バイオマス燃料のメリット&デメリット|バイオ燃料との違いと原料・今後の見通しを解説

バイオマス燃料のメリット&デメリット|バイオ燃料との違いと原料・今後の見通しを解説

「地球環境に優しい」「無限に使える」「2050年カーボンニュートラルを実現させるのに最適」といった声が高まっているバイオマス燃料について調査した結果を解説します。

どんな種類があるのか、なぜ現在世界中から注目されているのか、利活用する際にどんなメリット・デメリットがあるのかなどを見てみましょう。

バイオマス燃料の作り方や今後の見通しについても触れていきます。

バイオマス燃料とは?

バイオマスは、動植物などの生物資源(バイオ)の量(マス)を表す言葉で、化石以外の生物由来の有機性資源を定義しています。

そこから生成されるのがバイオマス燃料です。化石燃料はその名の通り化石が原料なので化石を掘り尽くした時点でなくなる有限資源ですが、バイオマスは水と太陽光と二酸化炭素があれば生成されるため、持続可能な資源として期待されています。

経済産業省・資源エネルギー庁が特長として挙げているのは、地球温暖化対策・循環型社会構築・農山漁村活性化・地域環境改善です。それぞれの目的と概要を見てみましょう。

目的 概要
地球温暖化対策 CO2を排出しないバイオマス燃料で発電するなどで地球温暖化を食い止める
循環型社会構築 廃棄物再利用につながることで循環型社会を構築
農山漁村活性化 稲わら・林地残材・家畜などの排泄物などの農山漁村にあるバイオマス資源のり活用で農山漁村の自然循環環境機能を維持・増進させて発展を持続させる
地域環境改善 生ゴミ・家畜排泄物などの廃棄物を資源として活用して環境改善を図る

分類は以下の通りです。

バイオマスの分類

(出典:経済産業省・資源エネルギー庁「バイオマス発電」

バイオマス由来の燃料の種類は次の章で解説します。

バイオ燃料との違い

資源になる化石以外の有機物を指すバイオマスは、非常に多くのものを対象にしているため、区分も多くなっています。かつてはバイオ燃料はバイオマス燃料と同じ言葉という扱いでしたが、最近はバイオエタノール・バイオディーゼルなどの液体エネルギーをバイオ燃料に区分するようになりました。

現在広まっている発電の燃料は、以下のように分類されています。

バイオマス燃料 個体・液体・ガス体
バイオ燃料 液体(バイオエタノール・バイオディーゼルなど)
木質バイオマス 個体(林地残材・建築廃材・製剤廃材など)

発生方法から区分する燃料の種類は次章で紹介します。

(参考:NEF「木質バイオマス、バイオマス燃料、バイオ燃料とは」

バイオマス燃料の種類

製造される燃料は、製造方法などから3種類に区分されます。未利用系・廃棄物系・資源作物系に分類されるものとそれぞれの利用例を見てみましょう。

未利用系バイオマス

種類 利用例
麦わら・稲わら・もみがら・林地残材・廃材・工場残材 ・燃焼して給湯・暖房などに利用
・木炭を消臭剤として活用

身近な素材を利活用したものが未利用系です。森林から伐採して生成した木材などや稲作などの農業で二次的に発生した残渣が未利用系に分類されます。

廃棄物系バイオマス

種類 利用例
食品廃棄物・生ごみ・下水・し尿汚泥・動物や家畜の排泄物・下水汚泥・パルプ工場廃液・廃棄紙・製材工場等残材・建設発生材木 ・バイオガス化(メタンガスなど)
・バイオディーゼル化
・熱分解ガス化
・固形燃料化
・飼料の原料
・堆肥

そのまま廃棄されることが多い物を活用するのが廃棄物系です。木材作成時にできた木屑などの廃棄物や古紙などの紙のごみ・人間や動物の排泄物・生活排水・食品廃棄物などが廃棄物系に分類され、利活用されています。

資源作物系バイオマス

種類 利用例
でんぷん資源(米・トウモロコシ・芋類など)・糖質資源(サトウキビ・テンサイなど)・油脂資源(大豆・菜種・落花生など)・ポプラ・ヤナギ・スイッチグラス・みつろう ・バイオエタノール化(ガソリンに混ぜてCO2排出量を削減)
・消毒用エタノール開発

資源作物から生成するのが資源作物系です。短周期栽培木材など・牧草や水草などの草木系・植物から採取した糖やでんぷんや植物油などが資源作物系に分類されます。資源作物系を利用したバイオエタノールが新しいエネルギー源として期待されています。

