化学産業におけるCO2排出量の現状と課題、カーボンニュートラルの実現・CO2削減に向けた企業の取り組み事例

化学産業は、化学反応を駆使して原料を変換し、さまざまな製品を生み出す重要な工業セクターです。そのプロセスの中で、特に注目されるのが化石燃料、主に原油から得られるナフサを基にした製造工程です。ナフサを用いて、エチレン・プロプレン・ブタジエン・ベンゼン・トルエン・キシレンといった基礎化学製品が生成されます。

これらはさらに加工されて、私たちの日常生活に欠かせないプラスチック製品・合成ゴム・合成繊維、さらには塗料・界面活性剤・電子製品に使われる材料が製造されます。

日本のように天然資源に恵まれない国々にとって、この化学産業は経済発展のために極めて重要です

とはいえ化学産業がもたらすCO2排出は、地球温暖化問題を深刻化させる一因となっています。このため、化学産業内部で、環境負荷の低減を目指したカーボンニュートラル、すなわちCO2排出量を効果的にゼロに近づけることを目標とした取り組み事例が多く見られます

化学産業におけるCO2排出量の現状と課題

出典:環境省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」(2023/1/25)P3

化学産業は、国内のCO2排出量において鉄鋼業に次いで第2位です。化学産業のCO2排出の主な原因は、廃プラスチックの燃焼であり、全体の7割以上を占めています。化学産業は熱エネルギーを大量に必要とする産業であるため、カーボンニュートラルを目指すには、燃料と原料の両方で化石資源の利用を早急に減らす必要があります

化学産業のカーボンニュートラルに対する取り組みを以下に説明します。

  • カーボンニュートラルに挑む化学産業
  • 欧州の化学産業の先進的な事例
  • 日本の化学産業のカーボンリサイクルでの技術開発

それでは詳しく見ていきましょう。

カーボンニュートラルに挑む化学産業

化学産業の温室効果ガス排出量が多い理由は、主に以下の2つです。

まず、化石燃料や化石原料を燃やして発生する直接排出のScope1が全体の約7割を占めています。次に、外部から購入した電力や蒸気などを利用することで生じる間接排出のScope2があります

化学産業では、ナフサを分解してエチレンやプロピレンなどの基礎化学品を作る際に、高温高圧の熱エネルギーが必要です。このような熱エネルギーの消費量が他の産業よりも大きく、温室効果ガスの排出量を減らすことが困難な特徴となっています。

このため、化学産業ではカーボンニュートラル実現にむけ、燃料と原料の両方で化石資源に頼らない取り組みを推進中です。

例えば、LNGへの切り替えやバイオマスの活用による低炭素化、水素やアンモニアなどの新しいエネルギー源への移行による脱炭素化などの技術開発が進んでいます。原料においても、バイオマスやリサイクル素材などを使うことで、温室効果ガスの排出量を削ることが可能です

欧州の化学産業の先進的な事例

化学産業は、カーボンニュートラルを目指してさまざまな取り組みを行っています。

その中でもヨーロッパの化学産業では、先進的な事例がいくつも見られます。

例えば、廃プラスチックや廃ゴムを原料として再利用するケミカルリサイクルの実証や、再生可能エネルギーをナフサ分解炉に活用する技術の開発などです。

カーボンニュートラルに向けて積極的な姿勢を示している企業の一つが、ドイツのBASFです。BASFは、世界最大の総合化学会社であり、自動車から食品まで幅広い産業に製品とソリューションを提供しています。2050年までに全世界でCO₂排出量を実質ゼロにすることが目標です。

2030年までには2018年と比較してCO₂排出量を25%減らすという中期目標も設定しています。

日本の化学産業のカーボンリサイクルでの技術開発

日本の化学産業では、カーボンリサイクルの技術開発に力を入れていますCO2を原料として化学品を生産する技術は、すでに一部が実用化されていますが、まだ多くの技術は研究開発の段階です。

2030年以降社会に普及させるためには、製造コストの削減やエネルギー効率の向上などの課題を克服する必要があります

化学産業におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組み

化学産業界は、カーボンニュートラルを目指してさまざまな施策を実施しています。
製品製造に伴う温室効果ガスの排出量を減らすだけでなく、CO2自体を再利用する技術も開発されています

カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを以下に説明します。

  • プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の施行
  • ケミカルリサイクルの動き
  • カーボンフリーへの転換
  • マスバランス方式の活用

それでは詳しく見ていきましょう。

プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の施行

プラスチック資源循環促進法は、プラスチックのライフサイクル全体における資源循環の推進を目的とした法律です。
2021年6月に制定され、2022年4月1日から実施されました。

