大気汚染対策で私たちにできることは?日本や世界、個人の取り組みを紹介

大気汚染対策で私たちにできることは?日本や世界、個人の取り組みを紹介

地球温暖化問題が世界各国で問題視されている中、大気汚染問題もクローズアップされています。

大気汚染は地球温暖化の原因でもあり、放置しておくと人類の存続に関わる現象です。この事態を好転させるために日本・世界各国はどのような対策を実施しているのでしょうか?

日本・世界の大気汚染対策や、大気汚染の原因・大気汚染によって生じる現象、個人ができる対策などを見ていきましょう。

大気汚染とは

大気汚染は、人類の経済活動などで発生した化学物質・温室効果ガスによって地球の大気の状態が悪化し、人類を含む生態系に悪影響を与えるようになったことを表す言葉です。

18世紀の産業革命以降石炭・石油などCO2を大量に排出する化石燃料の利用率が大幅に上昇したことで、地球の自然回復力を上回る汚染物質が生じ、大気汚染が拡大し、世界各国で社会問題に取り上げられるようになりました。

大気汚染を食い止めるために日本や世界が行っている政策・対策は、記事後半で紹介します。

大気汚染の原因となるもの

大気を汚染している物質はさまざまで、排出を減らすためには国家・自治体・企業・個人が協力し努力することが必要です。

大気を守るために削減しなければならない汚染物質は以下の通りです。

物質名称 大気・人体への影響
窒素酸化物(NOx) 酸性雨・光化学スモッグを発生させる
浮遊粒子状物質(SPM) PM2.5の発生原因/循環器系・呼吸器系の病因
揮発性有機化合物(VOC) 大気放出後にPM2.5・光化学スモッグを生じさせる
硫黄酸化物(SOx) ぜんそくなどの病因/人間の健康・大気に被害をもたらす
温室効果ガス 地球温暖化の原因

火力発電所や工場から排出される大気汚染物質

火力発電所・工場などから排出されるのは下記の物質です。

  • 窒素酸化物
  • 浮遊粒子状物質
  • 揮発性有機化合物
  • 硫黄酸化物
  • 温室効果ガス

温室効果ガスの成分であるCO2とメタンガスは本来汚染物質ではありませんが、地球の自浄力を超過することによって地球温暖化の原因になるため、CO2の排出をゼロにする脱炭素化やCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルが推進されるようになりました。

(出典:環境省「大気汚染物質排出量総合調査(令和 2 年度実績)」

環境省が2020年に公開したグラフで硫黄酸化物・窒素酸化物・ばいじんの排出量の推移を見ると、硫黄酸化物は1978年に比べて半分近くまで減少していますが、窒素酸化物はほぼ横ばい状態なのがわかります。

オフィスや一般家庭から排出される大気汚染物質

(出典:東京都環境局「日常生活からのVOCについて」

オフィス・一般家庭からは揮発性有機化合物が排出されます。

可燃性のエアゾールスプレー・接着剤・塗料など、オフィスや一般家庭で使用した製品から出る揮発性有機化合物の量は、東京都の2015年度の年間排出量を見ると、約6万tのうち68%が工場や事業所などからの排出で、オフィス・一般家庭からは自動車などからの排出11%を上回る19%であることがわかります。

オフィスと一般家庭の排出量は法規制の対象外なので、含有量が少ない製品を選ぶなどの削減努力が求められています。

自動車が排出するガス

自動車からは以下の物質が排出されます。

  • 窒素酸化物
  • 浮遊粒子状物質
  • 温室効果ガス

特に問題になっているのはCO2を含んだ温室効果ガスの量で、地球温暖化を進行させないために電気自動車・水素自動車・ハイブリッド自動車などのエコカーの開発や自動車の脱炭素化を図るためにエコドライブ・ゼロカーボンドライブなどが推進されています。

