企業ができる環境問題への対策はある?日本企業の取り組み事例やメリットを紹介

企業ができる環境問題への対策はある?日本企業の取り組み事例やメリットを紹介

2015年のパリ協定以来、世界各国の政府が環境問題に取り組むようになり、企業にも対策を呼びかけています。

日本企業はどのような方法で環境問題に取り組んでいるのでしょうか?

日本企業の取り組み事例や、企業が環境負荷軽減のための対策・取り組みを実施するメリット・注意点を見てみましょう。

企業が環境問題への対策を行うべき理由

温暖化による異常気象などが原因で地球の環境バランスが崩れ、世界の各地で災害が発生している昨今、世界各国の政府が環境問題に取り組むようになりました。

政府や自治体だけではなく、企業にも環境問題対策を行うことを求められており、多くの企業がその求めに呼応して対策を行っています。

世界的な環境問題への関心の高まり

2015年にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約締約国会議)において、2020年以降に温室効果ガスを削減していくことなどを含む世界的な取り決めが採択され、2016年に発効しました。

以降、環境問題への関心度が世界中で高まり、世界各国の政府がカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを表明・実施しています。

カーボンニュートラルや脱炭素経営に取り組む企業が増えると共に、CO2を含む温室効果ガス削減を意識する消費者が増えてきました。

日本生命保険相互会社が2021年に行ったアンケートでは「商品購入の際に何を重要視するか」という質問の1位が価格、2位が安全性で3位が環境負荷だったのが消費者の環境問題への意識の高まりを示しています。

消費者の購買意欲や安心感を維持するため、企業も環境問題に取り組んでいる姿勢を表すことが必要な時代になったのです。

ESG投資の市場拡大

環境改善の意識が高まるにつれて、ESG投資の市場も拡大しています。

ESGは地球温暖化などの環境問題・人権保護・不正防止などに配慮した経営を意味する言葉で、ESG経営に取り組んでいる企業へのサスティナブル投資の残高が2015年以降10倍近くまで増加しました。

2015年にSDGsが採択されたことも、投資家がESG投資に力を入れる契機でした。ESG投資に参入する大型投資家が増え続けた結果、アメリカやヨーロッパを主体にした世界のESG投資残高は2014年より70%も増加しています。

日本企業が行う環境問題への取り組み事例を紹介

近年、環境問題への取り組みを表明する企業が全世界で増えています。この章では、環境問題に取り組んでいる日本企業5社の事例を紹介します。

日本企業取り組み事例①味の素株式会社

CDPの「気候変動Aリスト(最高評価)」に3年連続で選定された味の素は「アミノサイエンスで人と社会と地球のWell-beingに貢献する」と表明しました。

事業を通じ、栄養バランスの取れた食生活のための製品とサービスを提供すると同時に、温室効果ガス・プラスチック廃棄物・フードロスなどの環境負荷の削減を推進しています。

資源循環型のアミノ酸発酵生産の仕組み(バイオサイクル)を活用し、地球環境の再生と持続可能なフードシステムに貢献することを目標に複数の分野で活動をしており、企業サイトのサステナビリティのページで活動の内容や実績を公開しています。

以下が味の素のサステナビリティへの取り組み内容です。

10億人の健康寿命の延伸 栄養課題解決/健康課題解決
環境負荷50%削減 環境マネジメント/TCFD提言に基づいた情報開示/資源循環型社会実現に貢献/フードロス低減/生物多様性/持続可能な原材料の調達/水資源の保全
社会 生活者への提案/製品安全/人権/サプライチェーンマネジメント/人財マネジメント/地域コミュニティとの関係
ガバナンス リスクマネジメント/コンプライアンス/労働安全衛生/情報セキュリティ/知的財産管理

(参考:味の素株式会社「サステナビリティ」

日本企業取り組み事例②キッコーマン株式会社

カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスに加盟しているキッコーマングループは「CO2排出量を2030年度までに2018年度と比べて50%削減する」と表明しました。目標達成のために以下の取り組みを実施しています。