バイオマス燃料が注目されている背景

バイオマスから造られた燃料が注目を集めている背景には、現在の世界のエネルギー事情などが関係しています。世界各国が関心を高め、推進していくようになった理由のうち、代表的な3つの理由を解説します。

地球温暖化が深刻

バイオマス由来の燃料の必要性が論議されるようになった背景には、深刻化している地球温暖化があります。

産業革命以降、それまでとは比較にならないほどの温室効果ガスが排出されるようになり、地球温暖化が問題視されるようになりました。世界の各地で地球温暖化による異常気象などで被害が出ており、温室効果ガス排出量が多い化石燃料から地球環境に負担を与えないエネルギー源に変えようという声が高まったのです。

その過程で、複数のエネルギー源が次世代エネルギーとして有力視されるようになりました。その中の1つが環境を汚染しないバイオマスなのです。燃焼する際に生じる二酸化炭素が温室効果ガス排出量にカウントされないため「温室効果ガス排出量削減の効果が非常に高い」と評価されています。

カーボンニュートラルの実現

地球温暖化問題解決のために世界各国で提唱されているのがカーボンニュートラルです。

排出した温室効果ガスを植物などに吸収させるなどで差し引きゼロにするカーボンニュートラルを実現できるのがバイオマス由来のエネルギーです。発電のために燃やす植物由来の燃料は、元は大気中のCO2を吸収していました。それを発電時の燃焼で排出しているので、CO2の排出と吸収が差し引きゼロになることで、カーボンニュートラル達成が可能なのです。

また、燃料の材料となる植物の成長促進を並行して行えるので、二酸化炭素の排出・吸収のバランスがとれることも「バイオマス由来のエネルギーはカーボンニュートラルの実現に最適」と言われる理由です。エネルギーを消費しながら地球環境をより良くしていけるのは、地球にも人類にも非常に大きな利点です。

エネルギー自給率の向上

造った燃料を活用することで自給率を上げられるのも、注目されるポイントです。

特に、エネルギー自給率が非常に低い日本では、かねてから自給率を上昇させることとエネルギー源を多様化することが必要とされ、現状改善のための論議が繰り返されていました。国内のバイオマスから燃料を生産すると共に海外から原料を輸入することで、自給率の向上が達成できるだけではなく、エネルギーセキュリティも上昇させられると期待されているのです。

バイオマス由来の燃料を利活用することによって燃料価格が安定します。バイオエタノールなどは石油燃料と混合して使えるので、化石燃料の代替エネルギーとしても注目されています。

研究と開発が進んだ結果、石油燃料との混合率のうちバイオマスの比率を上昇させられれば、日本だけではなく、世界各国のエネルギー自給率をさらに上げられるのです。

バイオマス燃料のメリット

バイオマス由来の燃料の活用にはさまざまなメリットがあります。特に重視されているメリット3つを見ていきましょう。

発電量が安定している

代表的な利点は、安定した発電量です。

地球環境に優しいとされる太陽光発電・風力発電は、季節・天候・時間帯に左右されやすいという欠点があり、この課題を克服しない限り石油燃料に代わるエネルギー源になるのは難しいととらえられています。現在最も実用化を推進している太陽光も、発電量の安定という条件をクリアできていないのです。

その点、バイオマスは季節にも天候にも時間帯にも関係なく原料を調達し、発電できるので、発電量の安定という大事な条件をクリアしています。

また、現在の技術では電気を大量に貯めておくことができないため、太陽光・風力発電は天候などに恵まれている時期にエネルギー源を蓄積できないのも難点です。しかし、バイオマス由来の燃料ならエネルギー源を蓄積しておけるので、必要なときに活用し、電力を安定供給できます。

火力発電と発電の基本原理が同じなので、火力発電所に一部を混合することも可能な点もメリットに数えられています。

燃料を繰り返し利用できる

地球で生まれ続けている資源をエネルギー源とするバイオマス燃料は、繰り返し利用できるというメリットがあります。

たとえば、廃棄物系バイオマスは本来廃棄するものをエネルギー源にするので、資源の循環を実施できます。化石燃料は有限資源ですが、バイオマス燃料は繰り返し利用が可能なエネルギー源となりえるため、バイオマス燃料やその材料を効率的に利活用することで循環型社会を形成できます。

