カーボンフットプリントとは?企業が取り組むべき理由や今後の課題を解説

カーボンフットプリントとは?企業が取り組むべき理由や今後の課題を解説

企業が多くのCO2を排出するのは、工場で製品を製造するときだけではありません。原材料を調達し、製造後に消費者のもとに届けられて使用され、最終的に廃棄・リサイクルされるという一連の流れすべてにおいてCO2は排出されています。

そのため企業は「カーボンフットプリント」の取り組みを実施することで、どのプロセスで排出量が多いのか認識し、優先的に取り組むことでCO2削減を最適化する必要があります。

今回はそのカーボンフットプリントについての詳細、GHGとの違いや企業が重視するべき理由、算出手順や取り組み事例について、詳しく解説していきます。

カーボンフットプリント(CFP)とは?

カーボンフットプリントとは、簡単にいえば企業が排出する「CO2排出量」を計算するためのルールのことです。

ただし単純な量ではなく、企業による商品の製造から廃棄までのプロセス全体における、温室効果ガス(GHG)排出量の「総量」を算出するための指標を表します。

  1. 原材料の調達で排出されたCO2(GHG)の量
  2. 商品生産の過程で排出されたCO2(GHG)の量
  3. 商品流通・販売の過程で排出されたCO2(GHG)の量
  4. 商品使用・維持管理の過程で排出されたCO2(GHG)の量
  5. 商品廃棄・リサイクルの過程で排出されたCO2(GHG)の量

「フットプリント(FP:Footprint)」にはゴールまでの「過程」や「足跡」という意味があります。文字通りカーボンフットプリントもCO2排出総量というゴールを求めるために、上記の過程1〜5をすべて正確に測定し、足し合わせる必要があります。

以上の取り組みにより、過程ごとの排出量・商品ごとの排出量を両方把握できるようになり、より効率的・効果的な脱炭素への取り組みが可能となります。

温室効果ガス(GHG)との違い

先程の過程で「排出されたGHG」ではなく「排出されたCO2(GHG)」と表現していることには理由があります。

実際に排出される温室効果ガスには、CO2(二酸化炭素)だけではなく、CO(一酸化炭素)やCH4(メタン)等の物質も含まれているからです。

ただしカーボンフットプリントでは、ライフサイクル全体における温室効果ガス排出量をCO2に換算して表します。この換算に用いる係数を「GWP」といいますが、この点は後ほど詳しく解説します。

カーボンフットプリントマークとは?

カーボンフットプリントマークとは「CFPプログラム」登録者向けに発行される、商品ごとのCO2量を視覚的に確認できるマークのことです。商品のパッケージに掲載できるため、自社製品がCO2削減に貢献していることを消費者にアピールできます。

マークを取得するためには、こちらのページから「CFP-PCR」認定申請を行う必要があります。企業は事務局に対して原案と認定申請書を提出する必要があり、合否判定に通過すればマークが付与されます。

ライフサイクルアセスメント(LCA)とカーボンフットプリントとの関係

カーボンフットプリントとライフサイクルアセスメント(LCA)は、どちらも製品が作られ廃棄されるまでのライフサイクルにおける環境負荷を可視化するものです。ただし「可視化するもの」に関して、両者は次のような違いがあります。

  • カーボンフットプリント(CFP):「CO2排出量」を可視化し評価する
  • ライフサイクルアセスメント(LCA):「環境負荷」の度合いを可視化し評価する

カーボンフットプリントはCO2排出による企業ごとの「地球温暖化」への影響度を知ることができますが、ライフサイクルアセスメントの方はさらに広義であり、次のような分野において企業が与える影響度も測ります。

  • オゾン層破壊
  • 大気汚染
  • 資源の枯渇
  • 酸性化
  • 光化学オキシダント

この通り、ライフサイクルアセスメントは評価の対象が広いです。商品のライフサイクルにおいて上記の「環境負荷」がどれだけ発生しているかを定量的に評価します。

企業はカーボンフットプリントとライフサイクルアセスメントのどちらに取り組むべきか、自社の事業内容や社会へ与える影響、それぞれのメリットを比較したうえで決める必要があります。

