「中小企業も環境問題に取り組むべき」という声が高まると共に、脱炭素経営に取り組む中小企業が増えてきました。
SDGsの取り組みにはどのようなメリットがあるのか、チェックしてみましょう。中小企業に環境問題への取り組みが求められる理由や、取り組む際の注意点なども解説します。
中小企業でも環境問題への配慮が求められる理由
世界各国の政府・自治体・企業が環境負荷を低減するための取り組みを実施するようになった近年、中小企業にも環境問題へ配慮することが求められるようになっています。
求められる理由のうち代表的な3点を確認してみましょう。
①脱炭素化経営に着手する中小企業は増加傾向
2015年に開催された「国連持続可能な開発サミット」において採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に2030年までに実施するべき17つの目標が定められました。
日本政府は、「SDGsの達成には、大企業だけではなく、企業数の99.7%を占めている中小企業の取り組みが欠かせない」と認識しています。そのため、中小企業の脱炭素化経営をさまざまな方法で支援しており、脱炭素経営を始める中小企業が増加しています。
②環境省も中小企業向けEMS「エコアクション21」を制定
中小企業の脱炭素化経営に対し、政府・自治体が用意した助成金・優遇税制などの支援の中で、近年特に注目されているのが環境省が制定したエコアクション21です。
環境負荷を最小限にするために定められた国際基準の仕様書・ISO14001は大企業向けですが、エコアクション21は日本が独自に中小企業向けに制定しました。エコアクション21では以下の内容が策定されています。
環境経営への取り組み明確化 | 環境負荷項目(環境経営に必要なCO2排出量・廃棄物排出量・水使用量など)と取り組むべき活動(CO2排出量削減・廃棄物削減・節水・省エネなど)を効率的に実施する |
環境経営への取り組みに対する第三者評価 | 環境経営のレポートの作成・公表が要件(レポートを通じて取引先・自治体にPR可能) |
③上場企業単体ではグリーンウォッシュに陥る可能性がある
脱炭素経営については「上場企業単体ではグリーンウォッシュに陥る危険性が高い」と指摘されています。
グリーンウォッシュとは、環境に配慮していると見せかけて商品・サービスを提供することを表す言葉です。
SDGsに関する活動を政府・自治体が支援し、他企業や消費者にも良いイメージを与えるようになって以降、脱炭素経営をPRしながら内実が伴っていない企業も増えてきました。
例えば、「ヨーロッパで最も環境負荷が低い大手航空会社」と主張したアイルランドの航空会社が、実態が伴っていないことを指摘され、2020年2月にグリーンウォッシュ要素の強い広告の禁止処分を受けています。
中小企業は、上場企業の取引先やサプライチェーンとなっています。上場企業とともに問題に取り組むことで、見せかけでない環境活動が実施できるでしょう。
中小企業における環境問題への取り組み事例
政府や大企業の呼びかけに応じて環境問題に取り組んでいる中小企業が増えていますが、独自に環境負荷低減の取り組みを実施している中小企業も少なくありません。
ここでは独自にSDGsを実施している中小企業3社の事例を紹介します。
中小企業の取り組み事例①株式会社大川印刷
大川印刷は、持続可能な開発目標を持ち、環境負荷を低減した方法での印刷に取り組んでいます。大川印刷の環境印刷(GREEN PRINTING)の概要をご覧ください。
環境印刷01・CO2ゼロ印刷 | 印刷工程で排出される年間の温室効果ガスを算定してその全てをカーボン・オフセット/事業での地球温暖化防止/関係地域の森林資源育成に貢献 |
環境印刷02・エコペーパー | バナナペーパーなどのFSC®森林認証紙・間伐紙といった環境に正しい紙をデザイン・印刷物の目的に合わせて選び、ファクトチェックを行った上で制作 |
環境印刷03・ノンVOCインキ | 大気汚染・化学物質過敏症を起こす揮発性有機化合物を含まないノンVOCインキを積極的に使用(2020年度はノンVOCインキ使用率を全体の99.9%にした) |
環境印刷04・エコ配送 | 材料の搬入から製品の納品に至るまで環境負荷が少ない電気自動車・ディーゼル車を使用/廃棄物削減のためプラスチックコンテナで納品 |
