水力発電の特徴と仕組み、メリット・デメリットを解説!日本の地形は水力発電に向いている?

水力発電は、地球温暖化への防止策である再生可能エネルギーの一種として知られている発電手段です。

水力発電と聞いて、具体的にどのような仕組みなのか、はっきりと把握している人はそれほど多くないはずです。

水力発電とは

水力発電とは、水を利用する発電方法です。水の流れを意図的につくり、それによって生じるエネルギーによって電力を生み出します。

他の発電方法と異なり、燃料を海外から購入する必要がなく、純国産の資源のみでまかなえるのが特徴です。

近年は、地球温暖化問題に対応できる「再生可能エネルギー」の発電方法として、世間の関心を集めています。

水力発電の仕組み

水力発電は、以下の図で解説されているような方法によって、発電を行ないます。

水力発電の仕組み

(出典:東京電力エナジーパートナー

水力によって水車を回転させて、それにより発電機を作動させて電力をつくりだします。発電機によって発生した電力は、変圧器で電圧を調整して送り出す仕組みです。発電で利用した水は放水路を経由して河川などに排出されます。

水力発電の種類

水力発電は、数パターンの種類があり、そのパターンによって分類されるのが特徴です。どのような種類があるのか、それぞれの特色を以下より説明します。

構造物での分類

水力発電を行なう建物は一種類ではありません。その種類は以下の3種類です。

①ダム式

ダム式は、ダムで川の流れをせき止めて人口の湖を作り出し、電力の発生を行ないます。

ダムをつくる場所は、川の幅が狭く川の両側の岸の岩が高く切りたったような場所が選ばれることが多いです。このような場所にダムを建設して川の流れを止めます。そして、貯めた水の流れのパワーを利用して発電をする手順です。

それによって生じた水の流れのパワーを利用して電気を起こす電力を発生させるのが、ダム式の一連の流れになります。ダム式は雨水も資源として利用可能です。ダムで常に水をキープできるため、電力発生量も調整できます。

②水路式

水路式は堤防を使った電力発生手段です。建設したえん堤により貯まった水は適当な落差のある水路を経由することによって、強い流れが発生します。その力で電力の発生を行なう手順で、川の水量によって電力が変動するのが水路式のポイントです。

③ダム水路式

ダムと水路を合体させた発電方式が、ダム水路式です。ダムで貯めた水を水路に流し、それにより生じた水流のパワーで電力を発生させるのが、この方式の一連の手順となっています。

ダム式と同じく雨水をダムに貯めることができ、水の量の調整具合が可能になっており、それにより電力の発生量も替えることが可能です。

発電方法による分類

水力発電の電力発生方法は、さらに4つに分類されています。

①自流式

別名・流れ込み式とも呼ばれている発電方法が、自流式です。河川の流れの力をそのまま発電所に引き込んで発電させます。

ダムを建設する必要がないため、建設費用がかからずコスト削減が実現できるのがメリットです。すべてを河川のコンディションに任せるため、発電が河川のコンディションによって不安定になる・場合によっては電力発生が少なくなってしまうというデメリットがあります。

②調整池式

規模の小さいダムに河川の水を貯める発電方法が、調整池式です。貯めた水を利用して電力を発生させます。

四六時中発電をするのではなく夜間・週末といった消費電力の少ない時間帯は発電をセーブして、水の量を変化させながら電力を発生させます。1日〜1週間ほどの発電量を事前に考えて、水量を調整することが可能です。

③貯水池式

貯水池式は、ダム式のように水を溜め込んで電力を発生させる方法です。貯水池に梅雨・雪どけ・台風などの時期に水を貯めておくという手順になります。

水が不足する時期に備えられるため、電力の発生を年間単位で計画することができ、それに備えての水の量の調整が可能です。

④揚水式

発電所を中心部にして、河川の上部・下部にダムを設置して行なう方法が、揚水式です。揚水式は以下の手順になります。

  1. 電気消費が少ない深夜:火力・原子力発電で下部ダムの水を上部ダムに組み上げる
  2. 電気消費が増える日中:上部ダムの水を利用して電力発生

揚水式の種類は、川の水をほとんど利用しない純揚水式・河川の水も一緒に発電に利用する混合揚水式の2タイプです。

水力発電のメリット

水力発電のメリットには以下のものがあります。

発電時にCO2を発生しない

水力発電のメリットは、CO2などの温室効果ガスが生まれない点が挙げられます。

他の発電方法は、石油や石炭など化石燃料を燃焼させて発電を行なう仕組みです。化石燃料の利用は効率的に発電ができるメリットがありますが、多量の温室効果ガスが排出されるのが、問題視されていました。

