アンモニア発電とは?メリット・デメリットや企業が抱える問題点・取り組みを解説
- 再生可能エネルギー
アンモニア発電とは、アンモニアを燃料にして行う火力発電です。日本で最も技術開発が進んでいるのは石炭火力発電ですが、アンモニア発電も注目を集めています。
この技術では、アンモニアを燃料として使用し、燃焼時に発生する排出物が二酸化炭素を大幅に削減できるため、環境への影響が軽減されます。
また、アンモニアの輸出入は既に世界で行われていますが、安全性の懸念や技術の未熟さ、経済的な課題なども存在するのが現状です。
日本の原材用アンモニア消費量は約108万トンであり、国内生産は約8割、輸入は約2割と世界的にみても小規模ですが、クリーンエネルギーへの需要が高まる中、アンモニア発電が注目を浴び、将来的な進展が期待されています。
(参考:経済産業省|資材エネルギー庁)
アンモニア発電とは?
アンモニア発電は、アンモニアを使用して発電する技術の一種です。
アンモニアは、窒素と水素から構成される無機化合物で、農業、化学工業、冷媒、洗剤、肥料などに利用されています。
通常、火力発電所では石炭や天然ガスなどの化石燃料を燃やして発電しますが、アンモニア発電ではアンモニアを燃料として使用します。
アンモニア発電は、二酸化炭素を排出しないのが特徴です。
二酸化炭素を排出しないことから、二酸化炭素排出量削減によって地球温暖化の原因になる温室効果ガスも減少させられると近年発電の燃料としても注目されています。
中でも最も技術開発が進んでいるのが石炭火力発電のボイラーにアンモニアを混ぜて燃焼させる「火力混焼」です。
火力混焼により、アンモニアだけでなくLNGなどの燃料も使用できるため、エネルギー供給の柔軟性が向上します。
火力混焼は、エネルギー供給の持続可能性向上や環境への影響軽減を目指す一環として研究されており、これによって従来の発電方法よりもよりクリーンで効率的なエネルギー生産が期待されているのです。
アンモニア発電の仕組み
アンモニア発電は、アンモニアを燃料として使用して発電する方法です。
以下は、一般的なアンモニア発電の基本的な仕組みです。
- アンモニアの製造:アンモニアは通常、窒素と水素の反応によって合成。この反応は、高温と高圧の条件で行われることが一般的。
窒素は通常大気中から取り込まれ、水素は天然ガスや電気分解などから供給。 - アンモニアの液化:液化することで、アンモニアを輸送したり、貯蔵したりするのが効果的。
- アンモニアの燃焼:アンモニアは酸素と反応して窒素と水蒸気に変化し、反応により熱エネルギーが発生。
- 蒸気タービンの駆動:発生した熱エネルギーは水を蒸気に変え、蒸気を使って蒸気タービンを駆動。
- 発電:発電機が回転して電気エネルギーが生成。この電気エネルギーは送電網を通じて一般の電力会社に供給。
アンモニア発電は発電する時に温室効果ガスを排出しないのが特徴であり、2014年に日本の科学者が世界で初めてアンモニア燃料のガスタービン発電に成功しました。
他の燃料と比べて燃焼時のCO2排出量が多い石炭に、燃やしてもCO2が発生しないアンモニアを混ぜることで、発電量を維持しながらも石炭のみの発電を比べてCO2排出量を抑えられます。
アンモニア専焼では他の燃料と混焼せずにアンモニアのみを燃料として発電する方法で、実現すれば発電時にCO2を全く排出しない発電ができるようになるため、地球温暖化の原因になる温室効果ガスも減少できるのです。
アンモニア発電のデメリット
ここからは、アンモニア発電のデメリットを紹介します。
アンモニア発電には、次の4つのデメリットがあります。
アンモニア燃料が十分に確保できない
アンモニア発電の最大のデメリットは、「アンモニア燃料が十分に確保できない」ことです。
アンモニアを燃料とする火力発電が普及すればCO2排出量の多い電力分野の脱炭素は大きく進むと期待されていますが、アンモニア混焼を実現するだけのアンモニア燃料を確保することが困難とされています。
世界貿易量を考えても、現段階でアンモニア20%混焼を実現するのはかなり難しいでしょう。
アンモニアは窒素と水素から合成されるため、水素の供給が不足するとアンモニアの製造も制限されます。
持続可能な水素供給を確保するためには、再生可能エネルギーを用いた水素製造技術の発展や、水素供給基盤の整備が必要です。