この法律では、プラスチックの生産・販売・設計・廃棄などに関わる多様な事業者や、自治体・消費者などの関係者が協力して、プラスチックの資源循環を効率的に行うことが求められています。

また、この法律の対象となる製品は、プラスチックを含むものであればほとんど全てが含まれます。
プラスチック製容器包装だけでなく、衣類や家電などの製品も対象です。このように、この法律はプラスチックの資源循環に関する包括的な法律と言えます

参考:プラスチック資源循環

ケミカルリサイクルの動き

ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックや廃タイヤなどの廃棄物を化学的に分解して、新しい製品の原料に再生する技術です世界各国ではこの技術の開発や実用化が進んでいます。

例えばドイツでは自動車メーカーのメルセデス・ベンツが、自社の廃タイヤを熱分解して樹脂に変え、自社製の自動車部品に再利用する取り組みを拡大しています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P11(2023/1/25)

カーボンフリーへの転換

化学品の生産においてカーボンニュートラルを目指すためには、以下のような取り組みが必要となります。

まず、廃プラスチックや廃ゴムなどの炭素資源を再利用し新たな原料として活用することです。

次に、熱分解炉で使用する燃料をカーボンフリーのものに切り替えることです。

例えば、アンモニアや水素などが挙げられます。

CO2を捕捉し、化学原料や化学性機能品に変換し、最後に人工光合成を利用してグリーン水素を生成し、それを基に化学原料を作ります。

これらの技術を組み合わせることで、化学品の生産におけるCO2排出量をゼロにして、カーボンニュートラルを達成できます

経済産業省・製造産業局は、このような化学品の生産方法の変革を推進することを提言しています。

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P13(2023/1/25)

マスバランス方式の活用

出典:経済産業省「化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向」P18(2023/1/25)

ケミカルリサイクルによって廃プラスチックや廃ゴム、CO2などの素材が再利用されることは、サステナビリティの観点から重要です。

しかし、これらの素材は従来の原材料と混ぜられて使用されることが多く、その結果、カーボンニュートラルにどれだけ寄与しているかが分からなくなる可能性があります

そこで、サステナブル素材の使用量に応じて、製品の一定割合をサステナブル素材だけで作ったと仮定する「マスバランス方式」が有効な手段として提案されています

この方式はISOなどの国際機関によって加工流通プロセス管理の国際基準として検討されており、今後広く普及することが期待されます。

企業の取り組み具体例

カーボンニュートラルに対する企業の取り組み事例を5つ以下に紹介します。

  1. 三井化学株式会社のカーボンニュートラル戦略
  2. 三菱ガス化学株式会社のカーボンニュートラル戦略
  3. 花王株式会社のカーボンニュートラル戦略
  4. 住友化学株式会社のカーボンニュートラル戦略
  5. 大塚製薬株式会社のカーボンニュートラル戦略

それでは詳しく見ていきましょう。

①三井化学株式会社のカーボンニュートラル戦略

画像引用元:三井化学公式サイト

三井化学株式会社は、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという目標を掲げています

そのために、2030年までにカーボンニュートラルに関連する事業や技術開発に1,400億円を投資する計画です。

カーボンニュートラルに向けて、以下のような施策を実施しています。

  • ナフサ分解の際に使用する燃料を、低炭素で環境負荷の少ないアンモニアに切り替える
  • カーボンニュートラルに関する新しい技術や製品を開発するため、三井化学カーボンニュートラル研究センターを設置する
  • 製品のライフサイクル全体での環境影響を評価するため、製品カーボンフットプリント(PCF)を含むライフサイクルアセスメント(LCA)の体制を整える

参考:三井化学「サーキュラーエコノミーに向けて」

②三菱ガス化学株式会社のカーボンニュートラル戦略

三菱ガス化学株式会社

画像引用元:三菱グループ公式サイト

三菱ガス化学株式会社は、カーボンニュートラルの実現を経営戦略の中核に位置付けてさまざまな取組みを行っています

CO2の排出量を削減するために、地熱やLNG火力などの低炭素エネルギー源の開発・利用を推進中です。

また、CO2の回収・貯蔵・資源化技術や水素サプライチェーンの構築など循環型社会に貢献する事業も展開しています。

具体的な事例を以下に挙げます。

  • 2030年以降に最大100万トン規模で商業化を目指す環境循環型メタノールの製造プロジェクト
  • クリーンアンモニアの調達・普及による水素エネルギーの活用促進
  • CCU(CO2回収・再利用)やCCS(CO2貯留)技術の開発・適用によるCO2排出量の削減
  • 地熱発電やバイオマスなどの再生可能エネルギー事業の拡大