これらの活動について「社会・消費者に向けて地球温暖化防止の意識の向上につなげられる取り組み」とPRし、SDGs活動の内容を記事などを公式サイトで紹介中です。
(参考:大川印刷「環境印刷について」)
中小企業の取り組み事例②コムパックシステム株式会社
コムパックシステムはエコアクション21に認証登録し、公式サイトではSDGs達成のための具体的な取り組みを公開しています。以下は環境カテゴリでの活動内容です。
廃棄物 | 適切な管理と処理を行う |
エネルギー・温室効果ガスの現状把握 | 自社のエネルギー使用量と温室効果ガス排出量を把握 |
省エネ・温暖化対策の計画と取り組み | 自社の温室効果ガス排出量を把握した上で排出を抑制 |
有害化学物質 | 法令などで規制されている有害化学物質を把握して使用量を抑制し適切に使用 |
生物多様性 | 自社活動が生物多様性・生態系に悪影響を及ぼさないよう配慮 |
3R推進 | リデュース・リユース・リサイクルに取り組む |
水の管理 | 水資源の利用状況を適切に管理して利用効率を改善 |
環境マネジメントシステム | ISO14001・エコアクション21などの企画を取得 |
環境情報開示 | 取り組み状況を正しく開示 |
再生可能エネルギー利用 | 再生可能エネルギー利用に取り組む |
天然資源持続的利用 | 天然資源の持続的利用に配慮して調達 |
これらの活動により、2020年には環境づくり企業対象2020の優秀賞を、2021年と2022年には2年連続でエコアクション21オブザイヤーの賞を授与されました。
(参考:コムパックシステム株式会社「環境への取り組み」)
(参考:「SDGs達成に向けた具体的な取組(要件2)」)
中小企業の取り組み事例③リオン株式会社
リオンは、1999年にISO14001の認証を取得し、2006年にグリーン調達調査を開始、2007年に外部審査機関TÜVのISO14001:2004の適用範囲を国内の全事業所に拡大して更新審査を受審し、認証取得しています。
公式サイトで表明している環境方針は以下の通りです。
既存事業伸長に影響するリスクと機会の特定 | SDGsにつながる事業に影響する変化を予見・特定した上で対策を検討 |
製品グリーン化 | 梱包材を含む製品の構成材料に環境汚染物質を使用しない |
環境負荷の低減を心がける | 業務を執行する際に環境負荷を意識して負荷を低減する行動を選ぶ/再利用・再資源化を考慮して不要な照明・アイドリングを抑制 |
地域の環境保全 | 地域の環境活動に参加/近隣清掃・構内樹木の選定など緑を最善の状態で維持し地域社会を含む環境保全に努める |
環境方針に基づいた活動を実施すると共に、事業活動で排出されるエネルギー・水・化学物質など、年度ごとの環境データと実績を公式サイトで公表しています。
2022年度は温室効果ガスと廃棄物と化学物質の排出量を前年度より削減しました。
(参考:リオン株式会社「環境への取り組み」)
(参考:「環境データ【2022年度実績データ】」)
中小企業が環境問題に取り組むメリット
中小企業の環境負荷低減の取り組みには数多くのメリットがあります。その中で代表的なメリットを見ていきましょう。
新たなビジネスチャンスの創出になる
環境問題への取り組みは、新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけになります。
日本政府は脱炭素経営に対してさまざまな支援を行っています。企業のイノベーション技術(バイオエコノミー・ロボットやICTを使ったスマート農業など)を支援する方針も打ち出し、Society5.0実現にも取り組むようになりました。
環境問題の解決に取り組んだ結果、IOT・AI・ビッグデータなどのイノベーション技術開発に取り組むことで新規のビジネスチャンスを創出できるのです。
従業員の意識向上につながる
環境負荷を低減する取り組みを実施することで、従業員の意識向上やモチベーションアップの効果を得られるのも、企業にとって大きな利点です。
従業員が協力しあってSDGsに取り組むことで、企業に連帯感が生まれて従業員同士の交流が深まり、愛社精神も高まります。