カーボンフットプリントが重視されている背景

現代において特にカーボンフットプリントが重視されている理由には、次の点が挙げられます。

  • 企業はCO2排出の主体である
  • ESG投資が主流になりつつある

企業はCO2排出の主体である

カーボンフットプリントが重要な最大の理由は、それが「気候変動の抑止」につながるからです。CO2の排出量が多い分野を優先的に削減できれば、それだけカーボンニュートラル(排出量と吸収量の一致)および脱炭素社会の実現時期も早くなります。

なぜ企業なのかというと、商品やサービスの生産から廃棄に至るまでのプロセスにおいて、企業は直接的にも間接的にも、人間が普段何気なく生活する時より遥かに多いCO2を排出しているからです。そのため企業はCO2排出の主体として、世界に向けて環境負荷を低減する責任があります。

もし今、世界中の企業が一斉に生産をストップすれば、CO2排出量は大幅に減少するでしょう。しかしそれは現実的ではありませんし、短期的にみれば経済活動が停止する方が確実に莫大な損害・被害を招きます。CO2削減を含む環境活動と経済活動は、常に両立させていく必要があるのです。

ESG投資が主流になりつつある

カーボンフットプリントへの取り組みは、投資家によるESG投資の呼び込みにも役立ちます。ESG投資とは企業が持つ「環境・社会・ガバナンス」を評価基準として投資することであり、高い持続可能性を持つ企業ほど多くの投資を期待できます。

カーボンフットプリントに取り組んでいる企業は、気候変動抑止への取り組みが積極的であり「責任を果たしている」と評価されやすいだけでなく、信頼性や透明性への評価も高くなるため、地球だけでなく企業にとってもプラスにはたらきます。

企業がカーボンフットプリントを明記するメリット

企業が自社のカーボンフットプリントへの取り組みを公表したり、商品にカーボンフットプリントマークを明記することにより、消費者に選ばれやすくなります。

前提として、すでに環境問題はすでに日本を含む多くの国で教育に取り入れられていますし、毎日のようにメディアを通して地球温暖化やそれに伴う気候変動の情報が流れています。

もちろん環境問題そのものについては様々な意見がありますが、環境への問題意識を「知る」ことが、一人ひとりの行動や選択に影響を与えることがあります。

SNS等を通して自発的に情報を取得・共有できるようになった現代においては、「CO2排出量が少ない」とか「企業が積極的に環境活動を行っている」ことなどを、商品やサービスを選ぶ際の判断基準としている人が増加傾向にあります。

結果的に、カーボンフットプリントを進める企業は「環境問題に対する責任を全うしている」として消費者から評価され、優先的に選ばれやすくなります。この傾向は、今後より強くなっていくものと推測されます。

カーボンフットプリントの算出手順

カーボンフットプリントを算出する方法は、次の2種類あります。

  1. 計測機器を用いて直接的に排出量を計測する
  2. 排出を伴う「活動量」を用いて間接的に排出量を算出する

基本的には1のやり方がもっとも正確ですが、2の方法を用いる場合は次の手順で行います。

  1. 商品のライフサイクルを細分化する
  2. 細分化したプロセスごとのGHG排出量を算定する
  3. 算出したプロセスごとのGHG排出量を合計する

まずは排出量を算定したい商品のライフサイクルを、原材料の調達から廃棄・リサイクルまでの個別プロセスに細分化します。最初から全体の排出量を求めるのではなく、各過程ごとの排出量を積み上げる(足し合わせる)必要があるからです。

次は細分化された一つひとつの工程それぞれの排出量を算出します。排出量とはプロセスごとの「活動量(燃料や電力等の使用量)」のことです。

この活動量には、自社で計測しているデータだけではなく、サプライヤーから提供されるデータ(1次データ・2次データ)も含まれます。

  • 1次データ:システムの工程内で直接的に記録された、信頼性の高い値
  • 2次データ:1次データに属さない値(外部のデータ・代理データ・論文等)