近年は、地球温暖化の進行を抑制するために、世界規模で温室効果ガスの排出を下げることを目標にしており、その動きは日本も例外ではありません。

地球温暖化・環境汚染などの問題が年々深刻になっている近年において、注目を集めているのが、温室効果ガスを排出しない「再生可能エネルギー」です。

水力発電は、温室効果ガスの排出をしない再生可能エネルギーであるため、環境に負荷をかけない電力発生が可能になります。

比較的発電量が安定している

水力発電は、エネルギー変換効率の数値が高いという特徴をもっています。

エネルギー変換効率とは、資源によって発生したエネルギーをどれだけ電力に変換できるかの数値です。

発電方法とエネルギー変換効率は、以下の通りとなっています。

発電方法の種類 エネルギー変換効率
水力発電 80%
火力発電(LNG) 55%
原子力発電 33%
風力発電 25%
太陽光発電 15~20%
地熱発電 8%

(参考:関西電力

上記の表の通り、水力発電以外の発電の変換効率はほとんどが50%以下の数値で、水力発電の変換効率は8割で他の発電手段より数段上回っている結果となっています。

高い変換効率が実現している理由は、ロスを最小限に抑えての電力変換が可能だからです。また、コストがかからないこと・資源である水がエネルギーの密度が高い重量であることも、理由に挙げられます。

世界第2位の降水量で水力発電に適した環境

水力発電は、世界トップクラスの降水量で、豊かな水に恵まれている日本で取り組みやすい発電方法です。

石炭や石油など各種化石燃料は国産のものだけだと品不足であるため、どうしても輸入品に頼ってしまう傾向があります。しかし、水力発電の資源である水は国産で豊かな水があるため、輸入に頼る必要がありません。

また、日本は山が多く起伏の激しい地形であるため、水の流れを生み出しやすく、水流によって生じる力を利用する水力発電に適しているのが特徴です。自然の環境をそのまま利用するため、発電のための地域を整備する手間や費用は関係なく、自然破壊のデメリットも回避できます。

水力発電のデメリット

温室効果ガス排出の削減が可能なため、近年は再評価の声を多く集めている水力発電ですが、メリットが多い反面、デメリットといえる点も決してゼロではありません。

では、次よりデメリットの具体的な内容を説明します。

送電ロスもあり、発電量がそこまで多くない

水力発電は、発電所のあるエリアによっては送電ロスが起きることも珍しくありません。水力を使った発電所は、緩急の激しいエリアに建設されることが多いです。そのエリアから電力消費量の多い都心部へ送電する場合、送電ロスが発生することもあります。

また、水力発電は緩急の激しい環境が必要です。そうでない平坦な場所に水力発電所を建設した場合、大きな発電は難しいといえます。

そして、降水量の変化も水力発電では重要な要素です。降水量が少ない猛暑・暖冬が続いた場合、電力の発生のために必要な十分な水を貯めることが困難なため、大きな発電は難しいといえます。

開発コスト・リスクが膨大

水力発電に利用するダムは膨大な水量が必要です。水量に匹敵する規模のダムを建設しなければならないため、建設費用も決して安く済ませることはできません。

そして、ダムは山間部・河川上流などに建設するため、自然を伐採して整備する必要があり、近隣の住民に了解を得なくてはいけません。

また、そのような問題をクリアしても、大変なのがダムの維持です。長年の利用で蓄積した土砂の撤去・各種劣化具合のチェックなど、手間と費用をかけてのメンテナンスも行わないといけません。