再生可能エネルギー導入により排気ガスの抑制も行っています。

大気汚染により生じる現象

大気の汚染で生じる現象と人間・動植物・環境に与える影響を見てみましょう。

現象 影響
PM2.5 ・大気が曇って視界を遮る
・呼吸器系と循環器系の病因になる
光化学スモッグ ・大気が汚れて視界が悪化する
・目と喉が痛くなる
酸性雨 ・作物の育成環境を損なう
・植物や特定生物が減少する
・生態系バランスが崩れる
・建築物が劣化しやすくなる
黄砂 ・目のかゆみ・鼻水などのアレルギーを発症する
・呼吸器系と循環器系の病気を引き起こす

PM2.5が黄砂に付着して飛んでくることもあり、PM2.5の飛来状況などが併記される天気予報サイトが増えました。

大気汚染が引き起こす悪影響

大気汚染は人間・環境・経済に多くの悪影響を与えています。代表的な悪影響をカテゴリ別に見ていきましょう。

人体へ与える影響

大気の汚染により、人体は以下のような影響を受けます。

現象 影響
PM2.5 喘息・気管支炎・アトピー性皮膚炎・肺ガン
浮遊粒子状物質 花粉症・呼吸器系疾患・アトピー性皮膚炎・ガン
粒子状物質(PM) 呼吸器系疾患・ガン
光化学オキシダント(Ox) 頭痛・目の痛み・吐き気

WHOは「2019年時点で世界人口の99%がWHO大気の品質ガイドラインレベルに達していない場所に住んでおり、420万人の早期死亡の原因になった」という推計を発表しました。大気汚染の被害が多かったのは南東アジア地域と西太平洋地域だというデータも公表しています

(参考:公益社団法人日本WHO協会「環境(屋外)汚染」

自然環境に与える影響

大気汚染は、自然環境にも絶大な被害をもたらします。大気中の窒素酸化物・硫黄酸化物などが溶け込んだ酸性雨は、降り続くことによって樹木を枯らし、河川や湖沼の水質を酸性化することによって生物が住めなくなり、生態系のバランスを大きく崩すからです。

春に酸性雪が溶け出したノルウェーのトブダル川では、サケ科の魚の大量死を引き起こしました。

経済に与える影響

人体や自然環境が受けた影響により、経済も打撃を受けています。世界銀行は、2013年に大気汚染が原因で約5.5億人が早期死亡したことにより、全世界で総額約2,250億ドルの労働所得損失があり、厚生上でも約5兆1,100億ドルの損失があると算出しました。

20世紀後半以降の経済的発展は驚異的で世界各国の人の健康状態も大幅に向上しましたが、2013年の大気汚染原因の労働所得損失は1990年比で40%増え、厚生上の損失は2倍になりました。大気汚染が悪化することにより、経済も大きな被害を受けているのです。

大気汚染対策で私たちにできること

地球環境を守るためには行動を起こさなければなりません。私たちができる対策を確認し、心がける必要があります。個人がすぐに始められる対応策をご覧ください。

省エネを心がける

省エネはすぐに開始できる対策で、さまざまなやり方があります。主な方法を見てみましょう。

  • 冷蔵庫の開閉回数を減らす
  • 冷暖房の温度設定を調節する
  • 蛍光灯・LED電球を使う
  • 電気・家電は不要なときは消して待機電力を消費させない
  • 省エネ製品を使う(エコカーなど)

省エネを実施している企業の製品を購入して応援することも省エネにつながります。

移動は徒歩や公共交通機関を利用する

大気を汚染する排気ガスを発生する自動車の利用を控え、徒歩・自転車やバス・電車などの公共交通機関を利用するのも効果があります。無理のないペースで少しずつ汚染物質が出ない移動方法に切り替えてみましょう。

自動車利用を避けられない人は、エコドライブ・ゼロカーボンドライブの実施によって汚染物質を大幅に減らせます。

自動車を購入する際にエコカーを選ぶ

自動車に乗り続ける人はエコカーを選ぶことでも汚染物質削減を実行できます。現在ポピュラーなのは電気自動車・ハイブリッド自動車・水素自動車などで、従来のエンジン車より値段が高く台数も少ないですが、世界中でエコカーの開発と生産が活発になっています。