カーボンフットプリントの算出過程では通常、上流サプライヤーから提供された排出量(1次データ)を計算に用いるべきです。なぜならその方が正確な数値を算出できるからであり、企業は可能な限り1次データを取得できるよう努力すべきです。

しかし現実は、1次データのみを収集・使用して計算するのは困難です。そこで何らかの理由で1次データの利用が難しいとき、可能な限り信頼性の高い「2次データ」か、保有する活動量データに「排出係数」を乗算して算出します。

最後に、ここまでプロセスごとに算出した排出量を合算し、ライフサイクル全体での排出量を算出します。

カーボンフットプリントマークの添付が許諾されている商品例

すでに認証を受けた、カーボンフットプリントマークの使用が許諾されている商品のリストは、CFPプログラムの公式サイト上から確認できます。CFP認証済商品の一部を紹介します。

  • 上級森の薫りロースハム・あらびきウインナー(日本ハム株式会社)
  • トップバリュごはん(イオン株式会社)
  • ポテトチップスうすしお・コンソメパンチ(カルビー株式会社)

これらリストに掲載されている商品はすべて、ライフサイクルにおける環境負荷が可視化されたもの、いわば「透明性が高い商品」と言い換えることができます。消費者が複数の選択肢の中から商品を選ぶ際の、ひとつの参考材料となるでしょう。

カーボンフットプリントのデメリットと今後の課題

次はカーボンフットプリントのデメリットと今後の課題となる5つの点について、それぞれ解説していきます。

カーボンフットプリントの算出に明確なルールがない

すでに解説したように、カーボンフットプリントの排出量算出には一定のルールがあります。経済産業省と環境省によりガイドラインも用意されているため、企業が計測・算出を行う際にはここに記載されている指針に従うことになります。

ただし2次データの使用許可など、排出量算出に使用されるデータの根拠に一定の「曖昧さ」も認められています。この点でルールが明確化されたものではなく、算出された排出量がそれぞれの企業の裁量に左右されてしまう、という課題もあります。

算出に手間がかかる

カーボンフットプリントの算出は、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法が基盤となっています。

そのためLCAの内容や規格(LCA14040)の内容をよく理解しており、プロセスごとの正確な排出量を計算できる技術や、専門知識を有した人材を用意するためのコストが発生します。排出量を直接計測するために、各プロセスに機器を導入する場合も同様です。

算出結果を開示することにより他社と比較される可能性がある

自社のカーボンフットプリント算出結果が公表されることで、現状を他社と比較・評価される可能性があります。

情報の透明性が保たれることは投資家や消費者にとって重要なことですが、環境のための活動で一種の競争が生まれたり、その結果が自社の評判につながることをネガティブに捉える経営者がいるのも無理はありません。

カーボンフットプリントを算出するだけではCO2は削減できない

カーボンフットプリントは脱炭素社会を実現するための重要な指標ですが、それ自体がCO2の削減に直接つながる活動ではありません。

企業がCO2を効率的に削減するためには、カーボンフットプリントの結果を受けたアクションが必要です。ライフサイクルにおけるCO2排出量を可視化できたなら、次はどこを重点的に改善すべきか検討し、実際に行動に移すべきです。

ユーザーの理解が不十分

カーボンフットプリントは今のところごく一部の商品にしか添付されておらず、商品を購入・利用するユーザーからの知名度や理解度が不足しています。一部のユーザーに認知されるだけでは意味がないため、一定のコストをかけてでも普及に努めていく必要があります。

カーボンフットプリントでCO2を削減するために企業ができること

次はカーボンフットプリントという指標を利用して、企業がCO2を積極的に削減するためにできる4つのことについて解説します。

再生可能エネルギーの導入

企業はカーボンフットプリントの取り組みにより正確にCO2排出量を把握することで、再生エネルギーの導入も円滑になります。なぜなら排出量の可視化により、どの工程を優先的に削減するべきか、優先的にコストをかけるべき部分を把握できるからです。

