エネルギーミックスとは?理想の割合・組み合わせや2050年に向けた課題を解説
- CO2削減
エネルギーミックスとは、複数の発電方法を組み合わせて電力供給を行うことです。
複数ではなく一つの発電方法に頼ると、燃料供給が滞り発電ができなくなってしまう可能性や、経済活動に悪影響が出る恐れがあります。
社会全体に電力を安定供給するために考案された「エネルギーミックス」のメリットとデメリットを解説します。
日本ではエネルギーミックスが必要不可欠です。現在、エネルギー不足を防ぐために、再生可能エネルギーを開発する動きが世界中で高まっています。
世界各国のエネルギー事情・日本政府と企業の取り組み事例などもあわせてご覧ください。
目次
エネルギーミックスとは
エネルギーミックスとは、社会全体に数種類の発電方法を組み合わせて電力を供給することです。単一の発電方法ではなく複数の発電方式で電気を供給しているのは、1種類の発電方法に統一すると、何らかの原因でその発電方法が活用できなくなった場合に電力不足に陥るからです。
エネルギーの安定供給は、現在の日本のエネルギー政策の重要な要素のひとつです。
特に、日本などのエネルギー資源が乏しい国では、エネルギーミックスが欠かせません。化石燃料が豊かな国でも化石燃料が枯渇するとエネルギー不足になるので、再生可能エネルギー開発を推し進めています。
現在、日本国内では大別すると3種類の発電方法で発生させた電気が使われています。3種類の発電方法の種類・メリット・デメリットを見てみましょう。
エネルギーの種類とメリット・デメリット
日本で使われている電気は、火力発電・原子力発電・再生可能エネルギーによって作られたものです。
エネルギーの種類とメリット・デメリットについて解説します。
火力発電と原子力発電
日本の電力の大部分を担っているのは、化石燃料を使用する火力発電と、ウランを燃料とする原子力発電です。
火力発電
火力発電は日本の電力構成の70%を占めており、エネルギーの安定供給を支えています。発電量を調節しやすく、発電コストが安価なので、電力の需要増減にフレキシブルに対応可能です。
石油・LNG(液化天然ガス)・石炭といった化石燃料がエネルギー源ですが、埋蔵量には限りがあるため、永続的に使用することはできません。また、発電時に二酸化炭素を大量に排出し、地球温暖化を加速させる恐れがあります。
原子力発電
ウランから作る核燃料をエネルギー源とする発電方法です。コストに占める燃料費の割合が小さく、発電コストは火力発電よりも安価だと言われています。
また、発電時に二酸化炭素を発生させないので、地球温暖化防止に役立ちます。
ただし、使用済み核燃料は高レベル放射性廃棄物となり、安全に処分するのに高度な技術と長期間の管理が必要です。事故が起こった時には周囲への影響が深刻となるリスクがあります。
再生可能エネルギー
再生可能エネルギーは発電時に二酸化炭素を排出せず、永続的に枯渇しないことから、エネルギーミックスに不可欠です。それぞれのメリット・デメリットを解説します。
風力発電
風力で風車を回して発電する方法です。発電量が季節や天候に左右されますが、風通しの良い海上や山間部に発電設備を設置できれば、安定的に発電ができます。
設備費用が高く、設置場所の選定が難しいことがデメリットです。
水力発電
水力発電は水の流れる力でタービンを回して発電します。エネルギー効率が高く、揚水発電ではエネルギー需要に合わせて発電することができます。
大規模な水力発電には大型ダムの建設が必要ですが、設置場所が限られてしまします。
太陽光発電
太陽光発電は、光エネルギーを太陽電池で電力に変換する発電方法です。一般家庭の屋根に設置でき、日本でも設置コストが安くなってきているため、普及が進んでいます。
天候不良時や夜には発電することができないため、別の発電方法と合わせて活用しないと安定供給はできません。
地熱発電
火山の熱や蒸気を利用して発電する方法です。季節・気候に左右されず、安定的に発電できます。火山大国である日本に適した発電方法です。
ただし、地熱資源が豊富な地域にしか設置できず、近隣の温泉設備は自然環境への影響を考慮する必要があります。
バイオマス発電
バイオマス発電は、動植物から生成された生物資源をエネルギー源にしている発電方法で、永続的に共有されるという大きなメリットがあります。
しかし、コストがかかるために伸び悩んでいます。
エネルギーミックスが重要視される理由
エネルギーミックス導入の際にさまざまな発電方法が活用されますが、発電方法によってメリットもデメリットもあります。