再生可能エネルギー活用 野田本社・中有研究所・総合病院・生産工場などの使用電力を再生可能エネルギー由来の電力に切り替え(2023年9月までに20拠点が100%再エネ由来電力に切り替え済)
生産部門での活動 円型製麹装置からの蒸気量削減/効率よく連続運転できる冷凍機に更新/原料サイロ集約/みりんの仕込みタンクの温度管理変更
物流部門での活動 物流配送センターと倉庫を集約、物流体系を組織し直し動線を整理/原材料・包装資材の調達物流と製品物流の一元化推進
オフィスでの活動 夏期と冬期の冷暖房の室温管理/クールビズ/LED照明導入/OA機器などの管理を強化/会議リモート化/社用車のエコドライブ・低燃費車種やハイブリッド車種導入/電気自動車導入
社外評価システム活用 2014年度からCDP気候変動質問書に回答し、2022年度には11の評価項目中「ガバナンス」などの4項目が「A」と判定(全世界平均評価はC)

(参考:kikkoman「地球温暖化防止」

日本企業取り組み事例③トヨタ自動車株式会社

1960年代から環境問題に取り組んできたトヨタは、1992年「トヨタ地球環境憲章」を制定し、2000年に改訂しました。

2015年には、気候変動・水不足・資源の枯渇・生物多様性損失などの地球環境問題に対して、クルマが地球環境に与える負荷をゼロに近づけると同時に、社会にプラスになる要素を与えることを目標に「トヨタ環境チャレンジ2050」を策定しました。

トヨタ地球環境憲章とトヨタ環境チャレンジ2050の概略は以下の通りです。

トヨタ地球環境憲章 基本方針 豊かな21世紀社会に貢献/環境技術追求/自主的取り組み/社会との連携と協力
行動指針 環境への配慮/環境づくりを関係会社と協力/社会的取り組みへの参画/情報開示と啓発活動
体制 経営トップ層で構成したサステナビリティ会議での推進
トヨタ環境チャレンジ2050 ゼロへの
チャレンジ
ライフサイクルと新車と工場のCO2ゼロチャレンジ
プラスへの
チャレンジ
水環境インパクトの最小化チャレンジ/循環型社会・システム構築チャレンジ/人と自然が共生する未来づくりチャレンジ
具体的な
取り組み
カーボンニュートラル実現に貢献/有限資源を最大限に有効活用/ステークホルダーと連携した生物多様性の保全活動推進

(参考:TOYOTA「サステナビリティ」

日本企業取り組み事例④株式会社ニトリ

ニトリは、事業会社の部門責任者で構成されたサステナビリティ経営推進会議で具体的な目標設定と対応策の取りまとめなどを実施するサステナビリティ推進体制を整えています

取り組んでいく重要課題を7つにまとめ、3つ目の「環境に配慮した事業推進」では以下の取り組みを実施しています。

環境に配慮したものづくりと
取り組み推進
環境に配慮したものづくり「Nitori’s ecology」において、企画と設計の段階から資源を最大限に活用することから製品を使い終わった後の処理までを考慮した商品を開発/回収し再資源化できる製品を拡大
廃棄物削減と資源化拡大 2030年度までに廃棄物排出量30%削減(2018年度比)/産業廃棄物の資源化率95%以上達成/再資源化を前提にした商品の開発
気候変動問題対応 2030年度に温室効果ガス排出量を50%削減(2013年度比)/2050年度にカーボンニュートラル達成
水使用削減と汚染防止 水資源の有限性・水不足が事業に与えるリスクを認識した上でサプライチェーン全体の水使用量を削減/大気・水の汚染が事業に波及するリスクを認識しサプライチェーン全体で環境を汚染する可能性が高い化学物質を安全に管理する

