんな内容なのか、以下より紹介します。
発電時にCO2を発生しない
風力発電は、地球温暖化の原因であるCO2排出が一切ない、再生可能エネルギーに該当しているのがメリットです。他の発電方法である火力発電などは、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を利用して発電を行ないます。
この方法だと効率的にエネルギーを発生させて効率良く発電が行なえますが、それに対するデメリットが大量のCO2排出という点です。
しかし、風力発電は風という自然の現象をエネルギー変換する発電方法であり、その際にCO2が排出されることは一切ありません。
昼夜問わず風が吹けば発電できる
風力発電は風さえ吹いていれば、24時間いつでも発電が可能です。同じ再生可能エネルギー発電として注目されている太陽光発電は、太陽光が降り注ぐ日中でしか稼働できません。また、日中であっても天気が悪くて太陽が出ていないと発電は不可能です。
しかし、風力発電は時間に左右される心配はなく、風さえ吹いていれば夕方〜夜間であっても天気が悪くても、いつでも発電が可能となっています。時間帯や天候を気にする必要がありません。
発電に燃料がいらない
風力発電は、他の発電方法のように燃料を購入して準備する必要がありません。他の発電方法は、石炭や石油・天然ガスなどの燃料を燃焼させて、その際に生じるエネルギーを利用して発電を行ないます。
そのような発電方法を行なうためには燃料を準備する必要があり、そのための手間とコストがかかるのがデメリットです。
また、発電のための燃料は国内では不足しているため輸入品に頼る必要があり、輸入先の国政が不安定になった場合、価格が高騰するリスクもあります。
それに対して、風力発電は自然現象である風を利用するため、資源不足・資源にかかるコストを気にする必要はないのです。燃料いらずで風の力をダイレクトに利用する風力発電は、燃料費用が一切かかりません。
再エネの中では発電効率が良い
風力発電は、他の発電方法に比べて発電効率が高いこともメリットに挙げられます。
発電効率とは、エネルギーをどれだけ電力に変換できるかを数字で表したものです。変換効率の数値が高いほど効率良く発電が行なえます。
(出典:関西電力)
上記のグラフをみてわかる通り、風力発電は数多い発電手段の中では中位ほどの位置です。しかし再生可能エネルギー発電というくくりでみてみると、太陽光発電・地熱発電よりも変換効率の倍以上の変換効率となっています。
エネルギーを無駄にすることなく効率的に発電が行なえるのが、風力発電の特徴といえます。
風力発電のデメリット
「CO2・有害物質の排出ゼロ」「変換効率が高い」などのメリットがある風力発電ですが、デメリットが無いわけではありません。風力発電におけるデメリットについて以下より説明します。
設置費用・メンテナンスコストが高い
風力発電は発電効率が高いというメリットがありますが、それを実現させるためには高額の初期費用を用意しないといけません。
日本では風力発電はそれほど浸透していません。そのため大幅なコスト削減は難しく、一つを開発・設置するだけで大きなコストがかかるというのが現状です。
資源エネルギー庁によると、資本費の中央値は、陸上風力発電の場合34.7万円/kW、洋上風力の場合は137.0万円/kWと高額になっています。(参考:風力発電について 2024年1月 資源エネルギー庁)
また、風力発電機器には、定期的なメンテナンスが必須という問題もあります。風力発電は野外に設置して常に風や雨を受け続ける発電方法です。
メンテナンスを怠ると故障が起きやすくなり、故障が発生した場合は修理のための手間と費用がかかります。
設置場所を選ぶ
風力発電は発電機器の設置場所も考慮しないと、円滑な発電が実現しません。風力発電は文字通り風の力をエネルギーに変換して発電を行なう発電方法です。
いくら発電機器が高額の費用を費やして開発した高性能の機器であっても、風がまったく吹かない場所に設置しては、電力を生み出せません。
そのため、風力発電は、多くの風を取り込みやすい場所である、高原・風をさえぎる場所でない広々とした場所を選ぶ必要があります。
そのような場所は限られるために、風力発電は場所を選ばずに発電可能ではないのです。
発電量が安定しない
風力発電は、エネルギー資源である風が一定ではないというデメリットがあります。風はあくまで自然現象なので、風が強い日もあれば弱い日もあるのが特徴です。