CO2を増やさない

地球温暖化を食い止めて地球環境を守るために不可欠なのは、これ以上CO2を増やさないことです。バイオマス燃料はその目的の達成にも役立つエネルギーです。

企業の取り組み実例を挙げると、コープは事業・家庭から発生するCO2を削減する取り組みを実施しています。コープでは太陽光発電設備を設置すると共に、バイオガス発電にも着手しました。廃棄していた食品廃棄物を発酵して発生させたバイオガスを燃料にして発電するシステムを整えたのです。

バイオガス発電の導入によって化石燃料の消費量が減少し、新たなCO2排出を抑制すると共に、食品廃棄物をエネルギーとして活用できるようになりました。

これらの取り組みによって、コープは2020年度末のCO2排出量を2005年度より15%削減するという目標を達成させています。

(参考:コープながの「コープながのCO2削減と再生可能エネルギーについて」
(参考:コープ「コープデリ×SDGs① 再生可能エネルギーを「つくる」「つかう」「広げる」」

バイオマス燃料のデメリット

カーボンニュートラル実現に近づけるメリットが多いバイオマス燃料ですが、いくつかの課題も抱えています。現在解決が急がれているデメリットを見てみましょう。

収集・運搬コストが必要

乗り越える必要がある課題の1つに、収集と運搬コストの問題があります。

バイオマス燃料の原料は地球全体に薄く広く存在しているため、収集に時間と手間がかかり、運搬コストも莫大になります。木材バイオマスを例に挙げると、燃料にする木材は建築するための木材を生産する際に二次的にできたものなので、生産・輸送のシステムが燃料生産と輸送向けとしては非効率なのです。

安定した量をまかなえる輸入木材の利用に切り替えるバイオマス発電業者も増えているため、国内のバイオマス資源を低コストで運搬・供給できるように必要なコストを削減して効率よく収集し運搬する手段を考案しなければなりません。

生態系が破壊されてしまう可能性がある

バイオマス燃料には生態系破壊の危険性もあります。前述したように輸入木材など海外からバイオマスの原料を輸入する事業者が増えているのですが、それによって輸入元の生態系を脅かしているのが現状なのです。

日本はバイオマス燃料にする木質ペレットを北米・ベトナム・カナダから輸入していますが、アメリカとカナダで森林保全を行っているNGOから「木質ペレット用木材が目的で天然林・湿地林が皆伐されたことによって貴重な生態系が破壊された」との報告がありました。

バイオマス燃料として活用されているパーム油も、輸入元のインドネシア・マレーシアでは原料獲得のために農園を拡大したことで熱帯林が減少したり、先住民族・地域住民の土地・森林を農園にしたりといった問題が発生しています。

生態系破壊につながらないよう、バイオマス燃料に関する法律を整えることが求められています。

CO2を発生しないカーボンフリーなエネルギーではない

バイオマス燃料はカーボンニュートラルを達成できるエネルギーなのは確かですが、カーボンフリーエネルギーではありません。運搬時・加工時のCO2排出量をチェックしてカーボンニュートラルが達成されているかを確認すると共に、CO2排出量を減らしていかなければなりません。

また、バイオエタノールをアメリカ・ブラジルなどから輸入する際にタンカーで輸送し、工場で加工を行いますが、その過程で発生するCO2を「バイオエタノール利用時のCO2発生量」としてカウントする必要があります。

バイオ燃料の作り方

バイオ燃料は、その長所を活用・短所を解決するために研究・開発が推進されています。現在実施中のバイオ燃料のうち、バイオエタノールとバイオディーゼルとバイオジェットの製造方法を見ていきましょう。

①バイオエタノール

基本的には、蒸留酒と同じように、とうもろこしなどのデンプンを分解して糖に、サトウキビなどの糖はそのままで酵母菌を使って発酵させ、蒸留と脱水処理を行うとバイオエタノールができます。

植物の茎・葉・幹のセルロース・ヘミセルロース・リグニンから酵素や薬品で糖を作り、蒸留・脱水して作るセルロース系製造方法も実施されています。

②バイオディーゼル(BDF)

原料の植物油にメタノール・アルカリ触媒を加えて加熱し、メチルエステル化すると脂肪酸メチルエステルができます。付随してできたグリセリンを分解・除去するとバイオディーゼル燃料になります。

植物油に水素を加えた後、触媒を使って水素化分解し、二次的に作られたプロパンを除去する方法も用いられています。

③バイオジェット(SAF)