ここでは、単一の発電方法ではなく、複数の発電方法を実施するメリットを解説します。
発電量をコントロールできる(安定供給)
最大のメリットと言われるのは、発電量をコントロールできるので供給が安定することです。
1種の発電方法に頼ると、発電の際に障害が発生した場合に電力がストップしたり十分に供給されなくなる恐れがありますが、複数の発電方法を準備していれば主力エネルギーに代わる代替エネルギーにすぐ切り替えることが可能です。
複数の発電方式の導入が推進されているのは、温室効果ガスが増えたという理由だけではなく、現在の主力エネルギーの原料である化石燃料が有限資源だからという側面もあります。
また、エネルギーの原料を原産国からの輸入に頼っている国にとっては、自国で安定した発電量を保てるのは非常に大きなメリットなのです。
温室効果ガスが削減できる
温室効果ガスが削減されるのも代表的なメリットです。温室効果ガスが増えたことにより、地球温暖化が進み、異常気象が頻発するなど、さまざまな弊害が生じています。
主力エネルギーの火力発電は発電効率が高くコストが安いのが長所ですが、大量の温室効果ガスを発生させます。
主力エネルギーの座を再生可能エネルギーに明け渡せば、大幅な温室効果ガス削減が達成可能です。再生可能エネルギーの開発やコスト削減を研究しつつ、第2・第3の発電方法を維持することでエネルギーミックスを実現させるのが得策です。
日本のエネルギーミックスの組み合わせ・現状
日本国内のエネルギーの割合のグラフ・表を見てみましょう。
(出典:環境省・資源エネルギー庁)
(出典:環境省・資源エネルギー庁)
日本では、1970年代に起こった第一次オイルショック以降、化石燃料の利用割合がほとんど変化していません。
2010年までに成長してきた原子力発電は、2011年の東日本大震災における原発事故の影響で縮小傾向にあります。
日本のエネルギー自給率は非常に低いため、輸入先の確保とともに、自国で供給できる再生可能エネルギーの開発が急務とされています。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」)
COP28で4年連続化石賞を受賞
2023年12月3日、国連の気候変動会議「COP28」において、日本は「化石賞」という不名誉な賞を受賞しました。
化石賞とは、世界130ヵ国の1,800を超えるNGO団体のグループ「気候変動ネットワーク」が贈っている賞です。COPの期間中毎日、気候変動対策に消極的だと判断した国を選んでいます。
COP28において日本は、「温室効果ガスの排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新規建設は行わない」「火力発電の化石燃料をアンモニアに転換して排出削減を進める」と表明しました。それに対し、「既存の石炭火力を延命し、再生可能エネルギーへの移行を遅らせている」との批判が込められています。
化石燃料をアンモニア・バイオマス・水素などに転換することは、二酸化炭素の排出量の削減に繋がりますが、先進国の取り組みとしては不十分と判断されたのでしょう。
今後は、日本の脱炭素政策をさらに具体的・積極的なものにし、世界に発信していくことが重要です。
ちなみに、COP28における日本以外の化石賞受賞国は、以下の通りです。
- ニュージーランド
- アメリカ
- ブラジル
- ロシア
- カナダ
- ノルウェー
- 韓国
- イスラエル
- オーストラリア
- EU
- ベトナム
- サウジアラビア
- コロンビア
世界のエネルギーミックスの現状
世界各国のエネルギー割合のグラフと表をご覧ください。
(出典:環境省・資源エネルギー庁)
IEA(国際エネルギー機関)の調査により、全体で石炭・石油などの化石燃料の割合が減少していることが判明しました。そして、再生可能エネルギーの需要が増え続けています。
こういった傾向は2015年以降に顕著になり、特に先進国では脱化石燃料と再生可能エネルギー導入の動きが活発です。
しかし、発電の設備が整っていない発展途上国は、暮らしに必要な電力の十分な供給がないため、エネルギーミックスを進めるにはまず電力供給のためのインフラ整備が課題になっています。
発展途上国と先進国の差が大きい
現在エネルギーミックスに取り組めているのは、すでに電力インフラが整っており、経済力・技術力の高い先進国です。
発展途上国では、比較的安価な化石燃料への依存度が高く、再生可能エネルギーなどの他の電源に初期投資を行う経済力がないことから、エネルギーミックスはあまり進んでいません。
