カーボンフリーとは?カーボンニュートラルとの違い・企業の脱炭素のための取り組み事例

カーボンフリーとは?カーボンニュートラルとの違い・企業の脱炭素のための取り組み事例

カーボンフリーは、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすること。カーボンフリートの実現は、企業や組織が環境に配慮した経営を行う重要な取り組みの一つです。

カーボンニュートラル実現を目標にしている日本・世界各国で推進されているカーボンフリーについて解説します。

カーボンニュートラルとの違い・カーボンフリーエネルギーの種類などをチェックしてみましょう。取り組むメリットや抱えているデメリットと課題、世界・日本・日本企業の取り組み内容もご覧ください。

カーボンフリーとは

カーボンフリーとは

カーボンフリーは、国家・企業の温室効果ガス排出量をゼロにすることを表す言葉です。太陽光・風力・水力・水素・アンモニアなどの温室効果ガスを発生しないエネルギーはカーボンフリーエネルギーと呼ばれています。

2015年に開催されたパリ協定では、世界各国で温室効果ガス削減を共通の目標に掲げ、カーボンフリーに取り組むことでカーボンニュートラル実現を目指しています。

カーボンフリーとカーボンニュートラルの違い

カーボンフリーは温室効果ガス排出量を完全にゼロにすることで、カーボンニュートラルは温室効果ガス排出量と温室効果ガスの吸収・除去量を差し引きゼロにする考えを表します。

パリ協定で目標に掲げているのはカーボンフリーではなくカーボンニュートラルです。CO2の排出量をゼロにすると植物が生きていけなくなるので、温室効果ガスの排出量を完全になくすことはできません。

そのため、カーボンフリーを世界全体で達成するのは不可能だからです。

到達点をカーボンフリーではなくカーボンニュートラルとした上で、現在のCO2排出量を自然と調和できる量まで削減し、温室効果ガス吸収量と除去量を増やす活動をしています。その過程でカーボンフリーエネルギーを活用する試みなどを実施しています。

カーボンニュートラルは現在設定されている最終到達点であり、カーボンフリーはカーボンニュートラルを達成するための手段の1つなのです。

カーボンフリーなエネルギーとは?

カーボンフリーを達成するためにはカーボンフリーなエネルギーを活用しなければなりません。現在カーボンフリーエネルギーに数えられているエネルギーは以下の通りです。

  • 太陽光
  • 風力
  • 水力
  • 地熱
  • 水素
  • アンモニア
  • 合成燃料

太陽光発電は、導入コストが年をおうごとに低下しているため、企業・自治体だけではなく一般家庭への導入が増えています。

風力発電は設置できる地域が限定されているため、電力系統と連携しにくいという問題点があり、解決が急がれています。

水力発電では、農業用水・上下水道施設を使った中小規模の水力発電が活発になりました。

地熱を使った地熱発電では、フラッシュ方式とバイナリー方式のうち、バイナリー方式が再生可能エネルギーとして国に認可されています。

水素・アンモニア・合成燃料は、次世代エネルギーとして注目されています。この3種のエネルギーで最も導入が進んでいるのは水素で、化石燃料に代替できるエネルギーとして活用可能な点が特に重要視されています。

アンモニアはCO2を排出しないので、アンモニアのみで発電するための技術を開発中です。

二酸化炭素と水素を合成した燃料である合成燃料も、水素よりもエネルギー密度が高い・既存設備を活用できるというメリットで期待されています。

カーボンフリーに取り組むメリット

カーボンフリーへの取り組みは、国家にも企業にも個人にも数々のメリットがあります。その中で代表的なメリットを2つ解説します。

カーボンニュートラルの実現に貢献できる

パリ協定以降、世界各国がカーボンニュートラル実現に向けて活動しており、日本では2050年カーボンニュートラルを目標にしています。

世界各国のカーボンニュートラルの実現に貢献するためには、カーボンフリーへの取り組みが不可欠です。現状ではCO2は吸収しきれないほどの量が排出され続けているので、積極的にカーボンフリーを推進していく必要があります。

世界各地・企業では、CO2排出量に応じてCO2吸収量を増やすために植林などを行っていますが、CO2の排出量が減れば減るほど吸収力増加のための技術推進・資金調達が容易になるのは、非常に大きな利点です。

企業の外部PRになる

パリ協定以降、カーボンフリー・カーボンニュートラルへの取り組み内容を公式サイトでPRする企業が増えました。取引先・他企業・顧客に対して脱炭素化の意識を示すことは、外部PR効果だけではなく、自企業以外にも脱炭素化を働きかける効果があります。