風の発生は人間の都合で調整できないため、風力発電が順調に行なえるかどうかは、その時々の天候に任せないといけません。
風が極端に弱い・無風状態が何日も続けば、それだけ風力発電機器も稼働できないため、風が吹かない日が延々と続いた場合、電力も一切発生しなくなります。
かといって風が強過ぎる日が何日も続くと、それだけ発電は安定しますが、強風を浴び続けて発電機に負荷がかかる危険性があり、故障の原因になるパターンも少なくありません。
遮るもののない高原や沖合、風が集中する山間部、海と陸の温度差により風が発生する沿岸部など、一定の風量・風速がでる場所に設置できれば、安定した発電量が期待できます。
設備が完成するまで5年ほどかかる
風力発電の問題点の一つに、発電機の設置完了までに時間がかかるという点があります。風力発電機を設置するために必要なことは、設置場所をしっかりと調査することです。
発電のための風を十分に取り込めるかどうか確認することも重要ですが、設置後の生態系・景観なども考慮しないといけません。
そのような調査は専門的な知識・スキルが必要であり、風力発電を実施するための手続きも複数あります。
これらの作業・手続きをすべて済ませるには数年の期間が必要であり、平均して5年ほど、長い場合は10年ほどの期間を費やさなければいけません。
また、日本の風力発電は海外のように普及していないため、機器の開発にコストがかかります。そのため、風力発電のための資金繰りがスムーズにいかない場合は、設置の計画が途中で挫折することも珍しくありません。
風力発電の設置の計画を立てても、実際の運用までには数年の歳月がかかるため、運用までには大きな労力を費やす必要があります。
これらの作業・手続きを円滑に進めるためには、風力発電を実際に運用した場合、どれだけのメリットがあるのか、多くの人たちに伝達していかないといけません。
日本で風力発電が普及しない理由と課題
日本で風力発電を浸透させるためには、普及しない原因、それに対する対策を構築しないといけません。以下より、日本に風力発電が普及しない理由、その課題を改めて説明します。
設置場所が限られる
風力発電は、どこでも設置可能なわけではなく、風力発電が円滑に行なえる設置場所を見つけ出す必要があります。
風力発電機器を設置するための条件は、以下の通りです。
- 年間を通して無駄なく風が安定
- 設備を設置しても無理のない広々とした環境
- 周辺の住民に迷惑をかけない・設置の合意を得る
- 環境破壊・景観を壊さない
これらの条件を満たすことによって、風力発電は実現します。しかし、これらすべての条件を満たすエリアを日本で探すことは難しく、場所の条件を満たしたとしても、近隣の住民の反対があれば、風力発電機器の設置は実現しません。
住民の反対がある
先述した通り、風力発電の設備を設置するためには、円滑な発電が可能な環境を探す必要がありますが、その環境の条件を満たしていても、近隣の住民の反対があった場合、設備の設置はできません。
住民たちの反対意見には、以下のような意見があります。
- 長年親しんだ自然が破壊される
- 美しい景観がなくなる
- 鳥が発電機器に衝突して、ケガ・死亡する事故が多発する
- 騒音問題
風力発電はCO2・有害物質を排出しない再生可能エネルギーであるため、地球温暖化・環境汚染を回避できる発電として、注目を集めている発電方法です。
しかし、いくら発電自体が環境に優しいからといっても、設置・稼働をした際にその周辺の自然を破壊することになっては、意味がありません。
いかに環境を保存したまま設置をするか、近隣の住民としっかりと向き合って設置のための交渉をするかが、風力発電の普及の課題といえます。
風力発電の世界・日本の普及率
風力発電は、他の発電手段に比べてどれぐらいの普及率なのでしょうか。以下より世界・日本それぞれの風力発電の普及率を紹介します。
世界の普及率
国際エネルギー機関(IEA)が公表しているデータによると、世界の発電方法の比率は以下のようになっています。
- 石炭:38.5%
- 石油:3.3%
- 天然ガス:23.0%
- 原子力:10.3%
- 水力:15.9%
- 地熱:0.3%
- 太陽光:1.7%
- 風力:4.4%
- バイオマス:1.8%
- 廃棄物:0.4%
- その他:0.1%