企業が実施している環境問題対策を従業員に説明し、理解を得ることで、それ以前よりも環境問題への関心度が高まると共に、従来の仕事に対する責任感が生まれる効果もあります。
経費の削減が見込める
CO2排出量を減らす目的で廃棄物の削減や省エネを実施することは、経費の節減につながります。
廃棄物の処分費用と電気料金などの経費の削減は、年単位で見るとかなりの効果があることがわかるので、実施に携わった人間の満足感が高まり、さらに経費の削減に力を入れる結果を生みます。
また、太陽光発電などの再生可能エネルギー設備を自社で導入することにより、電力会社から購入する電力が減少することでも少なからぬ経費が節減可能です。
企業価値の向上を図れる
脱炭素経営を実施している企業は、会社の姿勢をPRすることで企業価値を大幅に高められます。
地球温暖化が世界各国で問題視されている現代社会では、企業の利益のみを求める企業は支持されません。
企業の存続だけを考えるのではなく地球環境を考慮した経営を行うという姿勢が、政府・自治体・他企業・投資家・消費者の信頼を獲得し、企業イメージを向上させられるのです。
同じようにSDGsに取り組む他企業との取引や協調を図れるのも大きなメリットになります。
融資や投資を受けやすくなる
環境に配慮している企業は、政府・自治体・金融機関だけではなく投資家からの融資・投資を受けやすくなるのも重要なポイントです。
現在投資家の間でESG投資が注目され、ESG投資を始める投資家が増えています。
環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3点を考慮して環境負荷を削減した経営を実施している企業に投資することがESG投資です。
SDGsで実績を積み重ねている企業がESG投資先として高評価を受けやすく、金融機関や投資家から資金を調達する際に非常に有利な条件になるのです。
中小企業が環境問題に取り組む際の注意点
メリットが多い脱炭素経営ですが、メリットだけではありません。取り組む前に注意しておくべき点がいくつかあります。
この章では、環境問題を解決する前に念頭に入れるべき注意点を解説します。
初期費用がかかる場合がある
中小企業が脱炭素経営に踏み込めない最大の理由と言われているのは、初期費用です。
製品の材料調達・製品開発の工程・製品製造の環境などを大幅に見直し、環境負荷が少ない状態に改善しなければなりません。
省エネなどは経費節減効果がありますが、それ以外の工程には初期コストがかかることが多いので、環境問題に配慮した経営に切り替える前に企業のシステムや現状のCO2排出量などを確認した上で計画的にSDGsを実施する必要があります。
短期的には効果を感じづらい
環境負荷の低減の実施には「短期的に効果を感じにくい」という短所があり、短期的な利益にも結びつきにくいため、中小企業が容易に始められないという側面があります。
企業がSDGsに取り組んでいることを他企業・投資家・消費者に理解されるのに時間がかかるとも言われています。
しかし、近年はSDGsへの取り組みを公式サイトでPRする企業が増え、投資家や消費者の理解も深まっているため、努力次第で十分に払拭可能なデメリットです。
原材料のコストが増加する可能性がある
環境に負荷を与えにくい原材料に切り替えてSDGsを実施する企業が多いのですが、環境負荷が少ない原材料は従来の原材料よりもコストがかさむ確率が高いため、原材料のコストが増える可能性があります。
そういったマイナス面を補うために製品の価格を上げる必要があるので、それを理由に消費者が離れてしまうという事態が発生しがちです。
企業としての痛手を軽減するには、原材料コストを確認した上で環境問題に取り組むことが大切です。
まとめ
中小企業にも環境負荷軽減に取り組むことが求められていますが、脱炭素経営の課題を解決できないことを理由に環境問題に取り組めない企業も多いようです。
しかし近年、中小企業がSDGsに取り組む際に政府・自治体・金融機関から支援や融資を受けられるようになっています。活用できる支援と融資を調査し、十分にSDGs実施計画を練った上で脱炭素経営を始めましょう。
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