参考:三菱ガス化学「カーボンニュートラル戦略説明会」P14-27

③花王株式会社のカーボンニュートラル戦略


画像引用元:花王公式サイト

花王株式会社は、環境に配慮したエネルギーの利用に取り組んでいます。

石炭から天然ガスへの切り替えは、工場のCO2排出量を大幅に削減しています

また、再生可能エネルギーの普及にも力を入れ、自家消費用太陽光発電設備の導入は主たる戦略です。

2020年には、台湾やオーストリアなどの海外拠点でも太陽光発電所を設置し、グローバルな視点でエネルギー問題に対応しています。

④住友化学株式会社のカーボンニュートラル戦略

住友化学

画像引用元:住友化学公式サイト

住友化学株式会社は、千葉県市原市にある千葉工場内で稼働していた石油コークス使用の発電設備を廃止しました

代わりに、2023年秋に環境負荷の低い高効率ガスタービン発電設備を導入し、新しく設置されたガスタービン発電設備は、液化天然ガス(LNG)を主な燃料として使用しています。

石油コークスの使用をストップすることで、温室効果ガスの主要な原因である二酸化炭素の排出量を大幅に削減できると期待されています。

千葉工場における二酸化炭素の排出量が年間で24万トン以上、約20%も減少する見通しです。

さらに、この取り組みは、住友化学株式会社だけではなく関連企業にも広がっています。

特に、グループ会社である広栄化学株式会社へも、新設される高効率ガスタービン発電設備から電力を供給することで、住友化学グループ全体の環境保護への貢献が期待されています。

広栄化学との連携事業として、経済産業省からの「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金(エネルギー使用合理化等事業者支援事業)」の交付も受けることができました

⑤大塚製薬株式会社のカーボンニュートラル戦略

画像引用元:大塚製薬公式サイト

大塚製薬株式会社は、太陽光発電設備の導入によりCO2排出量を大幅に削減し、環境にやさしい企業として認められています

高崎工場と徳島板野工場での年間CO2削減量は約590トンです。

大塚グループは、「カーボンニュートラル」を目標に掲げており、大塚製薬株式会社もその一環として、脱炭素社会や持続可能な社会の実現に貢献しています。

国内の8工場でCO2フリー電力を利用し、オフィス部門では「グリーン電力証書」を導入しています。

また、太陽光発電設備の設置により、エネルギーの消費効率を向上させました。

2021年12月から2023年1月にかけて、高崎工場と徳島板野工場内の医薬品工場とSoylution工場に太陽光発電設備を新たに設置し稼働させました

各工場の太陽光発電設備

高崎工場 徳島板野工場
医薬品工場 Soylution工場
稼働開始年月 2022年12月 2021年12月 2023年1月
パネル数 544枚 408枚 1056枚
発電推定量(2023年) 283千kwh 851千kwh
CO2排出削減見込量(年間) 100トン 490トン
工場全体のCO2排出量に対するCO2フリー電力導入+太陽光発電によるCO2排出量削減比率 68.1% 78.9%

参照元:大塚製薬公式サイト

CO2削減が難しい場合はカーボンクレジットでオフセットが可能

カーボン・オフセットは、温室効果ガスの排出を相殺する仕組みです

私たちの生活やビジネスで発生するCO2などの温室効果ガスは、気候変動の主要因となっています。

そのため排出量を削減することが最優先ですが、それだけでは不十分です。

カーボン・オフセットでは、排出した分と同じ量の温室効果ガスを他の場所で減らしたり吸収したりします。

例えば、エネルギー効率の向上や再生エネルギーの導入、森林の維持・造成などがカーボン・オフセットの対象です。

カーボン・オフセットを実施するには、温室効果ガスの排出削減・吸収量を正しく計算し、信頼性の高い証明書を取得することが必要です。そのひとつが非化石証書です

非化石証書の購入を検討している方は、OFFSEL(オフセル)をご利用ください

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非化石証書に関してOFFSELと他社のサービスを比較しました。

他社サービス OFFSELサービス
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参照元:OFFSEL公式サイト

まとめ

化学産業はエネルギーを多く消費する産業であり、カーボンニュートラルに向けて積極的に取り組む必要があります

そのためには、化学製品のリサイクルや低炭素燃料の利用など、さまざまな施策を実施することが求められます。また、それらの施策を支える技術開発も重要です。

実際には、排出量を減らすだけではカーボンニュートラルを達成するのは不十分でしょう。

そこで、カーボン・オフセットという仕組みを利用できます

これは、自分たちが排出した温室効果ガスの量と同じだけ、他の場所で温室効果ガスの削減や吸収を行うことで、排出量をゼロにするという考え方です。

OFFSEL(オフセル)は非化石証書の調達代行サービスを提供しており、カーボン・オフセットの実現に貢献しています

OFFSELのサービスを利用することで、化学産業のカーボンニュートラルへの取り組みを促進するとともに、環境問題への関心を高めることができます

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