今後アンモニア発電に必要なアンモニア燃料をどのような方法で確保していくかは、非常に重要で今後の課題でもあります。
アンモニア生産過程でCO2を発生する
アンモニアは燃焼の際にCO2を排出しないことを説明しましたが、アンモニア生産過程でCO2が発生してしまいます。
つまり、CO2の排出量を削減しようとアンモニア発電を普及させればさせるほど、CO2が発生してしまうということです。
結果的に元も子もないことになってしまう可能性が高いです。
そこで、化石燃料から水素を製造する過程で生じるCO2を回収して地下に貯蔵する方法や、CO2を再利用するカーボンリサイクル、再生可能エネルギーを使って作った水素を使うことで「カーボンフリー」の実現を目指す動きにも注目されています。
アンモニア火力活電を広く普及させるためには、CO2をアンモニア生産時には排出しない工夫も必要です。
アンモニアの生産過程におけるCO2排出を抑制することができます。
将来的な技術の進展と持続可能なエネルギー源の利用が、アンモニアの生産における環境への影響を最小化するのに貢献するでしょう。
価格高騰の可能性
アンモニアは農業や産業で多岐にわたり使用されており、国際的な需要と供給の変動が影響を及ぼすことがあります。
需要の急増や供給不足が一時的に起きると、価格の上昇や供給の遅れが発生する可能性があります。
日本国内全ての石炭火力発電所で20%混焼を行うことになれば、先述した世界全体のアンモニア輸出量とほとんど変わらないアンモニアを確保する必要が出てくるでしょう。
国内で急激にアンモニアの混焼率が増加してしまうと、現在の世界の生産量では不足してしまい、その結果市場価格が大幅に高騰してしまう可能性もあります。
これらの問題は非常に大きな懸念点であり、サプライチェーン問題を解決して、アンモニア燃料を持続可能な存在にするためには、まだまだ時間がかかりそうです。
このような課題を受けて、アンモニア燃料の安定的な供給体制を確立するべく2020年10月には「燃料アンモニア導入官民協議会」が設立されました。
経済産業省が設置した「燃料アンモニア導入官民協議会」においては、2030年までに300 万トンの燃料アンモニアを導入することや、新たな燃料アンモニア市場の形成とサプライチェーンの構築について官民で協議されているところです。
将来的にアンモニア輸出量が高い国はもちろん、アメリカやオーストラリアなどの新たな国がアンモニアの生産に力を入れれば、日本でも安定的な供給体制を構築できるでしょう。
酸性雨の原因でもある「窒素酸化物」を排出する
アンモニア発電のデメリットとして、酸性雨の原因でもある「窒素酸化物」を排出することが挙げられます。
アンモニア発電では、酸性雨の原因でもある「窒素酸化物」が排出されるため、窒素酸化物も環境を破壊してしまう要素の一つです。
窒素酸化物は工場や自動車の排ガスから発生し、高濃度二酸化炭素は人間の呼吸器や気管などにも悪影響を与えてしまいます。
さらに、光化学スモッグや酸性雨の原因にもなってしまうのです。
ただし、閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で課題となっている酸性雨の原因でもある「窒素酸化物」を排出する点は、制御可能であることが証明されています。
実際に日本の電力各社のNOx排出原単位は、アメリカやイギリス、フランス、イタリアを比べても低い水準となっています。
厳しい排出規制基準を達成するために排煙脱硝機を付設しており、 全体の排ガス処理能力の 90%程度が乾式選択的接触還元法(SCR 法)で脱硝処理がされています。
アンモニア発電のメリット
ここからは、アンモニア発電のメリットを紹介します。
アンモニア発電には、次の3つのメリットがあります。
カーボンニュートラル実現に近づく
アンモニア発電に必要なアンモニア燃料は、二酸化炭素の排出をせずにエネルギーを生み出せるのがメリットです。
カーボンニュートラルとは、ある活動やプロセスにおいて発生する炭素(carbon)排出を、同等またはそれ以上に削減または吸収することによって、総合的な炭素排出量をゼロにする状態を指します。