また、金融機関でも脱炭素化に向けた活動が進んでいるため、融資の選定規準に脱炭素化・地球温暖化防止策などの取り組み状況が考慮されることが増えてきました。ESG投資なども増え続けているので、カーボンフリーに取り組むことで金融機関・投資家の優位性を得られ、資金調達面でのメリットも享受できるのです。

カーボンフリーに取り組むデメリット・課題

カーボンフリーへの取り組みにはデメリットや課題もあります。現在カーボンフリーを取り組んでいる国・企業が頭を悩ませているデメリットを見ていきましょう。

設備投資に莫大な費用がかかる

カーボンフリーを推進する過程で最初につまづく問題は、設備投資費用です。カーボンフリーエネルギーを活用するためには専用の設備の設置と維持が必要ですが、初期費用も維持費もこれまで活用してきた火力発電よりも多くの投資をしなければなりません。

しかし、自家消費が用途の太陽光発電設備導入については、補助金・優遇税制制度を利用できます。初期投資額を節約し、月々の電気料金を削減して初期投資額の回収速度を上げることが可能なのです。

再生可能エネルギー導入が進むにつれ、補助金などが増えていったり、優遇税制を利用できる条件が緩和されたりする可能性が高いです。

設備をつくる際にCO2を発生する

新たなエネルギー設備をつくる際にCO2を発生するのも、無視できないデメリットです。太陽光発電ではメガソーラーを設置する際に森林を破壊したり設置場所を荒廃させる可能性があり、それによりCO2の吸収量が減少します。

水力発電・地熱発電にも、設置時に森林破壊を伴うことが多く、長期間を要する工事中に大量のCO2を発生させるのです。

設備をつくるときに自然環境を荒廃させ、CO2吸収量を減らし、CO2を発生させるという点で、脱炭素エネルギーの導入に及び腰になっている国・企業もあります。

安定した発電量を維持するのが難しい

現状で最大の課題と指摘する声が多いのは、安定した発電量の維持が困難なことです。カーボンフリーエネルギーは自然を利用しているので、季節・天候などによって供給量が変動します。

季節や天候に左右されない水素エネルギーは水素の調達のためにいくつかの規制が設けられているため、インフラ整備が必要です。アンモニアも発電時に約2,000tが必要なので、供給が不足する可能性が高いのです。

こういった課題を乗り切るため、CO2排出ゼロのエネルギーを複数組み合わせて必要な電力を得ようというエネルギーミックスの推進が求められています。

エネルギーミックスとは

エネルギーミックスとは、複数の発電方式をバランスよく組み合わせて電気を供給することです。

例えば火力発電は、CO2排出量が多く化石燃料を輸入する必要がありますが、安定的に発電でき、需要に合わせて発電量を調整しやすいという特徴があります。また、原子力発電は、安全対策が必須ですが、CO2排出量が少なく継続的な発電が得意です。

発電方式それぞれのデメリットを、違う発電方式のメリットで補いあうことで、CO2排出量を削減しながらエネルギーを安定供給することができるでしょう。

世界・日本のカーボンフリーの取り組み事例

世界・日本は2050年カーボンニュートラルを目標にしてカーボンフリーに取り組んでいます。

世界と日本の取り組み事例を見ていきましょう。

世界の事例

第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催された2021年11月の時点で、154カ国と1地域が年限を区切ったカーボンニュートラル実現を表明しました。

COP26では、パリ協定第6条に基づいた市場メカニズムの実施指針が合意・パリ協定のルールブック完成・インドの2070年カーボンニュートラル宣言など、国際的ルールの作成と機運醸成が進展しています。

世界のESG投資額は2020年に35.3兆ドルに達し、世界のESG投資の50%以上が集まるアメリカでは、2022年3月に証券取引委員会が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づいた気候変動に関する情報開示規則案を示しました。最終規則がまとまると、2024年には企業の情報開示が必要になります。

(出典:「経済産業省・資源エネルギー庁「脱炭素を巡る世界の動向」

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「脱炭素を巡る世界の動向」

上の年度付きのカーボンニュートラルを表明した国と地域を示した図を見ると、2050年カーボンニュートラルを表明した国が過半数を占めていることがわかります。この目標を達成するために各国がCO2削減を実施しているのです。

日本の事例

2020年10月に当時の内閣総理大臣所信表明演説で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言しました。2021年4月に出席した地球温暖化対策推進本部と米国主催の気候サミットで「2030年度に温室効果ガスを2013年度と比べて46%削減することを目指し、50%の高みに向けて挑戦していく」と表明しています。