今後、発展途上国でもエネルギーミックスを実現するためには、先進国が資金面・技術面で支援を積極的に行う必要があります。
2030年・2050年に向けて日本ができること・課題
将来、エネルギーミックスを確実に実現させるため、日本では2030年・2050年に向けて課題を設けています。
その課題達成のためにできることを抑えておきましょう。
2030年に向けた課題
第6次エネルギー基本計画が提示した2030年に向けた課題を見てみましょう。
2030年に実現させたいエネルギーミックス水準は、以下の通りです。
エネルギーの種類 | 電源構成比率 |
再生可能エネルギー | 22~24% |
原子力発電 | 20~22% |
化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど) | 56% |
省エネルギーは、実質エネルギー効率を35%減らすのが課題です。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?」)
2050年に向けた課題
「2050年までに温室効果ガスを80%減らす」という目標をかかげている日本の課題を見てみましょう。
エネルギーの種類 | 目標・課題 |
再生可能エネルギー | 経済的自立を達成して脱炭素化した主力電源にする |
原子力発電 | ・社会的信頼の回復 ・人材と技術と産業基盤の強化 ・安全性と経済性と機動性に優れた原子炉の開発 ・バックエンド問題解決に向けた技術の開発 |
化石燃料 (石油・石炭・天然ガスなど) |
・資源外交の強化 ・クリーンなガス利用に移行 ・石炭火力発電を徐々に減らしていく |
その他 | ・各分野の技術革新によって省エネを推進 ・水素や蓄電池などの技術開発 ・分散型のエネルギーシステムを構築する |
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?」)
2030年に向けてできること
第6次エネルギー基本計画では、2030年度のエネルギーミックスでは、火力発電の原材料のうち、石油を2%、石炭を19%、液化天然ガス(LNG)を20%程度に抑え、原子力発電と再生可能エネルギーの割合を大幅に上昇させるのを課題にしています。
2019年に6%だった原子力発電を20~22%に、18%だった再生可能エネルギーを36~38%にするという目標です。水素・アンモニアによる発電の推進も行います。
2012年に導入されたFIT制度(固定価格買取制度)と再生可能エネルギーを電力市場に統合するFIP制度などを活用し、コスト低減を図ることも計画に盛り込まれました。
再生可能エネルギーを導入するため、電力供給を安定させるための技術開発・流通経路の確保なども重要な課題です。
2050年に向けてできること
2050年に現状よりもエネルギーミックスを進め、カーボンニュートラル実現という目標を実現させるには、以下を達成することが必要です。
- 電化を推進する
- 最新技術を実用化する
- 炭素除去技術を活用する
日本の製造業の大半がCO2の排出量が非常に多いため、電化を推進してCO2排出を減らすと共にEV(電気自動車)・FCV(燃料電池自動車)導入を実施中です。
再生可能エネルギー熱・バイオマス・合成燃料などの最新技術の実用化の研究も進めています。
また、炭素除去技術への取り組みも活発化させるなど、2050年に向けたルートを複数準備し、活用していくことも重要視されています。
エネルギーミックス実現のための日本政府・企業の取り組み事例
日本政府・企業は、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17項目のうち、エネルギーミックスに関連する目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に取り組んでいます。
日本政府の取り組み内容から見ていきましょう。
日本政府の取り組み内容
2003年10月に発案された基本計画を折々に見直してきた経済産業省は、2021年10月に第6次エネルギー基本計画を発表し、エネルギーミックス実現への取り組みを示しました。
第6次エネルギー基本計画の柱は
- 2050年カーボンニュートラルと温室効果ガス排出削減目標実現に向けたエネルギー政策のルートを示すこと
- 気候変動対策を進行しながら国のエネルギー受給構造にある課題の克服を目標に『3E+S』への取り組みを示すこと
です。
再生可能エネルギー導入に向けた取り組みの具体例は次の6つです。
- コストの低減・市場への統合
- 再生可能エネルギー事業規律の強化