CO2排出削減が世界的なテーマになっていながらも、石炭・天然ガス・原子力といった従来の発電方法は、いまだ世界規模で主流となっているのが、世界の発電の現状です。
しかし、化石燃料の利用の減少・再生可能エネルギーの増加による、世界的な温室効果ガスの排出抑制は、目立った動きこそないものの確実に進行しています。
では、世界各国の風力発電の導入具合はどうなっているのでしょうか。世界風力会議(GWEC)が2022年に発表したデータによると、以下の通りになります。
- 中国
- アメリカ
- ドイツ
- インド
- スペイン
- 英国
- ブラジル
- フランス
- カナダ
- スウェーデン
風力発電の陸上・洋上ともにトップなのが中国で、次にアメリカ、ドイツが続いているという現状です。恵まれた国土を持つ中国は、風力発電に適しているといえます。
日本の普及率
資源エネルギー庁「令和3年度エネルギーに関する年次報告」によると、日本の風力発電の普及率は、世界の中で21位という順位です。他の国と比べて普及が進んでいないのは、国土が狭い・平坦な地形が少ない・電力会社の都合などが理由に挙げられます。
日本に設置されて稼働している風力発電機は、全国で2,500基以上です。それほどの数の発電機が稼働していながら、日本の電力をまかなっている発電方法で最も多いのは火力発電で、全体の70%以上となっています。
それに対して風力発電は全体のわずか0.87%で、全体の1%も満たしていません。多くのメリットを持つ風力発電ですが、発電方法として浸透するには、まだ時間がかかるといえます。
風力発電量が多い日本の地域の順位は以下の通りです。
- 東北
- 九州
- 北海道
- 北陸
- 中国
- 近畿
- 四国
- 中部
- 関東
- 沖縄(発電機の設置ゼロ)
東北・九州・北海道には広々とした土地があり、風力発電に適したエリアのため、普及率も高めです。それに対して関東は地域も狭く建築物の密集度が高く、発電機が多くの風を取り込みにくい環境であるため、風力発電の普及は難しいといえます。
日本政府の風力発電普及のための取り組み【港湾法の改正】
日本政府は、風力発電普及のための取り組みを行なっています。それは港湾法の改正です。日本で陸上風力発電を行なう場合、発電に適した場所は限られています。そのような風潮のなか政府が行なった取り組みが、洋上風力発電への注目および港湾法の改正です。
港湾法は、港湾の秩序と整備の運営・航路の開発および保全を目的とした法律を指します。2017年に政府は、洋上風力発電普及を推進するために、港湾法の規制合理化をはかりました。2017年の港湾法改正は、以下の3点です。
- 国が洋上風力発電機器の設置の基地になる港を指定、そのエリアを発電事業者に長期間貸す制度を設立
- 国が指定したエリアを管理したい発電事業者を募集する制度を設立
- 指定エリアの占有期間を20年から30年に延長
これまでの決まりでは、洋上風力発電を希望する事業者とその申請を受ける自治体の手続きは、手間がかかりました。しかし、発電の公募制度が適用されたことにより、今までの問題は解消され、円滑に申請を済ませることが可能になったのです。
このような政府の取り組みにより、以前より市場の活性化が実現しており、少しずつながらも風力発電の普及は広がりをみせています。
(参考:国土交通省 港湾法の一部改正について(洋上風力発電関係))
まとめ
風力発電は温室効果ガスを一切排出しないため、年々、世界規模で重要な課題となっている地球温暖化に対応できる発電手段として世界各国が普及に力を入れています。
風という自然エネルギーを利用した発電方法なので、資源不足に陥る心配がなく、燃料確保のコストもかからないなどメリットの多さが特徴です。
その反面、設置にコストがかかる・設置場所に制限があるなどのデメリットのために、日本では海外ほどの普及をみせていません。
しかし、港湾法の改正など、政府も風力発電のために大きな動きを見せています。風力発電が、いかにメリットのある発電方法であるか、大々的に伝達して理解を深めてもらうことが、今後、風力発電が普及するかどうかのポイントです。
参考:
GWEC が世界風力統計を含む Global Wind Report 2023 を発表 – JWPA一般社団法人 日本風力発電協会
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編集者
maeda