また再生可能エネルギーを導入した後も、カーボンフットプリントの取り組みは継続するべきです。導入による効果を数字として評価できますし、削減効果を公表することで他の企業も追随する可能性があります。

社用車をEVに切り替える

カーボンフットプリントの取り組みにより、運送(輸送)に伴うCO2排出量が多いことに気づく企業は多いでしょう。実際のところ、日本が国全体で排出するCO2量のうち、約17%はトラックや貨物車を使用する運輸部門が占めていると公表されています。

もし企業がガソリン車からEV車に切り替えるなら、それだけで自社のCO2排出量を大幅に削減できるでしょう。ただしEV分野は未だ成長過程であり、充電の遅さやバッテリー製造時のCO2排出量に関する問題もあります。特に事業全体での大規模な切り替えを予定している場合は、何度もシミュレーションを重ねたうえで慎重に決定すべきです。

省エネ設備を導入

カーボンフットプリントの取り組みを行うことで、企業は自社のオフィス・工場で使用している設備を「省エネ設備」に変える重要性に気づくでしょう。実際に多くの企業が空調や照明設備をCO2排出量の少ない省エネ設備に変更し、削減に成功しています。

通常、オフィスよりも工場の方が省エネ設備への切り替え優先度が高いです。そのためボイラーを高効率なものに換えたり、ボイラーの排出熱を他の設備に利用できる排熱回収装置の導入を優先できます。

カーボンオフセットを行う

ここまで解説した省エネへの取り組みを行っても「どうしても削減できない部分」は出てきます。そこで活用できるのが「カーボンオフセット」というしくみです。

カーボンオフセットとは、他の削減活動やカーボンクレジット・証書費用に出費することで、自社で削減が難しい分を埋め合わせ(オフセット)することです。国内では「J-クレジット」や「非化石証書」などの制度を利用できます。

カーボンオフセット自体は、CO2を直接的に削減できる取り組みではありません。しかしカーボンフットプリントの取り組みにより、これ以上の削減が難しい工程におけるCO2排出量が多いことがわかったとき、カーボンオフセットによって削減目標を達成できる場合があります。

カーボンフットプリントに対する日本企業の取り組み

最後に、カーボンフットプリントを伴うCO2削減に取り組んでいる2つの日本企業について、それぞれの取り組み内容や成果について紹介していきます。

マルハニチロ株式会社

大手食品会社であるマルハニチロ株式会社は、国が「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」に選定した5つの企業のうちの1つです。

マルハニチロはカーボンフットプリントを、環境配慮商品であることをアピールして売上を増加させたり、投資家や消費者からの評判を下げることなく、気候変動という課題に素早く対応する企業であることを表明するために活用しています。

現在のところ、マルハニチロ社のカーボンフットプリント認証を受けた商品名は公表されていません。しかし今後も対象商品は拡大していくと表明しており、カーボンオフセットと併せて製品のプロモーションに利用するとしています。

ミニストップ株式会社

コンビニチェーンのミニストップを展開するミニストップ株式会社も、国が選定した「「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」対象企業の1つです。

同社は10年以上前から、地球温暖化防止のためにカーボンフットプリントが重要である点を認識し「CSRレポート」の中で言及しています。

そのレポートの中では、商品のライフサイクルにおける地球温暖化への影響や、商品を購入する消費者への認知が重要と記載されていました。実際にミニストップは店舗全体での「温室効果ガスマネジメント」を実施し、CO2排出量削減に成功しています。

まとめ

カーボンフットプリントは、ただ単に「自社のCO2排出量を知るためのもの」ではありません。

自社製品のライフサイクルにおける排出量を可視化することで現状を理解し、より効率的な削減につなげていくための指標です。

今後、気候変動問題への責任を果たすために積極的なCO2排出削減に取り組む企業は、ぜひカーボンフットプリントの取り組みを強化できないか検討してみましょう。それは「コスト削減」や「信頼性向上」といった目先のメリットだけでなく、地球の将来を守るための貴重な第一歩となります。

 

参考:
カーボンフットプリント
カーボンフットプリント ガイドライン
初心者のためのCFP
カーボンフットプリント レポート

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