- 規制の合理化
- 関連する制約の見直し
- 技術開発推進
- 地域と共生を図りながらの適地確保
2050年カーボンニュートラル達成に向け『3E+S』を前提に再生可能エネルギーが主力の電源になるよう取り組めば、日本の電力自給率が飛躍的に向上し、エネルギーミックスを実現でき、カーボンニュートラルの達成に近づきます。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました」)
理想は『3E+S』
理想に掲げている『3E+S』は、『S+3E』と表記されることもあるエネルギー施策の用語です。「3E」は、エネルギーの安定供給(Energy Security)・経済効率性の向上(Economic Efficiency)・環境への適合(Environment)を意味し、Sは安全性(Safety)を意味します。
「安全性を前提に、エネルギーを環境に適合させながら低コストで安定的に供給する」という目標を第6次エネルギー基本計画に盛り込みました。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「第6次エネルギー基本計画が閣議決定されました」)
企業の取り組み事例
多くの企業がエネルギーミックスを視野に入れたSDGsに取り組んでいます。その中から2社の取り組み事例を紹介します。
取り組み事例①株式会社リコー
リコーは、2021年3月、事業で使われる電力のうち、再生可能エネルギー比率の2030年度目標を30%から50%に引き上げました。
2019年度には中国・タイ・日本のA3複合機を組み立てている5工場を全て再生可能エネルギー化しています。
2020年度に実施した再生可能エネルギー導入の取り組みとそのCO2削減効果・再生可能エネルギー電力量もご覧ください。
取り組み内容 | 年間の CO2削減効果 |
年間の 再エネ電力量 |
中南米12カ国の全22販売拠点のRE100化達成 | 約800トン | 3.0GWh |
リコーチャイナのRE100化達成 | 約400トン | 0.6GWh |
山梨電子工業・タイ生産拠点で太陽光パネルを導入、自家発電開始 | 約450トン | 0.8GWh |
Ricoh UK Products Ltd.で太陽光パネルを新設 | 約400トン | 1.6GWh |
(出典:RICOH「リコー、再生可能エネルギー使用率の2030年度目標を50%に引き上げ」)
(参考:RICOH「リコー、再生可能エネルギー使用率の2030年度目標を50%に引き上げ」)
取り組み事例②阪和興業株式会社
阪和興業は、再生可能エネルギー社会の実現とサーキュラー型社会の加速を目標に、バイオマス燃料関連事業を進めています。
取り扱っている主なバイオマス燃料はPKS(ヤシ殻)・ウッドペレットなどの木質性燃料で、PKSの輸入取扱量は日本でトップになりました。2019年には専用の輸送船を導入するなど、安定供給にも努めています。
インドネシアでのウッドペレット製造プランテーション事業にも参画中です。
2022年、バイオマス燃料の製造・流通全体の持続可能性を担保するRSB認証と、バイオマス燃料の持続可能性とトレーサビリティを担保するGGL認証を取得しました。
認証取得をサポートする事業も展開し、認証で必要な基準の教育なども実施中です。
(参考:HANWA「バイオマス燃料の安定供給」)
まとめ
地球温暖化を食い止めるには、エネルギーミックスを推進してカーボンニュートラルを達成するのが最適解です。
主力エネルギーである火力発電の資源に乏しい日本にとっても、エネルギーミックスが発展していくのは喜ばしいことです。
個人としても省エネなどで貢献し、エネルギーミックスとカーボンニュートラルを支援していきましょう。
参考:
経済産業省・資源エネルギー庁「今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」
経済産業省・資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」
Spaceship Earth「【わかりやすく解説】第6次エネルギー基本計画とは2050年カーボンニュートラルの実現に向けた計画」
経済産業省・資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルを目指す 日本の新たな「エネルギー基本計画」
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編集者
maeda