エンジン車でも再生可能エネルギーを活用したカーボンニュートラル燃料を使えるよう研究が推進されているので、自動車が汚染原因にならない時代が来るかもしれません。

VOC(揮発性有機化合物)を含まない製品を選ぶ

汚染物質となって大気に被害を与えるVOCを含んでいない製品を選ぶのも、効果的な対策です。

VOCは建築工事・塗装・機械の洗浄・自動車給油・印刷などの作業工程で発生するほか、家庭用シャンプー・芳香剤・床用ワックス・殺虫剤などにも含まれていることがあります。VOCが含まれていない製品を購入しましょう。

日本や世界における大気汚染への対策

日本そして世界各国で大気汚染の対応策を練り、実施しています。現在までに日本と世界各国が取り組んできた大気汚染対策を見ていきましょう。

日本における大気汚染への対策

日本で実施されている代表的な大気汚染の政策・対策を4つ紹介します。

①大気汚染防止法

高度経済成長期に公害問題が深刻化したことにより、大気汚染を防止して国民の健康・生活環境を保護するために1968年に制定されました。この法律の中で、工場・事業場などから放出される大気汚染物質の廃棄基準を、物質の種類と施設の種類・規模ごとに定めています。

②環境基本法

1967年制定の公害対策基本法の後を継ぐ形で1993年に施行された法律で、環境に関連した国の基本的方向性を示しています。

CO2やPM2.5などを含む大気を汚染する10の物質に対して環境基準が定められました。二酸化炭素の場合は「1時間値の1日平均値を0.04ppm~0.06ppmのゾーン内またはそれ以下に留める」と規定されています。この環境基準遵守を目標に、大気汚染防止法で規制を行っています。

③自動車NOx・PM法

自動車交通が特に多い大都市などを対象に、ディーゼル自動車の排気ガス(窒素酸化物)を規制し、大気環境基準を確保するために1992年6月に公布されました。

自動車が排出する窒素酸化物・粒子状物質の特定地域における総量削減などに関する特別措置について定めた法律です。この法律の指定地域で定められた排出基準を満たしていない自動車は、猶予期間以降の登録ができません。

④EST

ESTは「環境的に持続可能な交通」を表す言葉で、環境を破壊しない、持続可能な交通を実現するのを目的にOECDが発案し、ヨーロッパを中心に取り組みが開始され、日本でも実施されるようになりました。

日本では21の地域をモデル地域に定め、公共交通機関利用促進・LBT(次世代型路面電車システム)の整備などを行っています。

世界における大気汚染への対策

世界各国で実施している政策・対策の中からイギリス・インドネシア・中国の取り組みを解説します。

①イギリス

1952年12月に「世界で最初の大気汚染」と言われるスモッグに覆われたイギリスは、この公害から1週間以内に15万人が入院、12,000人が亡くなるという多大な被害を受けました。以降積極的に対策を実施しています。

2019年に公表した大気浄化戦略では、国民の健康と環境保護、運輸・産業・家庭から出る汚染物質の削減に取り組むことを定めました。2025年までにPM濃度がWHO基準を超えている地域に住む人の数を半数にすることを目標にしており、2030年に大気汚染が招いた経済的損失を年間53億ポンド削減する見込みです。

②インドネシア

1982年に旧法が制定、1997年に改正され、2009年にさらに改正された環境管理法は、以下のように規定されています。

  • 事業活動に対する環境規制の強化
  • 紛争処理に関する規定充実
  • 国民の環境情報の権利規定導入
  • 環境当局の権限強化

この法律により、環境犯罪の容疑者を警察と協力して逮捕する権限が与えられています。

③中国

黄砂やPM2.5で大気汚染が進行している中国は、2013年の時点で北京中心部のPM2.5の数値が300を超えていましたが、北京オリンピック開催を機に、電気自動車の導入・共産党主導の大気汚染規制を実施しました。

その結果、2018年には60まで低下するというめざましい効果を示しています。

まとめ

産業革命以降悪化の一途を辿っていた大気の状態は、世界各国で対策を実施することで少しずつ改善しています。

国家・自治体・企業・個人それぞれが実行できる対応策で大気の汚染を食い止め、地球環境を守っていくのが大切です。手に届く範囲から大気汚染対策を始めてみましょう。

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