(参考:NITORI「環境に配慮した事業推進」

日本企業取り組み事例⑤森永製菓株式会社

森永製菓は、環境マネジメント推進体制を整えた上で、2023年8月までに4工場と生産関係会社3社のISO14001認証取得率100%を実現しました。

持続可能な循環型社会の形成を目標に掲げ、以下の取り組みを推進中です。

気候変動問題対応 2030年目標にCO2排出量30%削減(2018年度比)・2050年目標に温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す/工場のCO2排出削減/環境負荷が低い代替フロンへの切り替え/輸配送車両削減/省エネ
容器・包装での
環境配慮推進
2030年目標に「inゼリー」プラスチック使用量25%削減/プラスチック減量・減容/環境に配慮した材料への切り替え/リサイクル推進
水資源有効利用 設備冷却水を循環利用/仕込み水を含む原料ロスの削減
生物多様性への取り組み グループ調達方針制定/RSPO加盟/FSC認証紙を使用/サステナブルカカオ豆使用
環境汚染物質への取り組み 大気汚染物質排出抑制/水質汚濁防止/化学物質管理

環境マネジメントシステムにおいては、2018年1月に森永製菓グループ生産事業所としてマルチサイト認証を取得し、2022年4月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同してTCFDコンソーシアムに加入しています。

(参考:MORINAGA「地球環境の保全」

企業が環境問題への対策・取り組みを行うメリット

環境問題の対策を実施し改善のための取り組みを行うことは、企業にとって大きなメリットです。対策と取り組みが企業に与えるメリットとメリットを得る理由を解説します。

企業のイメージアップにつながる

最大の利点と言われることが多いのは、企業のイメージ向上に貢献する点です。

環境問題への問題意識が高まっている中、環境改善の取り組みを実施している企業は、他企業・投資家・顧客に非常に良い印象を与えます。

自社サイトなどでSDGs達成を表明し、現在実施している取り組みや活動によって得られた成果を公開することは、他企業・投資家・消費者に「誠実かつ安定した経営を行っている」というイメージを与え、取引・投資・購買の意欲につながるのです。

企業に対する信頼も得られるので、将来的に取引先と投資家と消費者との安定した関係を築けます。

(参考:KYOCERA【法人向け】企業ができる環境対策のための取り組み例とメリット・注意点」

従業員の意識向上につながる

「環境負荷を下げるために働くことが社員や従業員の意識向上につながる」という利点もあります。

環境問題への意識が高い社員・従業員なら、環境改善対策や改善の取り組みに賛同し、自分の業務に誇りと責任感を持つようになり、愛社精神と労働意欲を高めるからです。

ネットやメディアを活用して対策・取り組みをアピールしていけば「この企業で働きたい」と考える優秀な人材を確保できると共に、離職率の低下や生産性の向上を図れます。

環境問題に取り組む中で社員・従業員同士の交流が活性化し、組織力を高めるという効果も得られるでしょう。

(参考:KYOCERA【法人向け】企業ができる環境対策のための取り組み例とメリット・注意点」

コストの削減につながる

環境負荷対策として実施されている中、コスト削減に直結する対策は以下の通りです。

  • 省エネ
  • 梱包材削減
  • ペーパーレス化

中でも、省エネとペーパーレス化はすぐにでも始められる活動で、実施した結果もすぐに確認できるため、環境負荷に寄与したという実感を得られやすく、従業員や社員の活動意欲をさらに高められます。

特に、ペーパーレスは印刷代・保管代・印紙代などを削減できると同時に、書類作成の手間を省けるので、人件費を減らせるという利点もあります。削減したコストを経費がかかる環境負荷対策に回せば、効率よく対策を推進できるのも大きなメリットです。

投資家に選ばれやすくなる

2015年以降ESG投資の市場が大幅に拡大したのは記事冒頭に記した通りです。

環境問題への対策を実施しつつ環境改善のための取り組みを実施している企業は、消費者だけではなく投資家にも選ばれやすくなりました。

「長期的な視野を持って環境問題に取り組んでいる」という姿勢は、環境改善の意識が高いことをPRするだけではなく「安定した経営を行っている企業」というイメージを投資家に与えるからです。