現段階ですぐに火力発電を完全にやめてアンモニア発電に切り替えることは不可能ですが、今後アンモニア発電でアンモニアを混焼していくことで二酸化炭素の排出を抑えられるのです。
2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度の電源構成においてアンモニアが水素とともに明記されています。
現在の約32%を占める石炭火力の割合を2030年には19%ほどまで減少させることが明記され、今後もより一層の取り組みに期待されています。
燃焼してもCO2を発生しない
アンモニア発電の最大の特徴は、「燃焼してもCO2を発生しない」ことです。
アンモニアは燃焼してもCO2を排出しません。
そのため、現在主流である石炭を燃焼させて発電する方法と比べても、CO2の削減に期待できるということです。
仮にアンモニアの20%混焼を行った場合、約4,000万トンのCO2を削減できると言われています。
従来、アンモニアは化石燃料を原料にして製造されてきましたが、近年では太陽光などの再生可能エネルギーを用いて製造される試みもされています。
今後混焼ではなく専焼で発電できるようになれば、エネルギー業界に革命を起こすでしょう。
安全面のガイドラインが確立されている
アンモニア発電に必要なアンモニアは、安全に輸送するためのパイプラインや安全性に対するガイドラインが確立されるまでになっています。
例えば、陸上ではパイプラインやクローリーで運ばれて、海上輸送の場合はタンカーが用いられています。
これまでは次世代エネルギーである水素の輸送媒体として考えられていましたが、大量輸送が難しい水素を輸送技術が確率しているアンモニアの形に変換して運び、利用する場所で水素に戻すという手法が開発されています。
アンモニア発電所が適切に設計され、運営、維持されることで、従業員の安全性が確保され、同時に環境への潜在的な影響も最小限に抑えられるでしょう。
世界・日本のアンモニア発電の普及率
アンモニア発電に関する研究やプロジェクトは進行中で、特にクリーンエネルギーへの関心が高まっていることから、その普及が進んでいます。
アンモニア発電は、持続可能なエネルギー源として注目されており、環境への影響を削減するための技術と見なされています。
しかし、具体的な国や地域ごとの普及率は異なります。国によってはアンモニア発電の導入が進んでいる一方で、他の国ではまだ導入されていないこともあります。
最新のデータや統計情報を入手するには、エネルギー関連の政府機関や国際エネルギー機関(IEA)、産業団体、研究機関の報告書などを参照すると良いでしょう。
また、関連するニュースや学術論文も情報収集の手段として役立ちます。
ここからは、世界・日本のアンモニア発電の普及率をそれぞれ確認していきましょう。
世界の現状
世界の原料量アンモニア生産は、2019年で年間約2億トンで、そのうち貿易量は1割の約2,000万トンと、ほとんどが地産地消されていることがわかります。
アンモニアの輸出量が最も多い国はトリニダード・トバゴ、ロシア、サウジアラビアと続いており、この3カ国だけでも世界の輸出量の約半数を占めています。
生産上位国はどれも人口の多い農業大国という側面も持ち、生産されたアンモニアのほとんどが農業用費用として消費されているのです。
欧米ではアンモニア混焼は石炭火力発電の温存につながるとの懸念が根強く、国際エネルギー機関(IEA)が脱炭素ロードマップの中で2030年にすべての先進国の石炭火力発電所の廃止を掲げています。
その他、欧州シンクタンクから日本のアンモニア混焼の問題点を指摘するレポートが次々と発表されています。
世界では日本のように火力発電に依存している国は少なく、そもそもアンモニア発電を行うメリットは少ないため、そこまで普及していないと考えられます。
例えば、ヨーロッパでは火力発電よりも風力発電や水力発電が盛んに行われており、主要な発電方法として使われています。
そのため、火力発電における二酸化炭素を抑えるというアンモニア発電は、日本などの火力発電が盛んに行われている国や地域の特殊な発電方法として考えられます。
日本の現状
資源エネルギー庁では、燃料アンモニアの導入拡大に向けた取り組みを実施しています。
燃料として利用するアンモニアは地球温暖化対策における有効な手段となっています。