さらに、水力発電において浮上してくるのが法律に関する問題です。河川に関する手続きには「河川法」という法律があり、それにしたがって手続きを済ませないといけません。

河川の流れを利用して電力を発生させる場合、河川を利用する権利である水利権を取得する必要があります。

水利権を得るためには、さまざまな調査・手続きをクリアする必要があり、これにも手間・コストがかかるのが特徴です。

全国の地域の浄水場や上下水道はその地域の自治体に権利があるため、自治体が小規模の水力発電を設置すれば、それほどの手間・コストはかかりませんが、少量の発電しか期待できません。

世界・日本の水力発電の普及率

数多い発電方法の種類において、水力発電はどれぐらいの普及率なのでしょうか。以下より水力発電の普及率を世界・日本それぞれに分けて紹介します。

世界の普及率

水力発電は、世界各国の発電にどれぐらい普及しているのか、特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所の公式サイトに掲載されたグラフ表を以下に引用し、解説していきます。

この表で見てわかるのは、水力発電を最も推進しているのはオーストラリアで、再生可能エネルギーの比率の過半数を占めているという結果です。次にスウェーデン・ポルトガル・中国・イタリア・スペイン・アメリカと続きます。

ヨーロッパは再生可能エネルギーの導入に意欲的で実践していることがわかります。フランス・中国などは再生可能エネルギー発電を導入しながらも、いまだ従来の化石燃料による発電に頼っているのが、発電の現状です。

日本の普及率

日本における水力発電の普及率はどれぐらいなのでしょうか。

(出典:2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所

1つ目の表である円グラフを見てみると、日本の発電方法の主流は、石炭・LNGの化石燃料による発電が過半数を占めています。そしてそれに次ぐ発電方法が、発電全体の7.8%を占めている水力発電です。

地球温暖化・CO2排出防止に対応できる発電方法として、注目されている再生可能エネルギー発電ですが、まだまだ化石エネルギーに頼らざるを得ないのが、日本の発電の現状といえます。

2つ目の表である棒グラフは、自然エネルギーによる日本の発電の割合です。このグラフによると、自然エネルギー利用の全体的な割合は年々増加しており、日本の発電方法全体の20%以上を占める割合になっています。

しかし、水力発電の割合そのものは増加しておらず、横ばいというのが現状です。太陽光エネルギー発電が年々増加しているのに対して、水力発電は利用率に大きな変化はありません。

日本は水力発電の普及率を上げるポテンシャルはあるのか?

水力発電は、数多い発電種類のなかでも特に多大なメリットが目立つ発電方法です。水力発電が今以上に活性化すれば、ますます日本の発電は発展する可能性を秘めていますが、化石燃料の発電、太陽光発電に比べると、まだ日本の発電の主流にはなっていません。

日本は、水力発電の普及率を高めるためのポテンシャルはあるのでしょうか。そして、そのポテンシャルを発揮するためには、どのような点が発展の足を引っ張る問題となっているのでしょうか。

特定多目的ダム法が壁になっている

水力発電の普及において問題となっているのが、特定多目的ダム法という法律の存在です。水力発電で利用されるダムは、発電だけでなく水不足が起きた場合を想定しての貯水・農作業の利用など、さまざまな利用用途があります。

ダムの利用用途は、建設する前の段階でどんな利用をするのか決定してからでないと、建設に着手できないという決まりです。水力発電はまだ日本の発電の主流となっていないために、ダムを発電目的だけで建設することに対して、許可が出にくいという現状になっています。

そのため、ダムが完成して大きな発電量が見込めたとしても、水力発電に利用できないというパターンもあるのです。特定多目的ダム法を整備して、水力発電が円滑に進められるようにすることが、今後の課題といえます。

バックアローションの問題

水力発電において特に中小水力発電でよくある事例が、バックアローション問題です。バックアローションとは以下の定義になります。

施設の建設時、施設によって生まれる利益を得られる人間は、建設費用を負担する責任があり、その責任を、後から参加した利用者に適用させること。

バックアローションの定義によると、すでに完成しているダムを利用する場合、それにより生まれた利益を「ダム建設費用」として支払わないといけません。

従来は完成したダムを利用すれば、建設費用を出さなくてもいいというメリットがあります。しかし、バックアローションが適用されていれば、費用節約ができません。

このバックアローションの存在が、水力発電の普及がスムーズにいかない問題となっているのです。

住民からの反対運動

水力発電のためのダムを建設する場合、近隣の住民たちから反対を受けるケースも珍しくありません。

大規模なダム建設の場合、ダム建設予定エリアの自然伐採だけでなく、水没のために周辺に住んでいる住民は移住しなくてはいけません。そのため、長年慣れ親しんだ地元の環境を壊すなという反対運動が起きることもあります。