投資先として高評価を受けることにより資金の調達が円滑に進むようになるので、信頼の置ける企業として投資家の支持を獲得しやすくなります。

ビジネスチャンスの創出が期待できる

環境改善の対策や取り組みを実施する中、他企業・業界との接点が生まれることもあります。自社だけで始めるのが難しい環境対策でも、すでに実施している取引先や他企業に賛同し参加することが可能です。

他企業と連携して活動することで、企業同士の連帯感を強めると同時に、新規の取引を獲得し、新たなビジネスチャンスを創り出せます。

また「この商品を利用することが環境負荷軽減の協力になる」と商品をPRすることで商品の価値を高め、利益につなげられます。

企業が環境問題への対策・取り組みを行う際の注意点

企業が環境問題の対策と取り組みを実施する際にはいくつかの注意点があります。注意点を理解した上で対策・取り組みの計画を練り、実行することが必要です。

短期的な利益につながりにくい

環境を改善するための対策には時間がかかります。すぐに始められる対策もありますが、その取り組みによってすぐに利益を得られるとは限りません

具体的な目標を設定した上で環境改善活動計画を策定し、定期的に進捗を確認しながら改善策を実施するなど、着実に実績を積み重ねることにより安定した利益を得られるようになるからです。持続的な資源の確保にもある程度の時間を要します。

環境負荷を意識する投資家が増え、ESG投資の市場が盛り上がっているのは事実ですが、短期的な利益を獲得したい投資家はESG投資に二の足を踏んでいます。

しかし、ESG投資を始める投資家が増え続けることにより、市場はさらに拡大すると見込まれているので、短期的な利益を得ようとせず、長期的視野で取り組む必要があります。

(参考:KYOCERA【法人向け】企業ができる環境対策のための取り組み例とメリット・注意点」

初期費用が経費がかかる

環境の改善を企業全体で図るためには初期費用を投じなければなりません。この初期費用がネックになって環境問題に取り組めない中小企業も多いです。

しかし、環境負荷を低減するための取り組みの多くは、政府や自治体から助成金や税制優遇を受けられます。

経済産業省が設置したグリーンイノベーション基金は、政策効果が大きく、社会実装までを前提にして長期間の継続支援が必要な領域を重点的に支援する目的で設置されています。

助成金・税制優遇を利用すれば初期費用という問題点を払拭可能なので、企業がある自治体の支援内容を確認してみましょう。

(参考:経済産業省「グリーンイノベーション基金」

SDGsウォッシュに陥ることがある

SDGsに取り組んでいると内外に公開している企業の中には、SDGsウォッシュに陥っている企業もあります。

SDGsウォッシュとは、SDGsへの取り組みを表明しながら実際の活動を行っていない状態を表す言葉で、2024年までにSDGsウォッシュが明らかになった企業が取引先・投資家・顧客に背を向けられた実例が複数報告されています。

SDGsウォッシュ疑惑をステークホルダーに与えないためには、以下の2つを実施することが重要です。

  • SDGsを正しく理解した上で実施する
  • サプライチェーンの管理を徹底する

特に、サプライチェーン管理は重点的に行いましょう。自社だけではなくサプライチェーンのSDGsへの取り組みを確認することでステークホルダーの信頼を維持できるからです。

企業がSDGs事業に取り組む際に必要な行動方針をまとめたSDG compassを活用することでもSDGsウォッシュを回避できます。

まとめ

大きくバランスを崩している地球環境を改善するため、数多くの企業がさまざまな対策に取り組んでいます。

環境負荷の低減対策は綿密な計画を立てて着実に実行していく必要があります。

環境改善対策を実施している企業の取り組み内容などを確認し、自社に適した環境問題対策を行って環境改善に寄与すると共に、企業経営の安定というメリットも獲得しましょう。

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