SAF燃料の作り方は、油・藻類・木屑などを原料にしようという声が上がっていますが、決まった製造方法は確立されていません。現時点では、バイオディーゼルのように植物油に水素を加えてから水素化分解する製造方法が有力視されています。

バイオマス燃料の今後の見通し

バイオマス燃料は今後どのように活用されていくのでしょうか?脱炭素燃料としてのバイオマス燃料・SAF燃料の材料としてのバイオマス燃料の見通しを見てみましょう。

脱炭素燃料としての活用

脱炭素燃料としてバイオマス燃料が活用されている実例を、経済産業省・資源エネルギー庁公式サイトで紹介しています。

事例①グリーン発電大分

林業・製材業が盛んな大分県飛騨市では、林地残材・未利用間伐材・製剤過程で出る木屑を利用した発電所を建設しました。

発電所の隣に造られた園芸ハウスでは排温水を安価で提供しており、低コストと脱炭素化農業実現と活性化を目指しています。出力は5,700kWです。

事例②くずまき高原牧場・畜ふんバイオマスシステム

岩手県にあるくずまき高原牧場では、牧場内の牛の排泄物を発酵させて生成したメタンガスで発電と熱回収を行うシステムを構築しました。

このメタンガスで発生させた電力と熱はプラント内の負荷で消費しています。この実績により、平成17年度の新エネ大賞「資源エネルギー庁長官賞」を授与されました。出力は37kWです。

事例③豊橋市バイオマス利活用センター

愛知県豊橋市のバイオマス利活用センターは下水処理の過程で生じる汚泥処理を行っていますが、下水汚泥だけではなく地域で発生する生ゴミなどを集約して生成したバイオガスを、ガス発電によってエネルギーに活用しています

また、メタン発酵後の残渣も固形燃料化して石炭の代替燃料として利活用しています。これらの成果を受けて平成29年度の国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞」イノベーション部門を受賞しました。ガス発電機1基につき1,000kWの出力です。

これらの実例を受け、多くの自治体が同様の施設を建設し、脱炭素化社会達成を目指しています。

バイオマス燃料の研究・開発が進むにつれて出力も上昇しているので、見通しは明るいです。

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「バイオマス発電」

SAF燃料の開発

CO2排出量が2021年時点で約7億tに達し、世界全体のCO2排出量2%を占めている航空業界では、温室効果ガス削減を目指し、2016年のICAO(国際民間航空機関)総会で2021年以降の排出量を2020年レベルに抑えることに合意しました。IATA(国際航空運送協会)では以下の目標を定めています。

  • 2020年までに燃料効率を年率1.5%改善
  • 2020年から2030年にカーボンニュートラルでCO2排出量を抑制
  • 2050年までに2005年に比べてCO2排出量を50%削減

これらの目標を達成させるために、世界各国でSAF燃料の開発と導入が推進されています。

2009年に石炭由来燃料と天然ガス由来燃料の混合燃料がASTM(米国試験材料協会)で承認されました。2011年にはバイオ合成のパラフィンケロシンの混合燃料が、2014年には糖質由来燃料の混合燃料が、2020年には微細藻類由来の混合燃料が承認されています。

SAF燃料は100%実用化にはまだ課題があるため、現時点では石油由来の燃料と混合しての使用が義務付けられていますが、今後SAF燃料100%で飛行できるよう研究・開発が行われています。

まとめ

いくつかの課題を解決する必要があるバイオマス燃料ですが、日本・世界各国で研究と開発を重ね、より良い形で運用できる体制を整えています。

CO2の排出量を実質ゼロにできるバイオマス燃料は、2050年カーボンニュートラル達成を目標に掲げている日本や世界各国にとって期待の次世代エネルギーです。

デメリットを払拭し、メリットをさらに増やしていくことを目標にバイオマス燃料を推進している国・自治体・企業を応援することでバイオマス燃料普及に努めましょう。

(参考:Spaceship Earth「バイオマス燃料とは?バイオ燃料との違い・種類とメリット&デメリットを簡単解説」
(参考:YK Partners「【解説】バイオマスの種類は3つある!それぞれの特徴・活用法」
(参考:NDL Digital Collections「バイオマスエネルギー」
(参考:脱炭素技術センター「バイオジェット燃料(SAF)とは」
(参考:FoE Japan「バイオマスの問題点」
(参考:バイオマスエナジー社「バイオマス発電とカーボンニュートラルの仕組み」

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