自然破壊・住民たちの配慮も、水力発電の普及が進まない根深い問題です。

日本の水力発電所事例

現存している日本の水力発電所は、どのような取り組みを行なっているのでしょうか。以下より具体的な事例を3つ紹介します。

奥多々良木

兵庫県・朝来市多々良木には、日本最大の揚水発電所である奥多々良木発電所があります。

このダムは関西電力が管理を行なっており、日本海・瀬戸内海の分水界一帯の地形の特徴を十分に活かして建設されているのが特徴です。

昭和49年(1974年)6月に1号機の運用が開始され、平成10年(1998年)までには合計6号機が建設されて運用されています。最大出力などは以下の通りです。

  • 認可最大出力:19,32,000kW
  • 最大使用水量:594.00立法m毎秒
  • 最大揚水量:485.00立法m毎秒
  • 有効落差:1〜2号機383.40m・3〜4号機383.30m・5〜6号機387.50m

奥多々良木ダムは、上部ダムである黒川ダム・下部ダムである多々良木ダムとの落差400mを利用して発電を行なっています。下部ダムは岩を積み重ねたロックフィル形式なのが特徴です。

ダム周辺は自然に恵まれた環境であり、四季折々の表情が地元住民たちを楽しませています。

奥清津・第二

奥清津第二発電所は、J-POWER(電源開発株式会社)が運営している発電所であり、新潟県・南魚沼郡湯沢町三国にあります。発電所のデータは以下のとおりです。

  • 着工および運用:平成4年(1992年)着工、平成8年(1996年)運用開始
  • 発電種類:揚水式、発電形式はダム水路式
  • 認可最大出力:600,000kW
  • 最大使用水量:154,00立方m毎秒
  • 有効落差:470.00m
  • 最大揚程:502m(上下貯水池の水位より)

奥津発電所は、Okky(オッキー)という愛称で知られている電力ミュージアムという顔があるのが特徴です。通常は関係者でしか立ち入りが許されなかった発電所内を、平成8年から一般公開を始めました。

マルチメディア導入による展示ルーム・広々とした広場・体験コースなどが用意されており、一般人が水力発電に対して関心を持ってもらうための、きっかけとなっています。

奥只見

福島県・南会津郡檜枝岐村にて運用されているのが、J-POWER(電源開発株式会社)​​が管理している奥只見発電所です。概要は以下の通りとなっています。

  • 運用:昭和35年(1960年)運用開始
  • 発電種別・形式:一般水力、形式はダム水路式
  • 認可最大出力:56.000kW
  • 最大使用水量:387.00立方m毎秒
  • 有効落差:1〜3号機170.00m、4号機164.20m

奥只見発電所は、高さ157m・全長480mの直線重力式コンクリートダムによって発電が行われています。

この規模のダムは国内には存在しておらず、同形式のダムとしては国内最大なのが特徴です。このダムによって形成されている人工湖である奥只見湖は面積11.5平方km、貯水量6億立法mを誇っています。

また、このダムはダム建設時に運搬用として建設されたトンネル「奥只見シルバーライン」も名物です。18kmもの長さを誇るこのトンネルは、岩肌の壁面が神秘的な雰囲気を出し、多くの観光客が訪れています。

まとめ

数多い発電方法のなかでも水力発電は、資源にコストがかからない・再生可能エネルギーのためCO2排出がないなどのメリットがあります。そして降水量が多い日本という風土に適しているのも特徴です。

しかし、日本に合う発電方法といわれながらも、初期費用がかかる・自然伐採などのデメリットのため、なかなか定着しづらいという特徴もあります。

水力発電の課題となっているダムの法律の問題・バックアローションの問題・住民たちの反対意見の問題などをクリアするにはどうすればいいのか、しっかりと考えることが、水力発電の今後の課題です。

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