アンモニアの現状と燃料アンモニアの導入・拡大における課題として、「アンモニアは燃焼してもCO2を排出しないゼロエミッション燃料」を掲げており、排出されるCO2を適切に処理していくことも重要であると考えられているようです。
今後においては以下のようなロードマップも策定しており、このロードマップに基づいて、官民で連携していくこととしています。
(出典:経済産業省)
現段階ではまだ日本で広く普及している発電方法ではないですが、このロードマップのように進んでいけば、日本でのアンモニア発電は拡大していくでしょう。
そして、2050年には世界全体で1億トン規模の日本企業によるサプライチェーンを構築することを目標としており、電力各社もカーボンニュートラル実現に向けた行動行動指針を発表しています。
例えば、発電会社のJERAでは2030年までに石炭火力プラントにおいてアンモニア混焼の実証試験を進めています。
2030年代前半には保有石炭火力全体における混焼率20%を達成し、2040年代の専焼化開始を目指して混焼率を拡大していくことを目標に掲げています。
(参考:資源エネルギー庁「燃料アンモニアの導入・拡大に向けた取組について」、JERA「『JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ』と『JERA環境コミット2030』)
アンモニア発電の将来性と今後の課題
アンモニア発電の将来性にはいくつかの期待が寄せられていますが、同時にいくつかの課題も存在しています。
アンモニアの安全性
アンモニアの安全性は第一の課題に挙げられています。例を挙げると、アンモニアは刺激臭があり、高濃度の場合には有毒であるため、取り扱いや運搬、発電プロセスにおいて安全性が懸念されるため、この問題をクリアにすることが求められています。
新たなインフラ整備の必要性
アンモニア発電の実用化にはインフラの整備が必要です。上記のアンモニアの安全性の問題からインフラを問題視する声もありますが、アンモニアはこれまでも肥料として利用されていたために既存のアンモニアのインフラを活用できるので、それほど重要な課題とみなされていません。
普及が制約される可能性
適切な規制フレームワークが整備されていない場合、普及が制約される可能性も考えられます。アンモニア燃料の確保が困難なことや水素とアンモニアの混焼率が上昇すると燃料コストも上昇することなどを理由に、アンモニア発電普及が制約される可能性があります。
原料の持続性
原料を持続するには窒素と水素が必要ですが、水素の生産にはエネルギーが必要であり、そのエネルギー源によっては環境負荷が変わり、今度は水素の持続可能な製造が課題となるでしょう。
アンモニア発電が将来的に成功するためには、これらの課題に対処しつつ、技術の進化、安全性の確保、経済的な側面の向上が求められます。
日本では、2021年に石炭火力にアンモニアを20%混焼する実証事業を採択し、目標に向けて動き出しています。
仮に国内の大手電力会社が保有する全ての石炭火力発電所で20%アンモニアを混焼して発電できれば、CO2排出量は年間約4,000万トン削減できます。
削減量は年間約2億トンとなる試算がされており、環境課題解決を実現できる可能性が高まるのです。
アンモニアは液体としてエネルギーを効率的に輸送・貯蔵できる特性があり、再生可能エネルギーの柔軟な利用に寄与できます。
アンモニア発電は従来の化石燃料よりも低い炭素排出を実現できるため、クリーンエネルギー供給の一翼を担う可能性があります。
まとめ
アンモニア発電に対する評価は、複数の要因に依存します。
一般的には、アンモニア発電は持続可能なエネルギー源としての可能性がありますが、その意義や有益性は特定の状況や課題によって変わる可能性があります。
しかし、アンモニア発電は二酸化炭素の排出をせずにエネルギーを生み出せるのがメリットです。
まだ技術的にも不透明な部分や課題が多く、今すぐに普及していくものではないですが、エネルギー供給を考えるうえで、いろいろな取り組みを同時に進めて、選択肢を増やしておくことが重要であることは間違いないです。
今後、日本でアンモニア発電が普及し、脱炭素を実現する道筋は整っています。
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編集者
maeda