電力部門のCO2排出量の大半を占めている火力発電所のCO2排出量削減を実現するため、CO2フリー電源(水素・アンモニア等)・CO2の貯留と利用(CCUS)・蓄電池等の技術を組み合わせて火力発電の代替を図っていく方針です。

非電力部門のCO2排出量は省エネ化などによって減少し続けており、電化・熱需要の水素利用・CCUSをカーボンニュートラル実現のために実施していますが、電化で賄えない産業・化学反応でCO2が発生する産業の問題点解決が課題になっています。

(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組」

日本企業のカーボンフリーの取り組み

世界各国の政府が2050年カーボンニュートラル実現を目指してカーボンフリーに取り組む中、海外企業ではGoogleがカーボンフリーの取り組みを公表しています。ここでは日本企業3社の取り組み実例を見てみましょう。

日本企業の取り組み①株式会社リコー

リコーグループでは、2050年にバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言しました。その目標を実現するために複数の取り組みを実施しています。

リコーは、「スマートエネルギービジネス」と銘打って、電力販売サービス・照明のLED化・省エネと省コストを兼ね備えた業務用エアコンなどを顧客に提案・支援・提供するビジネスを展開しています。

具体例では、アメリカの生産関連本部社屋に太陽光発電システムを導入して社屋の商品電力の10%を再生可能エネルギーにしました。

事業活動全体ではCO2排出量を抑制するために生産プロセスの革新を行っています。また、最新の環境設備と技術を取り入れた事業所を建設すると共に、ZEB事業所社屋を拡大し、顧客提案に活用しています。サプライチェーンでは物量の環境負荷削減を実施中です。

具体例では、海上輸送コンテナで運ぶ製品・部員などを1つのコンテナに積んで積載率を向上させ、CO2換算で700t以上を削減しています。

(参考:エアマネ「脱炭素に向けての企業の取り組み事例をご紹介します」
(参考:RICOH「脱炭素社会の実現」

日本企業の取り組み②オムロン株式会社

オムロンは、2018年7月、2050年に温室効果ガス排出量ゼロにする目標「オムロン カーボンゼロ」を設定したと公表しました。2022年4月スタートの長期ビジョン「Shaping the Future 2030」では、2024年度までに温室効果ガス排出量を2016年度との比較で53%削減する目標を定めています。

2023年1月には、自己託送方式での送電を開始しました。自家発電設備を有する事業者が発電した電力を送配電ネットワークを介して遠隔地の工場・事業者に送電して使用する自己託送システムは、オムロンでは初めての取り組みです。

京都宮津市内に設置した太陽光発電所で発電した電力を、オムロンフィールドエンジニアリング株式会社が約100km離れている自社事業所に送電・供給しています。

その結果、自家発電設備を設置するスペースがない事業所でも、自社で発電した再生可能エネルギーを利用できるようになりました。

(参考:OMRON「京阪奈イノベーションセンタへ再エネ電力の「自己託送」を開始」

日本企業の取り組み③山一電機株式会社

山一電機株式会社は、企業活動全体で地球環境保全に配慮した上で行動すると宣言し『未来に残そう 緑の大地」というスローガンを掲げ、環境管理活動実施・環境関連法規制などの遵守・持続可能な資源利用などの方針を推し進めています。

総排出物と電気使用量とコピー用紙使用量とガソリン使用量と産業廃棄物を削減し、リサイクル率の向上を実施しています。

具体的には、2020年に千葉県の佐倉事業所の生産ラインに供給する電力を停止させないために太陽光パネルとNAS電池を導入しました。その結果、佐倉事業所の使用電力量の再生可能エネルギー割合は20%近くまで上昇し、年間で350tのCO2排出量を削減しています。

千葉県佐倉市と「災害時等における施設の一時利用に関する協定」を結び、電力提供・駐車場利用などを行う地域の災害避難所に認定され、、CO2削減・BCP対策・コスト削減を実現しました。

(参考:山一電機株式会社「環境方針」
(参考:山一電機株式会社「環境負荷低減に向けた取り組み」

まとめ

2050年カーボンニュートラルの実現は達成するために多くの努力が必要な目標ですが、日本でも世界各国でもカーボンフリーを含めた数々の方法で実現のための取り組みを行っています。

カーボンフリーなエネルギーの活用には課題も問題点もありますが、今後の研究・技術開発によってそれらの課題を克服していくことが可能です。

大きな目標の達成のため、国・企業・自治体・個人それぞれがカーボンフリーなどを念頭に入れた活動をすることで、2050年カーボンニュートラル達成が実現できるのです。

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